61話 自称凡人の攻城戦
風邪には、勝てなかったよ・・・
先々週は投稿出来なくてすみません、今週は2話投稿できるよう頑張ります。
朝食後、ジーク達を部屋に集める。
「『無音』」
あらゆる音を消せる魔法だが、今回も部屋の壁にかけて音が漏れないようにする。
「全員来ましたね」
全員が座ったのを見て話し始める。
「音無はもう分かってるのか?」
「はい」
「そうか、続けてくれ」
ジークが話を聞く態勢になる。
「はい、質問はしてくれて結構です、まず、今回の戦争は仕組まれたものです」
誰も動かない、流石に露骨すぎるからな。
「それを行ったのは恐らく、この前話した人物でしょう」
「ですよね」
「それで、私達は何をするの?」
エリーゼがそう、聞いてくる。
「やっぱり、両国の足止めですか?」
「いえ、違いますよ」
「それなら、また傍観ですか?」
「それこそ有り得ません」
「ならどうするんですか?」
ジークとレノが驚きの表情でこちらを見る。
「首謀者を叩きます」
一瞬時が止まったように誰も動かなくなる。
「・・・っふ、はははははは」
ジークがお腹を抱えて笑う、レノも笑いをこらえている。
「お兄ちゃん、どうして首謀者を叩くのですか?」
「クロは今回の相手の目的はなんだと思いますか?」
その言葉を聞いてエリーゼ達も考える。
「何かを呼び寄せるですか?」
「目的の1番はそれですね、なら、何故首謀者は戦争を起こしたと思いますか?」
そこで全員が気がつく。
「大量の血を集めるためですか?」
「そうですね、そして大量の血が集まる場所に首謀者がいる」
アルが地図を空中に映し出す。
「この赤いラインを中心に戦闘が繰り広げられます」
「首謀者の場所はどこだ?」
「魔方陣が大きければ大きいほど、その魔方陣から呼び出せる何かは強く、大きいものを呼び出せます、そして魔方陣の質、適正で、更に強いものを呼び出せます」
赤い戦線の真ん中を指差し、その周りを丸で囲む。
「ここが首謀者の場所です、そしてこれが魔方陣の大きさです」
ウルズ大陸の3分の1はある大きさの魔方陣を描く。
「魔方陣の精度は恐らく今回呼び出すものに限っては自分以上でしょう、魔方陣の構成は人の血、生贄は人の魂と血と器」
血は生命あるもの全てに流れていると言っていいものだ、それに人の血となると適正を持ったものは多岐に渡る、そして、人の魂、血、器、ここまで揃っていれば神だって呼び出せるだろう。
「これを全て止めるのは難しいので、首謀者を叩くんです」
「なるほどな、それで、どうやって叩く?」
「もちろん正面突破ですよ」
「そうか」
ジークが笑いながら頷く。
「その前に、皆さんにはこれを」
『ストレージ』から白のマフラーを取り出す。
「これ・・・」
「はい、これと同じものですよ」
首に巻いている白色のマフラーを指さす。
「マフラーとしても使えますが自分の変えたい形状、色にもできますので」
ちなみにこれ、銃を作ったのと同じものを使っている、柔軟性を普通の布と同じにして編み、『コマンド』を組み込んだものだ。
「魔力を100%通し、魔法的、物理的な攻撃を完全に無効化、自動回復、自動魔力回復、その他もろもろです」
ジークとレノは赤、エリーゼ、グウェン、フィリアは白、クロは黒のマフラーに変わる。
「各自、準備をしてください、自分は少し話をしてくるので」
そう言って部屋を出る。
『不確定要素があることを言わなくて良かったのか?』
『全員この作戦に欠点がありすぎる事は分かっています』
『たった一つの偶然で全てが破綻するからな』
『だけど、この段階まで来ました』
『だけど、そのために俺達がいる』
『そうですね』
庭に移動すると目的の人物が剣を振っていた。
「音無さん」
「浮かない顔ですね、どうしました?」
「いえ、兄上が少し心配で」
・・・。
「そうですね・・・皆さんが落ち込んでいるとヘクトールさんも落ち込みそうですから、気分転換にリルさんと街に出かけてはどうですか?」
「え?」
「お出かけですよ、今、丁度勇者の選定をやっているようですし行ってみては?」
「ダメですよ、そもそもこの髪色では」
「そんなことですか」
指をパチンと鳴らす。
「何をしたのですか?」
「ただの認識阻害魔法です、フリードさんに限って黒髪は当たり前だと思われる魔法をかけました、これで街に行っても大丈夫です」
「え、いや」
フリードさんに近づき小声で話す。
「ブリジットさんはここにいる限り安全ですが、リルさんがここに居るとブリジットさんにも危険が及びます、フリードさんは2人を守りきれますか?」
「分かりました」
フリードさんの気配が明らかに変わる。
「自分達は少し出かけてきます、気をつけて下さいね」
「はい」
フリードさんに簡単に要件を告げて部屋に戻る。
「大丈夫ですか?」
部屋に入るとジーク達が完全武装をしていた。
