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第九十八話  興奮の後

 勇者を出したせいで、無駄に難易度が上がっちゃった。

 神聖ジェイスティス教皇国  教皇庁



「ですから、これはハルーラ様から与えられた千載一遇の機会なのです!聖戦の布告を行う事に何の問題がありましょうか!」

「聖戦は、布告する為だけにあるのでは無い!開戦に当たり、その戦争の正当性を示す為にあるのだ!あの二ヶ国は、その様な重要な手順を一切無視した背教者と見るべきだ!」

「何を恐れる事があるのですか?亜人共の殲滅は、我等ハレル教徒の至上命題ですぞ。その至上命題の達成を行おうと奮闘している彼等を背教的だと糾弾するのは如何なものか?」

 教皇庁では、枢機卿が一同に会し独断行動に対する聖戦の布告を行うかどうかの議論を行っていた。

 両国が、教皇庁の存在を無視した事に対して不満を持つ者は少なく無く、議論は紛糾していた。

 しかし、全体的には賛成派が優勢であった。

 亜人族の殲滅が目的の一つと化している事も大きいが、方々で独断行動に追従する動きが見られる事が一番の原因であった。

 この動きにより、リウジネインの恐れていた労働力の出し渋りが発生しているが、賛成派は追い風に乗っていると言える状況にあり、あまり強くは出られず反対派は劣勢に追い込まれ続けていた。

「教皇代理、貴方の御意見をお聞きしたい。」

 指名されたリウジネインは、脂汗を掻きつつ口を開く。

「皆の意見は実に参考になる。だが、結論を出すには更に深い議論が必要になるとも考える。」

「教皇代理、私は貴方がどう思われているのかをお聞きしたいのです!」

 賛成派は非難の目をリウジネインへ向けるが、そこへシェイティンが割って入る。

「落ち着きなされ。その様に興奮されては、出せる結論も出せなくなりますぞ。協議は一旦終了して、また明日再開しましょう。」

 不満気な表情をする者は何人もいたが、紛糾した為に意見を纏めたい者も多く、ひとまずこの場は収まった。

「そろそろ限界だな・・・信徒の不満は、いつ爆発してもおかしくない。」

 枢機卿が全員退室した会議室で、リウジネインは憂鬱に呟く。

「一刻も早い聖戦を望んでいた我等が、トップに立った途端に逆に聖戦の抑制を行う羽目になるとは、何とも皮肉な事ですな。」

 現在の彼等は、予定通り北方の戦況を見守っている状況にある。

 結果次第ですぐにでも結論を出すつもりでいるが未だに何の音沙汰も無い為、逸る賛成派の枢機卿達を抑えつつ度々会議を中断する事で時間稼ぎを行っていた。

 もっと強力に抑え込みたいのが本音ではあるが、バスティリア王国とエイスティア王国の動きは各国を刺激しており、大きな不満が蓄積している現状では下手に抑制の動きを取れない事も事実であった。

