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第九十九話  技術格差

 新装備紹介です。

 暁帝国  東部諸島沖



「ふふふふ・・・ふはははははは!これ程の物があれば、誰も敵うまい!」

 不気味な笑い声をあげているのは、佐藤である。

 現在の暁帝国は、新装備の開発を積極的に行っており、佐藤はその中心人物となっていた。

 現在、新型ミサイルのテストを行っている最中である。

「評価の結果、成功と見ていいでしょう。」

 佐藤の脇に控えている研究員が、抑揚の無い声で話す。

「当然だとも!この私が携わっているのだから、失敗などする筈も無い!」

「そうですね。」

 佐藤との付き合いの長い研究員は、共通して感情が薄い。

 そうで無ければ、無駄に疲れるからである。



 東京



「佐藤中佐より、テスト成功との報告です。これで、改装が無駄にならずに済みます。」

「佐藤の事だから心配無いとは思ってたが、これで峠は越えたな。」

 東郷は、安心して息を吐く。


 現在の暁帝国では、新型装備の開発とそれに伴う既存装備の改良が急ピッチで進められている。

 特に、この世界では技術格差の大きさから費用対効果が悪過ぎる為、コストダウンは急務であった。

 更に、列強各国への技術支援の結果、暁勢力圏以外での技術発達が徐々に加速している状況にあり、そちらへの対処も早い内から行う必要があるとも結論された。

 今回の開発の目玉となったのが、汎用ミサイルである。

 対空 対地 対艦 全てをこなす事の出来るミサイルであり、既存のミサイルよりも小型化されている。

 このミサイルの採用により、一一式短距離地対空誘導弾 一式空対空誘導弾 一式空対地誘導弾 SM-4

ESSM が順次退役する事となった。

 その一方、これ等のミサイルを使用していた艦や航空機の改良が行われる事となり、各所が忙しい毎日を送っている。

 尚、このミサイルの小型化の影響をモロに受けたのが対潜ミサイルとSM-6である。

 流石に、一種類のミサイルで対潜戦闘能力までは持たせる事が出来なかったのだが、同時に汎用ミサイルのサイズに合わせた新型VLSへの換装が行われる事となり、既存の一式対潜誘導弾が使用出来なくなる事となった。

 一式対潜誘導弾は小型化した改良型を開発出来たが、SM-6はそうも行かない。

 この為、新型VLSにはSM-6専用セルが設けられる事となり、少し特徴的な見た目をする事となった(ミサイルの小型化と単一化によって、セル数は増加している)。

 しかし、対艦用として使用する場合、小型軽量のミサイルでは大型艦相手には火力不足と見做されている。

 そこで、巡洋艦クラスまでしか想定していなかった既存の対艦ミサイルを更新する形で、戦艦クラスを撃沈可能な新型対艦ミサイルが開発された。

 尚、弾頭重量増加によってトップヘビーになり掛けたのは別の話である。

 このミサイルは、一二式地対艦誘導弾の後継としても運用される事となっている。

 しかし、空対艦誘導弾としては重量増加の問題から航空機搭載が困難となっており、軽量化した改良型が運用される事となった。

 もう一つの目玉が、歩兵装備である。

 勇者一行の力に恐れを為した軍上層部の強い圧力によって形となった物であり、特殊作戦連隊へ先行配備された各種装備を一体化し、集まった情報からより実戦へ即した形としている。

 現代の先進国の軍が、将来的な目標としている形を一足先に実現したと言える(米軍のソルジャー2025を無骨にした形)。

 防御面でも優れたものがあり、ガスマスクが不要となる他、部位によって多少の差があるとは言え、6.8ミリ弾をある程度防ぐ事も出来る。

 また、センサーによって被弾箇所が瞬時に分かる様になっており、負傷した際の治療の効率も上げる事が出来る。

 最終的には、光学迷彩を組み込んだ発展型を開発したいとしている。

 しかし、コスト面での問題が立ち塞がっており、全軍へ配備するには相応の時間が必要となっている。


「これで、物量戦を挑まれても十分に対抗出来る体制が整うな。」

「全くです。いくら我が国が技術面で圧倒しているとは言え、例えば1000機を超える航空機を一度に差し向けられたら押し切られる危険があります。陸軍も、歩兵に関しては近代軍と大して違いはありませんでしたから、防御面で此処までの改革が出来たのは大きいです。」

