第百五話 清算
今回で一気に亡命を終わらせるつもりが、かなり長くなってしまいました。
暁帝国 東京
「・・・以上が、海戦の経緯になります。」
東郷は、山口からレック諸島沖の経緯を聞く。
「想定外にも程があるだろ。」
想定外とは、海獣の事である。
尤も、海獣の使役など想定出来る筈も無い。
一応、幼少の頃から育て上げれば使役の可能性があると言われてはいるが、机上の空論に過ぎない。
近付く事自体が危険極まり無い事もあり、生体すら殆ど解明されていない。
「それで、損傷した艦はどうなった?」
「かなり酷い状態です。我が国で無ければ、修理出来そうにありません。」
海獣の体当たりを喰らった装甲コルベット艦は、装甲が凹むだけでは済まなかった。
大きな亀裂が複数走っており、一部は水線下に届く程となっていた。
その結果、亀裂から浸水してしまい、一区画が閉鎖される騒ぎとなった。
「損傷の度合いから分析するに、非装甲の木造船では一撃で真っ二つになっていたでしょう。」
「連中は、それを狙ってたんだろうな。装甲艦は、海獣にとっては堅過ぎたみたいだな・・・ところで、ウチの艦が攻撃を受けた場合だが、どの程度の被害が出そうだ?」
「我が艦の装甲でしたら、僅かに凹む程度で済むでしょう。ただ、体当たりの衝撃で電子機器が不具合を起こさないかが心配です。」
いくら艦そのものを頑丈に出来ても、精密機器はそうも行かない。
「結局、攻撃を受けない様にした方がいいって事か。」
「まぁ、これは特殊な例です。今後は、哨戒機を先行させれば良いでしょう。」
海獣と対峙した事で、強力な生物を使役された場合を想定した研究部門が立ち上げられる事となった。
想定される生物には、かつてリティニア共和国で大きな犠牲を出した龍も含まれており、その対処法に大いに頭を悩ませる事となる。
・・・ ・・・ ・・・
神聖ジェイスティス教皇国 教皇庁
リウジネインは、上機嫌に職務をこなしていた。
セイルモン諸島方面からやって来る物資は徐々に増え始めており、景気は更なる回復の兆しを見せ始めている。
街道整備も細かい調整等が残ってはいるが、ほぼ完了していた。
更に、レック諸島へ大規模な艦隊を派遣した事により、強硬論者を宥める事にも成功している。
教皇代理としての地位はこの上無く安定しており、後は艦隊からの戦果報告を待つだけである。
「さて・・・」
一通りの仕事が終わり、執務室を後にしたリウジネインは、シェイティンと合流する。
「順調に行っていれば、そろそろ上陸が行われている頃ですな。」
「これが成れば、今度こそ暁勢力圏の喉元へ刃を突き付ける事が出来ます。」
レック諸島から東へ行けばスマレースト大陸があり、南へ行けばインシエント大陸がある。
暁帝国と対峙するならば、戦略上極めて重要である。
「リウジネイン殿、此度はこの様な物を用意しました。」
シェイティンは、ワインを取り出す。
「これは?」
「イウリシア大陸へ向かう商船に積まれていた物です。何でも、ライマ近郊の畑から取れた果物を使用しているとか。」
「ライマですか・・・」
現在のインシエント大陸ではワインの製造がブームとなっており、特にクローネル共和国製のワインの評価が高い。
グラスに注がれたワインを眺めると、その透き通った色の良さに見惚れる。
呑んでみると、その上品な香りと味わいに、暫く言葉が出なかった。
「・・・素晴らしいですな。」
「全くです。これ程の品を出せる様になったのも、皇帝トライヌスがハルーラ様へ恭順を誓ったからこそでしょう。」
「クローネル帝国は、今もハルーラ様の御加護を受けた大地なのですな。」
「その通りです。だからこそ、我等が解放しなければなりません。邪教徒共の不当な搾取から、あの地の民衆を救わねばなりません。」
彼等は、自身が崇高な使命を負っていると疑わない。
彼等は、ハレル教の長い歴史の一部に過ぎず、その価値観は産まれる以前から死んだ後も変わらない。
戦場に近く、真実に近い者達が悲壮な決意の元で変わって行く一方、戦場から遠く離れた者達は、楽観主義の元で都合の良い真実を組み立て、気付かない内に破滅へと近付いて行く。
・・・ ・・・ ・・・