 今はただ、耐えるしか無い。

 かつてホノルリウスがやっていた方策を敵対していた二人が取らざるを得ないとは、皮肉としか言いようが無かった。



 コンコン



 そんな憂鬱な二人の元へ、連絡員がやって来る。

「教皇代理、密偵からの報告が届きました。」

「待ちかねたぞ!それで、どうなったのだ!?」

 待ちに待った結果に、二人は色めき立つ。

「侵攻は、両国とも失敗に終わった模様です。」

「何と!」

 敗北したと言う事は、内部の安定化を優先する事が出来ると言う事である。

 リウジネインは安堵するが、それでも心境は複雑であった。

「バスティリア王国軍は全滅したとの事であり、詳細は不明です。エイスティア王国軍は、約四割の損害を負い、敗走したとの事です。」

 二人は、想像を絶する大きな被害に絶句する。

 その後も分かる範囲で報告が行われ、不可解極まり無い内容に大きく動揺した。

「何かの間違いでは無いのか?とても信じられん・・・」

 半ば放心状態となるが、いつまでもそうしている訳には行かない。

「と、とにかく、当初の予定通りに動きましょう。」

「そ、そうですな。」

 この報せは、ハレル教圏の技術レベルを考えれば相当迅速に伝えられたが、それ以上の速度で周知している勢力が存在する事を二人は想像すら出来なかった。




 ・・・ ・・・ ・・・




 センテル帝国  小ウォルデ島



 最大の懸案であったノーバリシアル神聖国の王族の処遇が決定された事で、島全体の緊張は大分緩和されていた。

 だが一部では、より張り詰めた空気が形成されていた。

「さて、私は暁帝国外務大臣を務めております、吉田と申します。」

「お前等の素性に興味は無い。スノウの顔を立てて会ってやっているだけだ。」

 レオンは、そのまま射殺さんばかりの鋭い目で吉田を睨む。

 シルフィーとカレンも同様であり、スノウとフェイはその様子を冷や汗を掻きながら眺める。

(何かあったら、あたし等は終わりだぞ。頼むから、何事も無く終わってくれ!)

 何かあれば、何処からとも無く砲弾やミサイルが飛んで来る事間違い無しである。

 迎撃能力を持っているとは言え、飽和攻撃が可能な程の物量が存在している事も二人は理解している。

 その様な事を知らない三人は、二人の反応を過剰反応としか思っておらず、強気に押す事しか考えていなかった。

「もしや、例の資料の受け渡しが出来ていないので?」

 三人の態度が行き過ぎている事に対し、吉田は軽く探りを入れる。

「いえ、既に見せてあります。」

「と言う事は、信じては頂けなかった様ですね。」

 スノウの返答に、肩を竦める。

「あんな紛い物で、俺達をどうにか出来ると思ったら大間違いだ。」

「では、その紛い物の続きを見て頂きましょう。」

 そう言うと、彼の部下が準備を始める。

「何をする気なのかしら?」

「止めなさい!」

 カレンとシルフィーが武器へ手を掛けるが、スノウとフェイが止める。

 動きは止めたが殺気は遠慮無く発しており、対峙している側は生きた心地がしなかった。

「我が国には映像技術がありましてな、先にお渡しした資料にも記載しておきましたが、総帥拉致未遂で捕えた工作員に関する映像を見て頂きます。」

 映像とは一体何なのかが全く理解出来なかったが、その映像が映し出されると一切の理屈が吹き飛んだ。

 時間的な問題で、これまで公開された動画ではカットされていた部分まで公開された。

『我等の行いは、常に正しいのだ!』

『邪悪な思想によって汚染されてしまった貴様等を浄化しようとしているに過ぎない!』

『我等の邪魔をする者は、全て排除されて然るべきなのだ!』

 極めて身勝手な論理展開が繰り返されており、その場にいる全員の気分が悪くなる。

「・・・以上になります。」

 三人は動揺こそしていたが、相変わらず憎悪の視線を向けていた。

「本当の意味で邪悪な相手と対峙するのは、これが初めて・・・。」

「そうね。これだけの技術を持っていても、こんな事にしか使えないなんてね。」

 ハレル教圏がこれ程の事を行っていたとどうしても信じられない三人は、捏造であると断じて糾弾を始める。

「どうやら、再度此方に被害が出なければ信じては頂けないようですね。」

「・・・何を言っている?」

「どうせ、自作自演でこっちから攻撃を仕掛けた様に演出する気でしょうね。」

「これだけの技術があるなら、それ位すぐに出来ると思う・・・。」

(今すぐに気絶出来たら、どれだけ楽な事か・・・)