「だが、他国が使ってるライフル弾を防げるのか?」

 一発当たりの単純な威力は、アサルトライフル以前に使用されていたボルトアクション(又はセミオート)ライフルの方が高い。

 同時に、口径もより大型であった。

「試しにエンフィールドライフルで撃ってみた所、貫通したとの事です。」

「やっぱりか・・・」

 銃弾を防ぐのは、現代技術を以てしてもほぼ不可能である。

「しかし、威力はかなり減衰されていたとの事です。恐らく、数発同時に被弾したとしても、処置を間違わなければそうそう簡単に死亡する事は無いでしょう。」

 想像したくも無い事態だが、いくら減衰されようとも一般人ならば殆どが即死しそうな状況である。

 あくまでも、鍛え上げられた軍人が受けた状況を想定しての言葉に過ぎない。

「海空軍の警備関係でも、導入したいとの声が上がっています。」

「まぁ、歩兵と大して変わらないから、出来るならやった方がいいだろうな。」

 暁帝国は、現状に決して満足する事は無く、更なる強化に邁進していく。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  国防部



「それでは、まずは海軍から報告して貰おうか。」

「了解した。」


 センテル帝国では、暁帝国との国交成立から始まった改革が、ノーバリシアル制裁を経て更に強く推し進められており、一定の成果が上がっていた。

 まず注目されているのが、センテル級に続く新型戦艦である。

 34.3センチ連装砲を四基装備しており、新開発された高角砲とM2機関銃を大量に装備する事で、これまでとは比較にならない程に対空能力が向上している。

 一番艦は既に進水しており、<シンウォルトン>と命名されている。

 シンウォルトン級は、8隻が建造予定となっている。

 これにより、一線級の戦艦はセンテル級と合わせ、16隻体制となる。

 同時に、二等戦艦はソーラ級を充てる事となった。

 しかし、センテル級以降の艦と比較すると性能が低過ぎる為、順次改装を実施する事となった。

 この様な流れの中、ソーラ級以前の艦は急速に退役が進み、現在では10隻にまで減少している。

 尚、退役した艦の一部は、アルーシ連邦 ピルシー帝国 モアガル帝国 へと売却され、各国が戦力強化と技術習得を行っている。

 戦艦以外で特に力が入れらているのが駆逐艦である。

 駆逐艦は、小型で量産が利き、非常に安価である。

 また、昨今の大型化によって外洋航行を行えるようになり、減少傾向にある主力艦を物量面から支える艦種となる事が期待されている。

 その結果、1000トン級駆逐艦を拡大改良した、1200トン級駆逐艦が大量建造されている。

 1000トン級駆逐艦は、元々実験の意味合いが強かった事もあり、少数建造に留まっている。

 その為、以前から配備されていたフリゲート艦は現役に留まっていた。

 しかし、此処に来て本命である新型駆逐艦の建造が始まった事により、フリゲート艦は急速に数を減らし始める事となった。

 ところが、フリゲート艦の完全な退役は、各所から反発の声が上がっている。

 フリゲート艦は、戦闘力や外洋航行能力には劣るが、小型で小回りが利く事から沿岸警備を行うには最適の艦種となっていたのである。

 そこで、フリゲート艦の後継となる<警備艇(仮)>の設計が始まった。

 現在は、未だに複数の案を出し合っている最中であり、当分の間は既存のフリゲート艦が続投する見込みとなっている。

 その一方、大きな反発も無く歓迎されているのが、軽巡洋艦である。

 主砲の統一により、整備 補給 統制 コスト の四面で多大な利益を齎し、基本性能も防護巡洋艦を大きく上回っている。

 しかし、駆逐艦の増勢によって肩身が狭くなっているのも確かであり、建造数は少なくなる見込みとなっている。

