第一話 始まり
初投稿です。
此処は、地球では無い宇宙でも無い何処かの空間。
その謎の空間に、ただ一人佇む謎の人物がいた。
「駄目だわ、誰も反応すらしてくれない・・・」
此処最近、ひたすらに同じ事の繰り返しであった。
しかし、いくらやっても望ましい結果にはならない。
「もう時間が無いのに・・・!」
一向に好転しない事態に、焦りや苛立ちが募る。
「次は、あそこね。」
しかし、止める訳には行かない。
「お願い、誰か答えて・・・!」
恥も外聞も無く、目を閉じて弱々しい存在に縋り付こうとする。
「・・・・・・ッ!?」
暫くそうしていると、これまでに無い反応を見付ける。
慎重に調べると、やはり此方の望ましい反応が返って来る。
「見付けた!」
そう叫ぶと、早速行動へ移った。
・・・ ・・・ ・・・
日本 某所
「今日も疲れたー・・・」
そう呟いた彼は、何処にでもいる大学生。
只今、帰宅中である。
「それにしても、最近は気が滅入るニュースが多いな。」
最近話題になっている話は、ネットもテレビも海外の紛争やテロの激化、周辺情勢の緊迫化が中心である。
ミリオタである彼は、この手の話には敏感である。
隣国の軍艦が領海侵犯したなどと言う話が出れば、決して他人事としては見れない。
日本だけが安全などと言う認識が幻想に過ぎない事を理解しているのである。
「問答無用でミサイルをブチ込めればいいんだけどなー。」
それが出来ないからこそ、周辺国は攻撃を受けない範囲で色々とやらかして来るのである。
しかし、それが解ったところで彼に出来る事は何も無い。
不安から逃れる為に、単独行動が多いにも関わらず口数が多くなる。
「腹減ったー、帰る前にコンビニ寄ってくかな。」
不安を紛らわせる様に態々口に出し、彼はコンビニへと行き先を変更した。
「・・・ん?」
青年は、突然立ち止まって辺りを見回す。
「気のせいか?」
誰かに呼ばれた様な気がしたのだが、見回しても疎らに人が歩いているだけである。
気のせいだと判断し、再度歩き出す。
『・・・・ ・・・か』
「・・・」
今度は、ハッキリと聞こえた気がした。
再び立ち止まり、再度見回す。
「・・・あ」
此方を見ている者がいた。
「ニャ?」
野良猫である。
「いや、まさかな。」
猫が話し掛ける訳が無い。 ・・・筈である。
(俺って、こんなに自意識過剰だったか?)
個性の薄い青年は、周囲から注目を集める事など無い。
故に、自身に対して意識が向けられる事は稀であり、本人もその様な事は気にしない。
自意識過剰から縁遠い筈であるにも関わらず、そう考えてしまう。
「早く飯買って帰ろ」
気味が悪くなった青年は、足を速めた。
『聞こえますか?』
「!」
今度は、ハッキリと聞こえた。
頭の中で、直接声が響いている。
(一体どうなってんだ!?あの世からのお迎えか!?)
青年は、完全にパニック状態である。
(俺は何もしてないぞ同期からは特徴がないのが特徴とか言われてるくらい無害なんだぞ強いて言えばミリオタなのが特徴だがタダの善良な大学生なんだだから殺さないでまだ死にたくないお願いします何で 以下略 )
青年は、完全にパニック状態である。
『良かった、やっと繋がった』
「へ?」
その瞬間、視界が真っ暗になった。
いや、真っ黒になった。
どこを見ても 黒 黒 黒 ・・・
立て続けに起こる異常事態に付いて行けなくなった青年は、フリーズした。
(・・・・・・)
何も考えられない。
「あ」
立ち尽くしていると、目の前に突然人が現れた。
「良かった、上手く行った!」
彼は驚いた。
その声は、ついさっき頭の中に響いていた声と同じ声だったからである。
(わお)
可愛い
そう思った。
「急に御免なさい、まずは自己紹介をしましょうか。私は、貴方達が女神と呼んでいる存在です。」
「・・・」
青年は、再度フリーズした。
構わず‘自称‘女神は続ける。
「私が貴方を此処に連れて来たのは、お願いがあるからです。」
彼は、黙って聞く。
「どうか、私の世界を救って下さい!」
「・・・ウェ!?」
想像の斜め上を行く発言に、青年は声を上げた。
(何を言ってるのかしらこの方は・・・ 女神? ・・・ 世界?)