 あまりにも険悪で深刻な展開に、フェイは忍耐が限界に達しようとしていた。

「自作自演など、やる必要はありませんよ。現在沖合に停泊している艦隊が警戒を止めれば、すぐにでも行動を起こす者達がいます。」

 そう言うと、録音された枢機船での一幕が公開された。

 寝耳に水な展開に、フェイは今度こそ卒倒しそうになる。

「こ、こんな紛い物まで作ってあったのか!?」

「我が国は、折角ハイエルフの件が解決したと言うのに、此処で新たな火種が投下される事は望んでおりません。ですが、そちらはどうでしょうか?」

「何が言いたい?」

「確認をすれば、紛い物かどうかはすぐに分かると言う事ですよ。この会話は、昨日のものです。」

 五人は、顔を見合わせる。

 三人にとっては、どの様な証拠を出されようとも信じるに足る根拠が無い。

 だが、裏付けが可能な証拠を出されてしまえば、少なくとも確認しない訳には行かなかった。

「我が国には、まだ議論すべき問題が残されております。その為、もう暫くはこの島に滞在する事になります。また顔を合わせたくなったら、いつでもお呼び下さい。」

 それだけ言うと、動揺から抜け切らない五人を残して退室した。


 翌日、


 大多数の代表団が帰路に着き、残っているのは列強国のみとなった。

 ある意味、王族の処遇よりも大きな問題が待っているのである。

「さて、それでは棚上げされていた亡命問題について協議を行おうか。」

 閑散とした大会議堂に、議長の声が響く。

 中央には、レスティ達が座っていた。

「早速始めたいところだが、神聖ジェイスティス教皇国の参加者が二人だけとはどう言う事だ?」

 議長の言う通り、その場にはスノウとフェイしかいなかった。

「実は、船団の方で問題が発生したとの報告がありまして、その対応の為に残り三名が一旦戻っております。」

「ふむ・・・迅速に対応された様だな。だが、出来れば事前に連絡が欲しかった。万が一にも、他に被害が出る様な事があってはならんからな。」

「以後、気を付けます。」

「それで、発生した問題と言うのは?」




 ・・・ ・・・ ・・・




 小ウォルデ島沖  枢機船



 昨夜の会談結果の確認の為、レオン以下の三人は枢機船へと戻って来ていた。

 尚、レスティ達の事を知らない事から、無意味な混乱を避ける為にスノウが仕向けたと言う裏事情も存在する。

「勇者様ではありませんか!お早いお帰りですな?」

「ん、スノウ様とフェイ様の御姿が見当たりませんが、如何なされました?」

「幕僚を全員集めろ。」

「は?」

「幕僚を全員集めろ。」

 船員の言葉には一切耳を貸さず、一言だけ発する。

 逆らってはいけない空気を察した船員達は、直ちに応じた。



 第零艦隊



 阿部は、笑いが止まらなかった。

『馬鹿野郎共が!!』

『し、ししかかし、この千載一遇の好機を逃す訳には』

『黙りなさい!あんた達は、やってはいけない事をやろうとしているのよ!』

『そんな・・・ハルーラ様より与えられた好機を何と』

『下らない妄想を吐くのはもうやめる事・・・!出来ないなら、解任する・・・!』

 指向性マイクからは、怒り狂った勇者メンバーの声が漏れ聞こえて来ていた。

「この様子だと、吉田大臣は上手くやったみたいじゃ無いか。」

「そうみたいですね。これで、襲撃を受ける心配はほぼ無くなりましたね。」

 阿部に限らず、全員が聞こえて来る会話に機嫌を良くしていた。

「それにしても、よく通る声ですね。演説させたらさぞ効果的でしょうね。いや、歌手にするのもいいかも。」

「ヒトラーみたいな振り付けをさせれば、勇者の称号との相乗効果で凄い事になりそうだな。」

 聞こえて来る元気の良い声とは裏腹に、三人は意気消沈していた。

 自陣営の過失が、敵対勢力によって明らかとなってしまったのである。

 しかも、それを糾弾する訳でも無く、ただ自身の信用の為に利用する有様である。

 自陣営の醜態と、何が何でも滅ぼそうとしている敵からの想像もしていなかった温情により、彼等のプライドはボロボロとなっていた。

