68話 自称凡人の危機
~ジーク 視点~
急に音無が『何か』の後ろに現れて倒れる。
「音無!」
手を伸ばすと、さっきまであった障壁が無くなっていることに気が付く。
「!」
音無に駆け寄る前に音無の姿をした『何か』に音無が支えられる。
「その姿・・・」
そう言うと、『何か』の姿が最初に見た姿に戻る。
「音無さんから離れてください!」
グウェンがそう言うと全員が武器を構える。
「待ってください、もう、大丈夫ですから」
アルがそういう。
「それよりも、マスターの治療が先です」
その言葉を聞いてグウェンとフィリアが動く。
「・・・」
「どうだ?」
2人に音無の状態を聞く。
「どこも傷ついていません」
「回復魔法も使ってみましたけど、変化は見られません」
「じゃあ、安静にしていればそのうち目を覚ますんだな」
音無を動かそうと、すると。
「動かさないで下さい!」
後ろを振り返ると、メイさんがそこにいた。
「バキィッ!」
音を立ててメイさんと俺達の間に線引きのように床が割れる。
「待ってください、その方達は味方ですから」
アルが苦しそうな声を漏らす。
「とりあえず、音無くんの治療をしたいのだが?」
戦さん、久しぶりにあったけどあんな顔は初めて見た、口調も少し変わってるし。
「・・・」
『何か』は音無の隣に屈むと、音無を触診し始めた。
「とりあえず時子、ほかの皆さんをお願いします」
「分かったさね」
「戦は辺りの警戒を、メイは私と」
「分かってる」
「はい」
創さんがそう言うと、レノ達全員が壁際に移動させられ座らされる。
「よく、あれの前であんな啖呵を切れたもんさね、今は私たちに任せてゆっくりお休み」
「・・・」
その一言で全員の意識が落ちた。
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~神野 創 視点~
「ありがとうございます時子」
「朝飯前さね、そもそもの疲労があったしね」
さて、目の前の問題を解決しましょう。
「体の損傷は・・・無いように見えますが、今でも再生と負傷を繰り返しています」
何らかの影響で、傷付き続け、また何らかの影響で回復し続けている。
「メイは彼の再生能力を使わせないように回復をしなさい、彼の経過は私が見ます」
「はい」
そう言い終わると、彼の胸に手が突き刺さる。
「・・・」
だが、だれも動かない。
「何をしているんですか?」
「恐らく、彼のこの状態を止めているんです」
実際手が突き刺さっている胸には傷一つ付いていない、しばらく手を動かしていると、何かを引っ張り出す。
『すまない、迷惑をかけた』
拳大の塊から七音止サギが出てくる。
『とりあえず、時間がないので手短に・・・』
うつ伏せの状態で説明を始める。
『音無の今の状態の原因は体の限界を超えた力を使った為の反動によるものだ』
「その力とは?」
『詳しいことは俺には分からない、その記憶は音無が持っているからな』
力について聞いてみるが流される。
『今はまだ、力の恩恵で再生能力が続いているが、いつ切れるかは分からない、そこはお任せする、後はこちらで何とかする』
そう言って七音止サギは『何か』を見つめる。
『貴方にも手伝って貰う、元は貴方のせいでもあるからな』
七音止サギがそう言って消えると、『何か』も消える。
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~音無 ナギサ 視点~
『お前はこの世界に何を見る?』
ある男が自分にそう、問いかける。
『@∀→:〒ー■→▼◆▲』
そこで目が覚める。
「ここは?」
「やっと起きましたね」
そこには自分と全く同じ姿の青年がいた。
「ここは音無ナギサと七音止サギの精神世界、そう言ったら分かるかな」
サギとの境目に触れる。
「確かにそうみたいですね、あっちとこっちの世界は全く違う」
あっちの世界は栄えた世界、変わってこちらはよく言えば秘境、悪くいえば魔境といったところだ。
「大違いですよ」
そんなことを言っていると、向こうの世界に2人の来客がやってくる。
「あっちも来たみたいですね」
「えぇ、それで、何をするんですか?」
青年の後ろを歩き、境目に近づく。
「とりあえず情報共有をしましょう、手を合わせて、私たちではこの境目は超えられません」
境目の先にいるサギと手を合わせる。
『とりあえず、現実にある体を見てきた、お前の体は死にながら生き返っている』
「!、そこまでですか・・・」
サギが頷く。
『思ったより反動が大きい、戻るのは体が戻ってからにした方がいい次は無い』
「そこの心配はしていません」
『そうだな』
サギが息を吐く。