「あぁ」
「ん」
「問題ないわ」
「大丈夫です」
「問題ありません」
「はい、お兄ちゃん」
「大丈夫ですね」
自分も二対の刀を出す。
「『分裂』」
そして、2人に分かれる。
「さて、今回攻め込む場所は簡単に言うと要塞です」
そう言って簡単な外観を見せる。
「これは、大体の予想図です、結界の大きさが半径約20km程だったのでそれから逆算しました」
流石に神の直属の兵だけあって結界の中身は完璧には見通せなかった。
「かなりの量の結界、それに伴う壁、罠、色々ありますがこれは問題ありません」
要塞の表示をやめて全員に向き直る。
「今回の相手はジーク達が全力を出しても勝てないでしょう」
「!」
その言葉にジーク達が反応する。
「敵だけならジーク達が挑めばギリギリ勝てると言ったところです、ですがそれまでの道のりで消耗を強いられるでしょう」
そして、最後に言っておきたいことを言う。
「ですが、自分が全力でサポートします、ダメだと思ったら頼って下さい、色々と失敗してきた凡人な自分ですが約束だけは破った事はありませんから」
そう言って、マフラーを全身を覆うローブに変える。
「何があっても守ってみせますよ、今回は1人ではありませんから」
『そうだな』
ジーク達が顔を見合わせてローブに変える。
「なら、守ってくれ」
「・・・ん」
「私達を」
「サポートしてください」
「助けてください」
「お兄ちゃん、約束です」
「はい、では行きますか」
約束しました。
「アル」
「はい、転移先座標固定、周囲に生体反応無し、OKです」
「サギ」
『あぁ、準備は終わってる』
「さて、『隠密型瞬間移動』」
『隠密型瞬間移動』その名の通り隠密に適した『瞬間移動』だ、相手の領域に侵入するという事は相手に自分が入ってきたと伝える事になる、相手に気付かれているのと、いないのとでは、全く攻略難易度が違う。
この『隠密型瞬間移動』は相手の領域に自分が入ってきたと感じさせずに侵入する事ができる、相手の領域の隙間を縫って侵入するため魔力のコントロールと領域の隙間を見つけるのを両立しなくてはならない、このレベルの相手になるとアルの補助がないと確率は8割ほどに落ちる。
「今回は安全のために念には念を入れましたが」
移動した先でそう呟く。
「ここが・・・」
「敵の本拠地ですか・・・」
辺りを見まわしてもただ森が見えるだけだ。
「何もありませんね」
「これを見てください」
ジーク達にここら一帯の生体反応を見せる。
「これは?」
「ここら一帯の生体反応、動物の反応です」
「えっ、」
「全くありませんよ?」
「そうですね」
虫ですら反応ひとつない。
「そうですね、レノ、周りの木を触ってみてください」
「・・・?わかった」
レノが木を見つめたあと、木に触る。
「!この木、本物じゃない」
「そうです、ここら一帯は魔力で作られた幻です」
「広範囲のしかも、多重の結界の上高度な幻ですか・・・」
「単純な魔力量なら、無限と言っても遜色ないですからね」
「本当ですか?」
「はい、これだけの結界と幻、発動するのにも魔力を相当使います、いくらか減るといっても維持するのにも相当の魔力を使いますからね」
確かにこの結界は今のこの世界では破壊不可能の結界だろう。
「ただ、この程度の隠蔽工作見抜けないと思ったのか、この程度の結界を破れないと思ったのか」
『』の能力も、『交代』無形流も使う必要がない。
「見ていて下さいね、コツは一点集中です、行きますよナナシ」
『』を手に歩く。
「・・・」
風を切った音もさせず結界の破壊を終える。
「音無さん?」
しかし、予想はしていましたが、あってほしくはない事でしたね。
「・・・」
ゆっくりと『』を鞘に戻す。
「お兄ちゃん?」
相手の場所に再度しっかりと『眼』を向けて確認する。
「・・・ふぅ、行きましょう」
目の前の結界に手を触れる。
「皆さん、ここからが本番です、準備はいいですね?」
「もちろんだ」
「ん」
「えぇ」
「はい」
「問題ありません」
「大丈夫です」
再度確認をとり、結界を叩く。
「パリン」
ガラスが割れたような音が響き目の前に広大な平原、そのはるか先に巨大な外壁が見える。
「あれが・・・」
「待ってください」
全員を呼び止め指を鳴らす。
「パチン」
辺りに指を鳴らした音が響く。
「パリン、パリン、パリン」
ガラスが割れる様な音が連続して響く。
「これで大丈夫です、行きますよ」
1歩、歩くごとに破壊不可能な結界が割れる、そして、遥か先の城壁にも穴が開く。
「・・・」
ジーク達が驚いて止まる。
「この程度で驚いていては駄目ですよ、ジーク達にもこの位はやってもらいますから」
「・・・そうだったな、だが、これは流石に出来ないと思うんだが・・・」
「やれますよ、それでは進みましょう」
そう言って相手の本拠地へ移動を開始する。
タ