1話 自称凡人、異世界へ行く
「自分は凡人だ」
これはよく自分が使う言葉で、そのままの意味で受け取って貰っていい。
勉強も部活も人並みに努力をし、特に目立った成績もなし、そんな自分が中学校3年生の時に起こった出来事。
「はぁ」
季節は秋、少しずつ肌寒くなってきた日、少しため息混じりにいつもの通学路を家へと歩いていた。
学校では何も変わった事の無い日常が続く、親友と言えるほどの友達もおらず、1人で過ごす。
両親は自分が産まれる前に父親が他界し、母親も自分が産まれてすぐに他界した、前は遠い親戚の家に住んでいたが、目的が両親が唯一自分に残してくれた遺産だと知り家を出た、今までお世話になった分のお金は置いていった。
そんないなくなっても誰も困らない、むしろ喜ばれるのが今の自分だ。
『あの日から5年が経ちました・・・』
家電量販店のテレビからそんなニュースが聞こえてくる。
『未だに、その傷跡は深いもので・・・』
第三次世界大戦、世界各地でいきなり人が暴れだし、その集団が世界を襲った事件、ニュースや新聞では、どこかの国が開発したウィルスだとか、洗脳だとか言われているが原因は不明。
「・・・」
そんな事を思い出してしまったからか、何故か今日の帰り道は周りが良く見えた。
「♪~」
1人の少女が横断歩道を渡っていた、何故かその少女に目が離せなかった、そして嫌な予感がした。
「ブォォォォォン!!」
大型トラックが、エンジン音を唸らせ、横断歩道に向かっているのが見えた。
「!」
今からなら間に合うと思い走り出すが、何かに掴まれるているように体が動かない。
「♪~」
少女以外の周りの人達は時間が止まったように動かず、トラックと少女だけが動いていた。
「『ーー』」
小さく呟き、少女の方へ走る。
「ブォォォォォン!!」
「チッ」
軽く舌打ちをし、少女の背中を押して、トラックの衝撃に耐える。
「っ・・・!」
トラックに吹き飛ばされ、肺の空気が一気に出る、店の壁にぶつかる、骨が何本か逝ったようだ。
「ブォォォォォン!!」
トラックは止まらず、自分の体がトラックと壁で挟みこまれる。
「グシャッ」
その音を最後に自分の意識が途切れる。
◆
「ーーーー!」
「ーー、ーーー!」
どこかから声が聞こえる、恐らく自分は気絶したのだろうか、じゃあこの声は通行人か?などと考えつつ目を開ける。
「良かった、やっと起きました大丈夫ですか?」
目の前に恐らく13、4歳くらいの女の子の顔がある、透き通った白い眼、きちんと手入れがされた腰まで伸びた白い髪だ。
「!」
飛び起きて自分の状態を確認する。
「大丈夫ですよ、傷はありませんから」
言われた通り傷はなく、服も一切傷がない学校の制服だった。
「ありがとうございます、しかし、ここは何処なのでしょうか?」
周りを見渡す限り、何処かの教会のようだ。
「ここはですね、神世界です」
「シンセカイですか・・・」
聞いたことのない地名からここは自分の知らない世界だと推測する。
「貴方は・・・」
「音無ナギサです」
目の前の女の子の考えを読んで先に名前を言っておく。
「音無ナギサさん・・・音無さんですね」
「はい、貴方はなんとお呼びすれば?」
「始創神の娘、女神です」
女神か・・・本当にいるのか・・・。
「じゃあ女神さん、と・・・」
始創神か。
「始創神とはどんな方なんですか?」
疑問に思った事を聞いてみる。
「始創神こと私のお父さんはこの世の始まりを創造した神です、そしてこの世の中の神の頂点にいる神です」
始まりを創った神だから始創神。
「なるほど分かりました」
「何故、とは聞かないんですか?」
女神さんがいきなりそんなことを聞いてくる。
「自分はいなくても、何も世界に影響が無い人間ですから」
自分がそう言うと、目をじっと見つめてくる女神さん。
「音無さんはもし、生き返れるとしたらどうしますか?」
・・・。
「本当ですか?」
「はい、本当は駄目なんですが、音無さんは特例です」