 この動きを残念がる声は大きいが、駆逐艦よりも性能面で上回り、使い勝手も良い艦種と見做されている事から、様々な用途で扱う為に複数の実験艦が精力的に建造されている。

 軽巡洋艦とは逆に、時代の流れに取り残されているのが装甲巡洋艦である。

 かつては、戦艦に次ぐ火力と装甲を持ち、速力や航洋性では戦艦を上回る性能を持っていた海軍の要とも言える艦種であったが、今や完全に陳腐化してしまっている。

 主力艦として見れば、火力と装甲が戦艦に次ぐのは変わらないが、センテル級と比較すると大きく劣っており、足並みを揃えられる程優れているとは言えなくなっている。

 速力と航洋性も、センテル級、シンウォルトン級共に23ノットを発揮可能となっており、大型化した分安定性も高くなっている。

 21ノットの装甲巡洋艦では足並みを揃え辛く、高い航洋性も新型艦と比較すればそれ程高いとは言えない。

 そして補助艦として見た場合、明らかにオーバースペックでありコスト的にも適しているとは言えない。

 この様に、帯に短き襷に長しな状況となっており、他艦種の更新が終了した暁には、装甲巡洋艦は消滅するか単なる予備兵力となるしか無くなっていた。

 尤も、他艦種が大型化に比例して一隻当たりの乗員数が拡大している事もあり、此処で多くの乗員を必要とする装甲巡洋艦の改革に踏み切れる程、人員に余裕が無いと言う事情も存在する。

 そして、現在最も注目を集めている空母は、一隻の追加建造が予定されているのみとなっている。

 これは、運用ノウハウの欠如によって急速な規模拡大が不可能だからである。

 現状は、時間を掛けて人員育成を行わなければならなかった。


「とまぁ、海軍はこんな感じだ。」

 フレッツは、報告を終える。

「・・・取り敢えず、凄く大変である事は分かった。」

 アーノルドは、陸軍の道を選んだ自分の選択が正しかった事を確信した。


 陸軍でも大規模改革が行われているが、その負担は海軍よりは小さい。

 歩兵装備の改定 自動車化の推進 ギーグの後継戦車の開発 襲撃機の開発 が主な改革となっている。

 襲撃機とは、近接航空支援を専門とする機種であり、JU-87やIL-2が有名である。

 空軍と多少揉めはしたが、迅速な対応を行うには陸軍の管轄であった方が良いと結論された。

 その一方、未だに揉めているのが戦車である。

 騎兵隊の反発は未だに凄まじく、戦車どころかそれ以外の自動車化にも強硬に反対する程となっている。

 尚、現在自動車化を推し進めているのは、補給隊と砲兵隊である。

 特に迅速さを求められる兵科である為、当然の判断と言える。

 しかし、自動車化を行う前は馬を利用する事で成り立っていた事もあり、騎兵隊が反発を始めたのである。

 やはり、理性的とは言えない論理展開で動いている事もあり、説得は困難を極めていた。

 だが、それ以外では理解を得られている事もあり、改革そのものを妨害するには至っていない。

 また、国防部創設に反発する動きに乗じていた者が多数おり、その際の各所の影響力の変動の煽りをモロに受けてもいた。

 この様な事情から、騎兵隊そのものの削減すらも止める事が出来ずにいる為、問題解決は時間の問題となりつつあった。


「騎兵隊の連中は、本当に煩くて敵わんよ・・・」

 アーノルドは、溜息を吐く。

「解決の目途が立っているだけマシでしょう。此方は、それ以前の問題なんですから。」

 今度は、コリンズが口を開いた。


 空軍は、そもそもの規模が小さい事から、如何に拡張を行うかが目下最大の問題となっている。

 現状、フィースト改の後継となる新型戦闘機の開発を行っているが、航空機の生産体制自体が一部でしか成り立っていない為、センテル帝国の航空行政そのものを牽引して行かなければならない立場ともなっている。