海戦を終えた艦隊は、生存者を救助した後に帰路へと着く。
あまり気は進まないが、生存者は一応捕虜として扱われる事となった。
捕虜の数は3000人近くにも上り、全員を暁帝国が受け持つ事となり、第二十戦隊と巡視船へ分乗された。
海防艦 汐風
「・・・此処は、何処だ?」
医務室では、意識を失っていた一人の捕虜が目を覚ました。
彼の目には、見慣れない綺麗な白い天井が映っている。
「なるほど、此処が審判の間か・・・」
審判の間とは、ハレル教で語られている死後に訪れるとされている空間である。
そこは真っ白い空間とされており、罪人(異教徒や亜人族)はその罪を洗い流した後に生まれ変わり、信徒(ハレル教徒)はハルーラの元で永遠の幸福を得るとされている。
「此処は、医務室だよ。」
横から聞こえた声に顔を向けると、白衣を着た人間族の男が立っていた。
「貴様は誰だ?」
ドスの利いた声で尋ねると、男はわざと怯んで見せる。
「おー、コワいコワい。それだけ元気があれば心配無さそうだな。」
そこまで言われて、初めて自分が生きていると理解した。
理解した事で頭が冷え、冷静に周囲を見回す。
見た事の無い物が周囲を埋め尽くしており、ハレル教圏とは別の施設にいる事は明らかであった。
不気味に思っていると、一番手前にぶら下がっている管に気付く。
管の通じる先を見て、彼はパニック状態となった。
「何なんだこれは!?俺をどうする気だ!?」
「はーい、シャラーップ。」
唐突に起き上がって暴れようとするが、白衣の男は額へ人差し指を当てる。
いきなり目の前へ突き出された指に動きを止めると、あっという間に寝かし付けられた。
「貴様、何者なんだ!?」
恐怖から上擦った声で尋ねるも、男はまるで動じない。
「んー、君にとって残念な事に、君達の敵の医療関係者だね。」
「敵?・・・!!」
数拍置いて敵の意味に気付き、顔面蒼白となる。
しかし、すぐに憎悪が奥底から吹き上がり、憤怒の表情をする。
「よくも俺の家族を、俺の仲間を・・・!」
動けないながらも憎悪を飛ばすが、まるで動じる様子が無い。
「君の家族は知らないけれど、君の仲間を殺ったのは僕等だろうね。」
「ハッ、大罪を自覚しない邪教徒らしい発言だな。」
「大罪?僕等は、降りかかる火の粉を払っただけだよ?君等が襲って来たから、脅威を排除したに過ぎない。」
「我等の神聖な行いを侮辱するか!?大破壊まで実行した邪教徒とは、本当に血も涙も無い連中だな!」
「大破壊?・・・ああ、核攻撃の事か。あれだって、君等が馬鹿な事をやらかした結果だよ。あんな事、本当ならやりたく無かったのに。」
「真顔で大嘘を吐くな!」
勢いが良いのも此処までであった。
男を纏う空気が、突然変わったからである。
「君等ってさ、何しに此処へ来たのよ?」
「き、決まっている。敬虔なハレル教徒として、聖戦を行いに来たのだ。貴様等など、我等が本気になればすぐにでも立場が逆転するぞ。」
精一杯の虚勢を張るが、状況が好転する事は無い。
「そんな事は聞いて無いんだよ。物騒な物を一杯持ち込んでさ、何をする気だったの?」
「レック諸島の邪教徒共を排除するに決まってるだろう。」
「殲滅でもする気だったのかな?」
「そうだ。尤も、罪を悔い改めてハレル教へ改宗するなら、一生を賭けて罪を償う機会を与えていたがな。」
男は、呆れとも哀れみとも取れる視線を向けて来る。
「何だその目は?今更、後悔しても遅いぞ。貴様等には、結局神罰が下る事に変わりは無いのだからな。」
「そんな事を言っておきながら、よく僕等に恨みを飛ばせるね。」
「・・・何?」
問われた意味が分からず、思わず聞き返す。
「だってそうでしょ?僕等の事は殺す気満々なのに、いざ自分がその立場になったら被害者面して。」
「何度も言わせるな。我等の行いは、聖戦なのだ。貴様等の様な蛮行と一緒にするな。」
「虐殺、略奪、奴隷化、これだけの蛮行をやっておいてどの口が言うのかな?」
「我等の行いが蛮行だと!?」
「そうだよ。まさか、自分達の時だけは違うなんて言わないよね?そんなダブルスタンダードは、世界じゃ通用しないよ?」
「違うに決まっているだろう!」