『とりあえず、今の所体はメイ達が直しているから問題はないがいつかは限界が来る、早めにしよう』
「分かりました」
互いに確認し合い、境目から少し離れる。
「『』ここに」
『こい『』』
そう言うと2人の手に白と黒の『』が、握られる。
「はぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁ!!」
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
力を溜める。
「無形流」
『無形流』
『』を振ると、境目はあっさり壊れる。
『これで後戻りは出来ない』
「ここからは時間との勝負ですね」
自分は『何か』との勝負に勝つために、サギの制御を振り切った、その方法はサギとの隔絶、そして自分の力だけを戻した。
「ふぅ」
隔絶した状態から、何時もの状態に戻るには、長い時間で起きたサギとのズレを修正する必要がある、だが元々ズレていたのもありそう簡単には行かない、そして時間制限もある。
「自分の力を戻しただけでここまでですか」
「同化はまだ、早いですよ」
「分かってます」
サギに近づいて手を出す。
「迷惑をかけました」
「いいよ、お礼は」
サギと一緒に視線の先にいる2人に向き直る。
「ナギサは私と、サギは『何か』とやりますか」
そう言うと『何か』がサギの姿になる。
「1つ、質問していいですか?」
「なんでしょう」
最初から質問しようと思っいた事を2人に聞く。
「今回、サギの制御を無くして貴方を呼んだ訳ですが、あなたは未来の事を知っていますよね」
「はい、そうですよ」
・・・つまり、目の前にいる『音無ナギサ』は未来の自分、いや、『音無ナギサ』の未来の姿の1つ。
「何と、呼べばいいでしょうか?」
「そうですね、今はゼロと名乗っています」
「!、そうですか」
その答えを聞いて少し笑ってしまう。
「そんな未来もあったんですか・・・」
「えぇ」
「俺はレイでいいだろう」
「!」
サギの声で『何か』が話す。
「少し声を真似るのに時間がかかったが問題ない」
「分かりましたゼロさん、レイさんよろしくお願いします」
『同じく』
2人に向かって礼をする。
「それにしても、これで良かったかゼロ、お前の記憶からこの姿と声を借りたが」
「えぇ、その姿なら私はナギサ、あなたはサギに付きやすいですから」
そう言って2人はそれぞれ自分とナギサに付く。
「あなた達は何を使っても構いません、私達は武器は壊れたら交換していきます、あなた達の目標は私達の武器を壊しきることです」
そう言って、自身の身長より大きいの肉厚の剣を手元に出す。
「・・・」
「懐かしいですか?」
「はい、少し」
あれは、自分とナギサが1番最初に闘った相手の武器。
「行きますよ」
3m程の距離を半歩程で詰めてきた後の攻撃を受け流すと5m程後に吹っ飛ぶ。
『ナギサ、どう?』
『基礎性能が違いすぎます、技術もパワーもスピードも、こんなのは久しぶりですよ』
『楽しそうだな』
『サギも同じでしょう?』
『もちろん』
会話を終え、それぞれの相手に向き直る。
「行きますよサギ!」
『あぁ!』
重りを『ストレージ』にしまう。
「『『制限』解除!』」
ゼロとレイがこちらを見て感心する。
「さてレイさん、ゼロさん自分達はさっきの10倍強い」
さっきと逆にこちらが打ち込む。
「冗談ではありませんね、これは本当の意味で言って元に戻らず私が呼ばれたのは、正解ですね」
そんなことを言いながら、こちらの攻撃を受けた流す。
「そんなに今の自分は余裕ですか?」
「えぇ、今の私は・・・」
「『『魔装』』」
「ピシッ」っと肉厚の刃に亀裂が入る。
「おっと」
「今のゼロさんが、自分のどのような未来の姿かはいいんです楽しみは多い方がいいですから」
「そうですか」
刃の半ばから折れた剣を見てそう言う。
『よっと、そっちもやっと一本目か』
「えぇ」
ゼロとレイから少し距離を取る。
「まだ、時間はありますそれまでどんどん行きますよ」
そう言って、地面に武器を展開する。
「剣、槍、弓から始まり」
『鎌や鉤爪、鞭なんてものもある』
どれもこれも1度見た事のある武器だが。
「『『無形流、この身は巨大な敵に対して1人で挑むように作られ作ってきたもの、何の為に戦い、生き、帰る、それは最も重要な事である、己を何者か自覚し事をなせ!』』」
『ストレージ』なら銃を取り出してサギに渡す。
「幻銃『白夜』」
『幻銃『黒鴉』』
右手に『』を持ち、左手に『白夜』を持つ。
「これが、今の自分達が出せる限界です」
ゼロが拍手をする。
「予想を遥かに超えました、ねぇ、レイ」
「あぁ」
そう言って2人違う武器を手に取る。
「先に生きるものとして、現実を見せてあげますよ」