特例か、確かに思い当たる節はある。
「あと、音無さんに教えておきたい事が・・・」
「何でしょう?」
「神についてです」
女神さんは神について教えてくれた、神には下から従属神、下級神、中級神、上級神、世界神がいるということ。
「何故、これを自分に?」
「それは・・・ですね・・・」
明らかに、何かを隠している。
「そんな事より、自分が生き返ると言うのは?」
「あ、そうでした」
忘れてたのか。
「それについて1つ謝らないといけないことがあるんです」
「何でしょうか?」
「その、神の制約により、その世界で死んでしまった生物の魂はその世界で循環する事になっていて、その循環から外れてしまった魂はその世界に戻れないのですよ・・・」
「ふむ、なるほど、つまり自分は、元の世界に戻れないと」
「はい、そうです・・・」
「いいですよ、どの世界で生き返るのですか?」
「えっ!?いいのですか?」
「はい、元の世界で思い残すことはないですしね」
「そんな事を言う人は音無さんが初めてですよ、全くうちの神達は」
「ははは、昔から軽いって言われますけどね」
「そんな事ないですよ、しかし本当にいいんですか?」
「問題ありません、元々・・・」
言いかけた言葉を飲む。
「どうかしました?」
「何でもありません、それで次の世界の話なのですが」
「あ、そうですね、こほん、次の世界はなんと!剣と魔法の世界です!どうです?楽しそうじゃないですか?」
女神さんがそう言う。
「ふむ、そうですね」
「反応薄いですね、文明的には中世をイメージするといいです、ただ、魔術と魔法のお陰でかなり進んでいるみたいです」
「ふむ、なるほど」
よく創作物で見るような世界と。
「それで、お礼といっては何ですが前の世界の持ち物を持って行けるようにしました!」
「それはありがたいですね」
「好きなのを持っていって下さいね、頭に思い浮かべればもって来れます」
「はい」
頭に学校のカバンを思い浮かべる。
「それだけでいいんですか?」
「はい、中身は少し変えさせて貰いましたが」
「問題ありません」
女神さんがカバンに手を置くとカバンが光る。
「何をしたんですか?」
「あっちの世界でも使えるようにしたのと、少し丈夫にしました」
見た目は変わっていないが、耐熱性、収納量etcが明らかに上がっているそれに、防刃、防弾etcとか。
「ありがとうございます」
「音無さん、それは?」
「スマートフォンと言うものです、まぁ、正確には違うのですが」
「?」
「しかし、これを動かすには充電が必要なのでしばらくは使えませんけどね」
「どういう仕組みなのですか?」
「そうですね・・・」
女神さんにスマートフォンの事を教えた。
「それなら・・・」
女神さんがスマートフォンに手を当てるとさっきと同じように光る。
「これでOKです」
「ここまでしてもらうとは、何かお礼をしないといけませんね」
女神さん曰く、充電を魔力でできるようにしたらしい、魔力が何の事かは分からないが。
「それで次の世界の話の続きですが、主な種族は人族、獣人族、魔族になります」
「主なということはその他の種族もいるんですね」
「はい、それで、魔族と人族と獣人族は敵対関係にあります」
「・・・」
「理由は色々とありますが、魔族と人族は勇者と魔王の関係ですから相容れないのでしょうね」
本当によく創作物で見る世界だな。
「なるほど、分かりました」
「もっと詳しく聞かなくていいんですか?」
「はい、楽しみは多い方がいいですから」
「そうですか、それと音無さん」
そう言うと女神さんが抱きついてくる、自分が180近いのと女神さんが160位なので少し危ない気がするが。
「あの、女神さん、何をしてるんですか?」
「音無さんの身体能力の強化を・・・」
「・・・それについて少し我儘を言ってもいいですか?」
「何でしょう?」
女神さんに少しの我儘を言った。
「それでいいんですか?もっと最強になるとか・・・」