「何?君等のやる蛮行は、綺麗な蛮行だとでも言いたいのかな?君等に家族を殺された人達の前でも、同じ事が言えるの?」
流石に、黙るしか無かった。
自身が受けた苦痛を受けている者がいると聞いては、それ以上の追及などは出来る筈も無かった。
「幸か不幸か、君は客観的に物を見れる機会を得たんだ。一度、頭を冷やしなよ。」
男はそう言うと、その場から立ち去った。
「俺は、俺達は・・・」
復讐者の自問は続く。
・・・ ・・・ ・・・
アウトリア王国
勇者一行がいない隙に行動を始めた聖教軍指揮官達は、国境付近にまで歩を進めていた。
五つに分かれて進軍する彼等であったが、同じく五つに分かれた勇者一行に遂に補足される事となった。
カレン
エイスティア王国方面へ向かう一隊を担当するカレンは、途中何頭もの馬を使い潰しつつ、時には街道を外れた草原を抜けながら先を急いだ。
「・・・いた!」
国境まで歩いて一日と言う地点で、最後尾の補給部隊へ追い付いたカレンは声を上げる。
「止まりなさい!」
「え・・・カレン様!?」
予想もしていなかった者の乱入に思わず動きを止めたが、誰もが困惑の表情を隠さない。
困惑している者達に構わず、馬を降りて詰め寄ろうとする。
「突然どうされたのですか?いえ、それ以前に大陸外へ出征されたのでは?」
「え、出征?」
到着早々話が噛み合わず、今度はカレンが困惑する。
「何を言ってるの?あたし達は、戦いに行った訳じゃ無いのよ?」
部隊全体が騒つき始める。
「ねぇ、誰に何て言われて此処まで来たのか聞かせてくれる?」
カレンに問われ、近くにいた士官が話し始める。
「我々は、勇者様がセイルモン諸島方面へ出征されたと聞き及んでおります。そして、勇者様はこの先不安定化するであろう隣国の平定を残った我々に託されたと。」
「誰が言ったの?」
「軍指揮官の方々です。」
カレンは、溜息を吐く。
「貴様等、何をしている!?さっさと進まんか!」
そこへ、伝令と思しき騎士がやって来た。
兵士達は慌てて進み始めようとするが、カレンがそれを止める。
「何だ貴様ァ!進軍の邪魔をするとは、銃殺刑モノだぞ!」
馬上からでは顔が良く見えず、相手がカレンだとは思ってもいない騎士は遠慮無く怒鳴り付ける。
「あたしの事が分からない?」
カレンはそう言うと、騎士を見上げる。
「何ィ!?・・・か、カレン様!?」
相手の正体が分かった騎士は、顔面蒼白になりながら慌てて馬を降り、平伏して許しを乞う。
「大変失礼を致しました!どうか、お許し下さい!」
「いいから立ちなさい。それより、此処の指揮官に大至急会いたいのだけれど。」
「ハハッ!僭越ながら、ワタクシが御案内を務めさせて戴きます!」
恐怖のあまり、大仰な口調となっている騎士に若干の疲れを覚える。
暫く後、
「見えて参りました。」
急いで馬を進めると、指揮官のいる本隊が見えて来る。
「貴方は、全部隊へ進軍停止を伝えて。」
「畏まりました。」
騎士へ伝令を頼み、カレンは本隊へ真っ直ぐ突っ込む。
「止まりなさい!」
後方からの突然の声に、最後尾の兵士達は慌てて武器を構える。
構わず近付くと、カレンである事に気付いた兵士達は、今度は慌てて武器を納める。
「し、失礼致しました!」
「指揮官に会わせなさい!」
有無を言わさず指示を飛ばし、指揮官の元へ急ぐ。
「か・・・か、かか、カレン様!?」
対する指揮官は、カレンの姿を認めるなり恐慌状態となった。
パンッ
カレンがビンタをかますと、良い音を立てながら指揮官は吹っ飛んだ。
「カレン様、何を!?」
周囲の者達は狼狽えるが、構わず声を上げる。
「聞きなさい!この男は、重大な命令違反を行ったわ!」
そして、事の経緯を包み隠さず語る。
「そんな・・・!」
「全員、今すぐ撤収しなさい!今なら、この件は不問とします!」
勇者の命令無視と言う重大な行為に加担していたと知った彼等は、大慌てで撤収へと動き出す。
「アナタは、此処で然るべき処分を受けなさい。」
「ヒッ・・・!」
当然ながら、首謀者だけは見逃すつもりは無い。
既に、どれ程無能であるかは身に染みて理解しているのである。
死ななければ分からない馬鹿である以上、これ以上放置は出来ない。