「それにしても、相当に鍛えられていますね。怒り方が手馴れていますよ。」

「盲目的な連中が多過ぎるから、理性的な連中は苦労を強いられてるんだろうな・・・」

「こんな連中に詰め寄られたら、テロリスト共も動きを止めざるを得ませんね。」

「一時的にだろうがな。」

 そこへ追い打ちを掛ける様に、彼等の知らない所で亡命に関する話題が出ているのである。

 進んでも戻っても、勇者一行に待ち受けるのは地獄しか無い。

『司令、使節団からハレル教圏側の動きについての報告が欲しいとの事です。』

「分かった。」

 阿部は、早速連絡を取る。




 ・・・ ・・・ ・・・




 小ウォルデ島  大会議堂



「どうやら、上手く静止出来ている様です。」

 阿部からの報告を受け、吉田はそう結論を出す。

 スノウから事の詳細が知らされ、一同は肝を冷やしたが、大事にならなかった事に安堵する。

「分かりました。では、協議を続けよう。」

 議長が口を開き、協議が続行された。


 暫く後、


「うーん・・・」

 誰もが唸るしか無かった。

 現在のセイキュリー大陸は、近付く事自体が危険と認識されている。

 更に、ハイエルフ族であるレスティ達を船へ乗せるとなると、船員が凶行に及ぶ危険も存在する。

 移動手段が無ければ、亡命すら出来ない。

 八方塞がりと言える状態に陥っており、誰も何も言えなくなっていた。

「レスティ殿、亡命先だがケミの大森林で無ければダメなのか?」

 堪らず、議長が尋ねる。

「最悪、他でも良いと考えてはいますが、受け入れ先があるかどうか・・・」

 ぐうの音も出ない意見に、再度沈黙する。

「スノウ殿、ケミの大森林の分布は把握しておりますかな?」

 此処で、吉田が口を開く。

「いえ、内陸との境界線以外は、殆ど把握出来ていません。」

「海沿いも?」

「その通りです。あの辺りは、通商路からも外れていますので。」

「吉田代表、仰っている意味が理解出来ないのですが?」

 議長が口を挟む。

「この際、我が国が送り届けるのが最善かと思いましてな。」

「そ、それはいくら何でも・・・!」

 誰も真に受ける事は無かった。

 ハレル教圏と最も激しく対立している暁帝国が動いてしまえば、最善どころか最悪の結果となってしまう。

「通商路から外れているのであれば可能です。」

 吉田は、説明を始める。

 あまりにも危険度が高いケミの大森林は、スノウの証言通りまともな探索すら行われていない。

 その為、森が何処まで広がっているかも把握出来ず、森の西側も手付かずとなっていた。

 更に、通商路からも微妙に離れた地点にあり、利用価値が見出されずに沿岸の開発を行う動きも全く存在しない。

 また、森が何処まで広がっているか把握出来ていない為、沿岸に拠点を築いても破壊される事を恐れていると言う事情も存在する。

 この様に、ほぼ未踏の地である以上、そこで活動を行っても気取られる危険は限り無くゼロに近く、その様な未開拓地域で最も自由に動けるのは暁帝国である。

「ですが、そこへ向かうまでが問題です。商船が多数往来しているのですから、途中で見つかってしまうでしょう。」

 レスティの意見に、全員が頷く。

「その心配はありません。我が国は、目視圏外の物体を探知する手段があります。見付かる前に避ける事など造作もありません。尤も、ハレル教圏の協力があれば更に良いのですが・・・」

「公に協力する事は不可能ですが、私達個人が協力する事は出来ます。」

 スノウの即答に、吉田は満足そうに頷く。

 レスティ達は、多少悩んだ末に結論を下す。

「分かりました。では、よろしくお願いします。」

「それでは、暁帝国によって送り出すと言う事で宜しいかな?」

 議長の問いに、異論は出なかった。

「では、決定としよう。」

 議長の言葉に、開放感が駆け巡った。

 突発的に発生したトラブルによって引っ掻き回された世界は、漸く落ち着きを取り戻そうとしていた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 バスティリア王国