 空軍の規模の小ささに不満を覚えている者が非常に多い事は事実ではあるが、そもそもの航空技術の蓄積自体が不足している現状では解決しようも無い。

 問題解決の糸口は、時間しか無いと言う有様であった。


「此方は、単に技術習得を行えば良いと言うだけの問題ではありません。航空機産業の育成、整備を行わなければなりませんから、短く見積もっても解決までには二十年は掛かります。」

 軍部であれば、大金を突っ込んで比較的短期に一定の成果を出す事は可能だが、民間はそうも行かない。

 そして、軍部先行はあまり褒められた体制では無い。

「航空機は、陸海軍でも必要となっている分野だ。いくらかの協力は出来るだろう。」

「色々と忙しい身だが、無視出来る問題では無いな。」

「御二人共・・・!」

 三人は、祖国を新たな段階へと上げるべく、協力して行く事となった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 アルーシ連邦  サクルトブルク



「では、報告を頼む。」

 大統領府で、フレンチェフが音頭を取る。

「解りました。」

 答えたのは、ノシフスキーである。


 アルーシ連邦では、センテル帝国よりも小規模ながら、更なる改革が進行している。

 かつて、2000隻を超えていた戦列艦は今では1000隻を下回り、蒸気コルベット艦や蒸気フリゲート艦に取って代わられている。

 間も無く、両艦種合計500隻に達しようとしているが、軍部では危機感を募らせていた。

 近代艦の大規模整備は順調に進んでいると言えるが、その実情は戦列艦を一段階進化させた様なものである。

 射程、精度共に以前よりも性能は向上しているとは言え、舷側へ小口径砲を多数並べている現状は変わらず、近代国家として格段の差を見せ付けるセンテル帝国に大きく後れを取っている事実は変わらない。

 技術面で近代化を成し遂げた事でその差をより正確に理解したアルーシ連邦は、遂に装甲艦の建造に着手した。

 とは言え、いきなりその様なモノを建造した所で成功する筈も無い。

 建造された装甲艦は、外洋航行能力の皆無な欠陥品として出来上がった。

 此処で、軍部では暁帝国を頼ろうとした。

 しかし、暁帝国依存を警戒するフレンチェフは、この動きを歓迎出来なかった。

 だが、このまま現状を甘んじて受け入れる事は出来ない。

 その為、他の手段を模索する事となった。

 この展開に不満を示す者は少なくなかったが、意外な所から突破口を見出した。

 センテル帝国で、多数の戦艦が順次退役を開始していたのである。

 アルーシ連邦から見れば不可解極まり無い動きだが、この機会を逃す手も無い。

 直ちに購入の打診が行われ、戦艦カタリナを購入した。

 だが、購入して判明したセンテル帝国の実情は、軍部を戦慄させた。

 退役をさせた事から、旧式であろう事は予想出来ていた。

 だが、その旧式具合が想像していたよりも酷い事が判明したのである。

 センテル級は、遂に国外へも影響を及ぼす段階へと入ったのである。

 アルーシ連邦以外では、モアガル帝国とピルシー帝国が旧式戦艦を購入し、同じくセンテル帝国との差に愕然とした。

 ともあれ、これによって装甲艦へと段階を踏む準備を整えて行く事となったが、実現するのはまだ先の事である。


「装甲艦が建造出来るまで、どの位の時間が掛かるのだ?」

「少なくとも、十年は掛かります。熟練の技術者を一ヶ所に集めれば、建造自体は二年程度で着手出来るでしょうが、それでは量産など出来ませんし、国全体の発展も見込めません。」

 フレンチェフは、少し憂鬱になる。

 十年も経てば、技術発達が急速な近代国家ならば、更なる段階へと踏み込んでいてもおかしくない。

 様々な支援を受けておきながら、未だに大きく後れをとっている現状を理解し、悪寒すら感じる。

「だが、立ち止まる訳には行かんな。必要な物はすぐに要請して、なるべく急いでくれ。」

「了解しました。」

 アルーシ連邦も、近代国家として技術発達を加速させ始めた。



 暁帝国の装備が、近未来に突入しちゃいました。

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