「悔い改めます!どうかお許しを!」
「全然信用出来ないわね。」
カレンは、無慈悲に後始末を終えた
フェイ
カレンと同じく、エイスティア方面の一隊を担当しているフェイは向かっている方角を把握すると、その方角へ向けて一直線で向かった。
峻険な山を走破し、川を飛び越え(文字通り)、森を踏破する。
ハンニバルを想起させる道無き道を超えた末に、誰よりも早く目的の部隊へと追い付いた。
「止まれ、お前等ァ!」
カレンと同じく誰もが困惑の表情を向けるが、トントン拍子に指揮官の元へと案内された。
「オラァッ!」
「え?」
馬上にいた指揮官は、横から唐突に聞こえて来た掛け声に対し間抜けな声を出す。
ドガッ
直後、蹴り飛ばされた指揮官は落馬し、気絶する事となった。
「フェイ・・・様・・・?」
唐突に引き起こされた凶行に、誰も何も言えない。
「全員、良く聞け!」
フェイは、事の真相を語る。
「つ、つまり、勇者様はその様な命令を発していないと?」
「だから、何度もそう言ってるだろ。」
説明がド下手な事が災いし、無駄に時間が掛かった上に当初の緊迫感が霧散した事で、全員が事の重大性を理解するまでに時間を要した。
「で、では、我々はどうすれば!?」
「すぐに戻れ!そうすれば、無かった事にしてやる!」
最初は困惑してばかりいた彼等は、フェイの言を理解すると共に行動を始め、その動きは周囲の者達へも伝播していく。
「フェイ様、それでは指揮官様は如何しましょう?」
「ああ、それはあたしの方でやっとく。」
そう言うと、未だに気絶している指揮官を担ぎ上げ、付近の高台へと向かう。
「意識が無くて良かったな。」
そう言うと、指揮官を高台から落とす。
そのまま振り返る事は無く、フェイはその場から立ち去った。
スノウ
馬を借りたスノウは、バスティリア王国へと向かった聖教軍の行き先を方々で聞きながら、聖教軍の通った街道をなぞりつつ先を急ぐ。
「・・・あれは!?」
漸く最後尾に追い付き、一瞬顔が綻ぶ。
だが、すぐに気を取り直すと、そのまま隊列へと突っ込んだ。
「な、何だァ!?って、スノウ様!?」
「気を抜き過ぎです!すぐに指揮官の元へ案内しなさい!」
いつもとは違うスノウの迫力に押され、訳も分からないままに指揮官の元へと案内する。
指揮官の元へ着くと、周囲の兵士達が明らかに只事では無い空気を読み、態勢を整える。
「何事だ!?」
「通しなさい!」
「す、スノウ様!」
スノウのただならぬ迫力に押され、全員が一斉に道を開ける。
「ん?・・・そ、そんな」
周囲で起きた異変にすぐに気づいた指揮官は、その中心にいるスノウを認めると大きく狼狽える。
ガッ
スノウの蹴りが指揮官の腹へヒットし、指揮官がうずくまる。
尚、スノウの蹴りを見て顔を赤らめた兵士が極少数いたのは別の話である。
「貴方は、何と愚かな事を!」
スノウの怒鳴り声は空気を震わせ、その声が届く範囲にいた者達は沈黙する。
その後、振り返ると事の詳細を説明した。
「そ、それでは全て、指揮官方の狂言であったと?」
「その通りです。」
場を騒つきが支配する。
だが、一人だけその騒つきから外れた者がいた。
「小娘如きが、調子に乗りおって・・・!」
指揮官は、逆切れしてスノウへ襲い掛かる。
ザンッ
だが、スノウは指揮官の攻撃をあっさりと躱し、逆に指揮官の胴体へ深い切れ込みを入れた。
「魔術師だから、近接戦が出来ないと思いましたか?」
言い終わるや否や、指揮官は仰向けに倒れた。
「貴方達、今すぐに帰還しなさい。そうすれば、今回の件は不問とします。」
最早、指揮官には一瞥もくれず、それだけ言うとその場を立ち去った。
シルフィー
「もっと急いで・・・!」
馬術も長時間走り続けられる程のスタミナも無いシルフィーは、付近の領主の元で馬車を調達(強奪)し、先を急がせていた。
「シルフィー様、もうすぐバスティリア王国国境に差し掛かってしまいます!これ以上は危険です!」
「いいから、進んで・・・!」
当初、勇者一行に貢献出来るとはしゃいでいた御者は、今は猛烈に後悔していた。
「・・・いた・・・!」
その様な御者の心境など一切気付かず、シルフィーは見え始めた聖教軍の隊列へ意識を向ける。