 ハットバークは、頭を抱えていた。

 各地の領主から入れ代わり立ち代わりに使者が駆け込んでおり、免税を含む措置を要求されているのである。

 ネルウィー公国侵攻によって最も大きな損失を出したのは、各地の領主達であった。

 軍とは言え、末端の兵士はあらゆる領地から徴兵された農民である。

 しかも、働き盛りの年齢であるた為、領主にとっては大事な労働力でもある。

 その労働力が一気に失われてしまい、不満の声がこの様な要求となってハットバークの元へ殺到しているのである。

 出会い頭に国王へこの様な要求を出すなど不敬もいい所であるが、そもそもの発端は国王にあり、一度に大勢の領主を怒らせているのだから強くも言えなかった。

 しかし、出征によって多額の出費が発生している為、免税しようものなら財政難で国が傾いてしまう。

「教皇庁に出資して貰うしか無いか・・・」

(連中に頭を下げるのは気に食わんが、向こうも此方の存在を軽視出来まい。)

 地理的関係から、バスティリア王国はハレル教圏でもかなり優遇されており、多くの支援を受けて来た。

 今回は、教皇庁の存在を無視する行動に出てしまったが、この地が不安定化する様な決定は出来ないだろうと楽観してもいた。



 コンコン



「失礼致します。」

 その様な事を考えていると、焦った表情の宰相がやって来た。

「陛下、教皇庁の使者がお見えになっております。」

「何?」

 そう言うや否や、許可も無くその使者が押し入って来た。

「陛下、教皇庁より教皇代理の言伝を持参して参りました。」

「な・・・」

 使者は、ハットバークを見下す様な態度を一切隠さず、教皇代理の意向が書かれた手紙を取り出した。

 あまりにも不遜な態度に呆気に取られ、何も言えずに手紙を受け取る。

「・・・!!」

 その手紙には、今回の独断行動を糾弾する内容が書かれていた。

「教皇代理は、最悪の場合には陛下を背教審理にかけなければならないと考えておいでです。」

「そ、そんな・・・!」

 ハットバークは、教皇庁からも完全に見捨てられた事を理解した。

「私は、背教的行為など一切していない!」

「では、何故貴国の侵攻軍は全滅したのでしょう?」

 それ以上は何も言えなかった。

 まさか、既に教皇庁が戦況を把握しているとは想像もしておらず、このままではどの様な誹りを受けるか分かったモノでは無い。

 ハレル教圏に限らず、今回の様な大敗北を喫してしまえば、敵と通じていると勘繰られてしまうのはよくある事である。

「それでは、私はこれで。」

「ま、待ってくれ!私の言葉を教皇代理へ伝え」

「私は、教皇代理の言伝をお伝えしに来ただけです。何か申し開きがあるのでしたら、貴方自身が教皇庁へと出向くしかありません。」

 殆ど死刑宣告の様な物ではあるが、ハットバークに選択肢は無かった。


 その後、教皇庁へと出向いたハットバークは、幸いにして背教審理にかけられる事は無かった。

 当初想定されていた様に国境沿いの国家である為、教皇庁としても不安定化させる訳には行かないと言う事情が存在したのである。

 しかし、意図していた支援を引き出す事は出来ず、各地の領主を納得させる事は出来なかった。

 そして、不満が爆発した領主達は、とうとう実力行使に打って出た。

 ハットバークは国王の座から引きずり降ろされ、殺されはしなかったものの、地方で隠居の身となった。

 此処に至り、漸く出征自体が間違った判断であった事に気付き、後悔の念に苛まれる余生を送る事となる。

 そして、ハットバーク打倒までは協力し合っていた領主達は、新たな国王となるべく対立を始め、結果的に戦国時代さながらの光景を繰り広げ始める事となった。

 対するエイスティア王国は、途中で撤退した為にバスティリア王国程深刻な状況とはなっていなかったが、政情不安な状況下で出征を強要し、多大な損失を出した事で不満が蓄積していた。

 そして、戦後処理で撤退を命じた指揮官を死刑とする事が決定すると、強硬策を継続されると見做した各地の有力者が反旗を翻す事態となった。

 指揮官は救助されたが、この顛末によってエイスティア王国は真っ二つとなり、内戦が勃発した。

 この動きはハレル教圏全体に動揺を与え、ハレル教によって保たれて来た結束が綻びを見せ始める事となった。



 何をやっても衰退していく国って、こんな感じなのかな。

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