「勝手な真似は許さん!!」
言われた事に付いて行けずにまたもや固まっていると、この場にいる二人とは別の声が聞こえて来た。
あまりにも大きな声に、二人は揃って竦み上がる。
すると、‘自称‘女神とは反対の位置に、身の丈3メートルはあろうかと言う大男が現れた。
(ヤバい、明らかに怒ってる!)
青年が思った通り、大男は激怒して‘自称‘女神を睨みつけていた。
(てゆーか、何なんだあのカッコ?)
‘自称‘女神は竜宮城の使いと名乗っても納得しそうな服装であり、男の方はギリシャ神話に出て来そうな服装と立派な髭を蓄えていた。
「どう言うつもりだ・・・!?」
男が語り始める。
「貴様がやっている事は、明らかな越権行為だぞ!自分の担当する星以外に干渉する事で、どれ程の混乱が起こるのか分からん訳では無かろう!」
男が畳み掛けるが、‘自称‘女神は動じない。
「既に、上の方々に許可は取ってあります。」
「何だと!?奴等、正気か!?」
‘自称‘女神の反論に、男は大きく動揺する。
「それ程までに深刻な事態だと言う事です。」
「・・・何が起きた?」
「あの暴れ者の目覚めが近付いています。」
「な・・・!」
暴れ者と言う単語が出た瞬間、男は一気に青ざめた。
「手段を選んでいる場合ではありません!」
「お前の星の住人で何とか出来んのか?」
「残念ながら不可能です。彼どころか、メイジャーにも勝てません。」
「ウウムム・・・」
(さっきから何の話だ?)
置いてけぼりを食らっている青年は、段々と苛立って来る。
「だが、何故この少年に目を付けたんだ?ハッキリ言って、役に立つとは思えん。」
突然扱き下ろされた青年は、青筋を立てる。
「それに、知能も低そうだな。」
(こンのクソジジィ・・・!)
「仰る事はよく解りますが、彼としかコンタクトが取れなかったのです。」
まさかの自称女神からの追撃に、男の髭を引き千切ってやろうかと考えていた青年の思考が停止する。
「そうか・・・少年よ。」
「あ?」
「・・・分かった分かった、儂が悪かった。」
全く誠意が感じられないが、話が進まないので引き下がる。
「まずは自己紹介からだ。儂は、地球を担当している神だ。」
「ウェ!?」
(こいつもか)
青年の目は、胡散臭い物を見る様な目になる。
「信じられんかも知れんが本当だ。この宇宙には、人間を含む生物の生息する星が数多くある。それ等の星には一人ずつ神がいる。と言うより、生物の生息する条件の整った星へ介入して、生物の誕生を促進すると言った方が良い。」
「何の為に?」
当然の疑問が浮かぶ。
「ふむ、答えてやりたいところだが、神聖なる機密事項に当たる事だから答えられん。」
(酷いネーミングだ)
一体、何処が神聖なのかと突っ込みたくなる。
「だが、彼女が担当する星は他の星とは大きく事情が異なる。」
そう言いつつ、‘自称‘神は‘自称‘女神を見る。
「何が違うんだ?」
「彼女が担当する星は、我々神は関わっていないと言う事だ。」
「自然現象?」
それ以外に考えられないが、‘自称‘神の表情は言外に違うと言っていた。
「なら良かったのだがな・・・人為的なものなのだよ。」
「神以外の存在が星を創った?」
「そう言う事だ。」
そう言うと、‘自称‘神は苦々しい顔をした。
「誰がそんな事を?」
「儂から答えてやる事は出来ん。」
「神聖なる機密事項ってヤツか?」
「その通りだ。だが、いずれ判るだろう。」
これまでの話を総合し、青年は結論を口にする。
「つまり俺は、その星を創った奴をどうにかしろと頼まれると言うワケだな?」
「そう言う事だ。思っていたよりは賢い様だな。」
何処までも上から目線の言動をされて、やる気など出る者はいない。
「あんた等がやればいいじゃん。」
青年は、投げやりな返事をする。
「それが出来れば苦労はしません!」
‘自称‘女神が叫ぶ。
「一度生物が生まれて星が安定すると、我々は介入する事が出来ないのだ。」
「面倒な取り決めだな・・・」
何故その様な取り決めが出来たのか、見当も付かない。
「その通りだが、我々にはどうする事も出来ない。頼む、助けてくれ!」
先程までの態度とは打って変わって、‘自称‘神は頭を下げた。
「お願いします!」
‘自称‘女神も頭を下げた。
予想外の態度に、青年は暫し黙り込む。
「だけど、そんな大それた事が出来る特別な力なんて無いぞ?」
それが最大の問題であった。
何処にでもいる平凡な大学生が、星を創ってしまう様な存在と渡り合う事など出来る筈が無い。
「その心配はありません。」
‘自称‘女神が話し出す。
「貴方には、その特別な力を与える事が許されています。」
「!?」
「一つだけですが、貴方の望む力を与えます。更に、私達のお願いを・・・いえ、依頼を達成した暁には、報酬が与えられます。」
青年は絶句する。
望めば、どんな力でも手に入れる事が出来るのである。
(あんなことやこんなこともデヘヘへ)
「一応言っておくが、与える力は我々の依頼を実行する為の力だぞ?」
「ハッ!?」
‘自称‘女神が、冷めた目で少年を見ている。
顔に出ていた様だ。
「それで、どうする?」
「うーん・・・」
青年は、腕を組んで悩む。
(そもそも、俺が戦う相手が何なのかが判らない。これじゃぁ決めようが無いぞ。)
「まだか?」
「長いですね」
真剣に悩んでいるのに、そんな声が聞こえた。
「そう言えば、俺が行く世界ってどんな所なんだ?」
「そうか、そう言えば忘れていた。それが分からなければ決めようが無いな。」
(ボケてんのか、このジジィ!)