「と、止まれー!」
猛スピードで突っ込んで来る馬車に気付いた部隊は、恐慌状態となる。
「止めて・・・!」
「は、はいィィィィ!」
ザザザザザザザザーーーー・・・・
どうにか隊列へ突っ込む前に止める事は出来たが、御者は憔悴しきっていた。
「な、何を考えてるんだ貴様は!?」
そんな御者へ、兵士達は容赦無く槍を突き付ける。
「武器を納めて・・・!」
「ん?・・・シルフィー様!?」
他と同じく、突然の勇者メンバーの登場に困惑する。
「一体、どうされたのですか?」
「時間が惜しい、指揮官の元へ案内して・・・。今すぐに・・・!」
シルフィーの激しい怒りを感じ取った彼等は、青ざめながら案内をする。
「止まれェッ!」
再度、馬車を飛ばして指揮官の元へと乱入すると、やはり武器を構えて囲まれてしまう。
「何者だ!?姿を見せろ!」
指揮官自ら大仰な口調で問い質す。
「ん?・・・し、シルフィー様!?」
しかし、馬車の中からシルフィーが姿を見せると、途端に腰を抜かす。
「私が此処に来た意味、分かってるよね・・・?」
対するシルフィーは、どす黒いオーラを発していた。
誰も動けず、声も出せない。
直後、シルフィーの目の前に火球が出現し、指揮官の左腕へ直撃する。
「ギャアアアアアアアアッ!!」
「シルフィー様、何を!?」
指揮官が燃え上がる左腕を抑えて絶叫する中、流石に黙っていられない周囲の者達はシルフィーを問い質す。
「皆、よく聞いて・・・!」
シルフィーは、事の真相を話す。
「そ、そんな・・・・!」
誰もが、ショックの色を隠せない。
その様子を見たシルフィーは、事の原因である指揮官へ向き直る。
ゴウッ
「ア ア ア ア ア ア ア ー ー ー !」
指揮官の全身が燃え上がり、聞くに堪えない絶叫が響き渡る。
「全員、今すぐ撤収を・・・。そうすれば、今回の事は無かった事にする・・・。」
誰も異は唱えない。
普段は寡黙で気遣いを忘れないが、本気で怒らせれば一転して最凶の存在となる。
この世で最も怒らせてはならないのは、シルフィー
現場を目撃した者はこの事実を胸に刻み、帰路へ着いた。
レオン
山を越え、谷を越え、森を越え、草原を越えたレオンの眼下には、進軍する聖教軍の隊列があった。
更に、嫌らしい笑みを浮かべる指揮官の姿も目に入った。
その姿を見るや否や、レオンは駆け出す。
「テメェェェェェェ!」
ドガッ
大声を上げて隊列へと突っ込み、指揮官を乗っている馬ごと体当たりで吹っ飛ばした。
「指揮官様!」
「おのれェ、なにもの・・・勇者様!?」
全員が、まさかの人物の登場に動揺する。
「お前等、今すぐに戻れ!」
「な、何を仰られますか!?今更、その様な掌返しなど」
「俺は、そんな命令は出して無ぇ!」
「え・・・で、では、誰がその様な命令を・・・?」
レオンは、漸く起き上がった指揮官を見る。
「何と言う事を・・・!まさか、勇者様の名を騙って偽の命令を出したと言われるのか!?」
漸く事態に気付いた指揮官は、顔面蒼白となる。
「い、いや、確かに命令を受けたぞ。間違い無い。」
「では、此処におられる勇者様は何者だと言われるのか!?」
「其奴は、我等を貶めようとする者共が寄越した偽の勇者様だ!」
この期に及んで無駄な抵抗をする指揮官に対し、レオンは怒りを大きくする。
「テメェ・・・!」
膨大な魔力が外へと漏れ出し、多くの者が息を呑む。
「これ程の魔力を持つ偽物がいるものか!やはり、騙したな!」
見苦しい言い逃れは一瞬で破綻し、諸悪の根源へと多くの者が殺到する。
「勇者様、申し訳ありません。如何様にも、我等を罰して下さいませ。」
一人の士官が、後方から聞こえる悲鳴を無視してレオンの前でひれ伏す。
「すぐに撤収しろ。そうすれば、今回の件は不問にする。」
「ゆ、許して頂けるのですか!?」
「そうだ。今すぐに行動に移せ!」
勇者の恩情に多くの者が感動する中、レオンは速やかにその場から立ち去った。
「さて、皆は上手くやったかな?」
最後の清算を果たした五人は、仲間の様子を思いつつ合流場所へと急ぐ。
シルフィーが、かなりダークなキャラになっちゃったなー。
スノウに蹴られたい人、スノウは美脚だよ。