そして、‘自称‘神は説明を始めた。
「お前がこれから行く世界は、魔術が存在する世界だ。」
「魔術だって!?」
「そうだ。他にも、ドラゴンやエルフやドワーフと言った、地球で言うファンタジーな存在が実在している。文明レベルは先程覗いた感じだと、中世から近世と言った所か。確かに、これではどうにもならんな・・・」
‘自称‘女神は俯いた。
(て事は、もっと強力な勢力が必要になるって事だな。だとすれば・・・)
「決まった様だな」
青年の顔を見て、‘自称‘神は呟く。
「では、聞きましょう。」
「現代兵器と、それを運用する施設と資源と人員を召喚する力が欲しい。」
「えっ!?」
「ほう・・・」
‘自称‘女神は驚愕し、‘自称‘神は「やはりか」と言う顔をする。
「と、取り敢えず、上に掛け合ってみます。」
そう言うと、‘自称‘女神は消えた。
その現象に驚いていると、‘自称‘神が話し掛けて来た。
「少年よ、お前は所謂ミリオタとか言う奴だろう?だから、あの様な力を望んだのだろう。」
「そうだけど、それが何か?」
「解っておるのか?兵器を使うと言う事は、自らの手で多くの命を奪うと言う事だ。平和な国で生まれ育ったお前に耐えられるのか?」
現代でも、「人を殺した」と言う事実は軍人達にとって重い負担となっており、深刻な問題となっている。
ただの一般人に過ぎない青年がその様な事実に耐えられるとは、‘自称‘神には思えなかった。
「耐えて見せる。戦闘と言うモノが、どれ程血にまみれた行為なのかは分かってるつもりだ。今の時代、本物の戦闘映像だって探せば見付かる。俺は、そう言うモノからも目を逸らさずに直視して来た。」
「だが、現代戦と言うものは近世以前の戦いとはワケが違う。それに、お前が見た映像と言うのは小規模な非正規戦だろう?国家規模の戦争となれば、その凄惨さはお前が想像しているものよりも遥かに酷いものとなるぞ。」
「なら、それにも耐えて見せる。星一つを救うってんなら、それ位の事にも耐えられなきゃダメだろ?」
「まぁ、それはそうだが・・・」
それ以上は言わなかったが、‘自称‘神は心配そうな顔で青年を見続けていた。
「上から許可が下りました。」
‘自称‘女神が戻って来た。
「ただし、自由に召喚が出来るのは一年です。それ以降は、召喚した施設を使って生産、建設して欲しいとの事です。」
「え・・・何でそんな縛りが?」
「必要以上に世界のバランスを崩さない為です。」
(思った以上にキツくなりそうだな・・・すぐに資源を見つけ出さないと拙いぞ。)
何のバランスかは知らないが、資源問題は深刻である。
「それと、余計な混乱を抑える為に転移場所は無人島にします。」
(無人島なら、先住民の心配をせずに好きに出来るな。だが、食料の確保をどうするかが問題になるな。)
青年は、開示されて行く情報から今後の展開を考えて行った。
「私達に出来るのは此処までです。どうか、お願いします。」
「我々の依頼を終えたらまた会えるだろう。それまで死ぬんじゃないぞ?」
「そんな簡単に死ぬつもりは無い。必ず生き延びて、依頼を達成して、報酬とやらを頂いてやる。」
「それでは送ります。お気を付けて。」
その言葉と共に、青年の意識は虚空へ消えた。
次回から異世界になります。