「いいんです、それと抱きつく必要はあるのですか?」
「・・・あります」
今の間は絶対必要が無かった、あったとしても接触くらいだろう。
「何で抱きついたんですか?」
「内緒です」
そう言って女神さんが離れる。
「ここまでは神々の話し合いで決めたことです」
「抱きつくのは違いますよね?」
「違いますよ、私がしたいからしたんです・・・あ」
・・・。
「そうですか、それと自分の元の世界はどうなりました?」
「あ、あぁ、えっと、それはですね、助けた方は無傷でトラックの運転手も無事、周りに被害がありませんでした」
「よかったです、命張って助けたのに怪我があったらどうしようかと」
「・・・音無さんはどうして他人のために命を捨てれるんですか?」
「理由はありませんよ、助けたいと思ったからです」
「怒らないんですか?」
「さて、いったい何に怒ればいいのか分かりませんね」
女神さんの頭を撫でる。
「音無さん、座って目を閉じて下さい」
「?」
言われたとおりにする。
「よしよし」
「あの、何を・・・」
女神さんが頭を撫でる。
「これは、私からのご褒美です」
額の部分に柔らかいものがあたる。
「今のは私からの祝福です、あっちの人との会話は元から可能ですが、いろんな人と会話できるようにしました、切りたいときは『『祝福』オフ』つけたいときは『『祝福』オン』と言うか、思えば切り替わります」
顔を赤くしながらそういう女神さん。
「ありがとうございます」
「んっん、それでは行きましょうか」
「そうですね」
第2の人生か・・・。
「音無さん」
「何ですか?」
「思い残した事は無かったんですか?」
「昔はありました、でも今はありませんよ」
「そうなんですか?」
「はい」
そう言い終わると体が光る。
「第2の人生、頑張ってください」
「ありがとうございます、いつか、必ず恩返ししますので、困った時は言ってください」
「音無さんもですよ?、あちらについたら連絡します」
その言葉を聞いて意識が途切れる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
~女神さん視点~
「行きました・・・ね・・・」
音無さん、あの人は本当に面白く、不思議な人ですね。
「人に救われる神とは、どうなんでしょうか・・・」
私は何時もの世界の観察の為に、あの世界に少女の体を借りて降り立った。
「探すのも、一苦労ですね」
音無さんを神世界に呼ぶ事になった原因、あの事故を起こした張本人。
「従属神で間違いないですね」
あの事故は私を狙ったもの、私だけであれば少し休めば治る怪我で済んだ、だが、あの時の体はあの世界の少女のもの、神の力なんて使わなくても、ただのトラックに撥ねられただけで死んでしまう。
「神歴の長い方からいきましょうか」
自分の力を使って少女の体を守ったが、体が全く動かなかった、従属神では有り得ないほどの力、私の力が足りなくてこの少女を死なせてしまう事に、自分の無力さを感じた、だけどその考えは次の出来事で吹き飛んだ。
「・・・」
黒い軌跡が視界の隅に見えた瞬間に少女の体は後ろから押され、トラックを避ける。
『ゴンッ』
鈍い音と共にトラックが壁とぶつかり、煙を出す。
「っ・・・」
あまりにも一瞬の出来事で、全く理解出来なかった、最初は少女の体が無事な事に驚いた、そして、さっきまでこちらを見ていた青年が居ないことに気づいた。
「・・・」
直ぐに青年の体を神世界に送り再生した、その後直接、神々の皆さんに報告をした『世界を見守る神が、その小さな世界の住民に救われる』そんな話を誰も最初は信じなかった、『世界の記録』を見た世界神の皆さんは信じてくれた。
「切り替えましょう!」
後に、参加したお父さんの一声でこの話は終わった、青年を新しい世界に送ること、その事に関しては私に一任すること、そして。
「青年が死ぬまで、青年を見守ること」
これが私に出来る最大限の謝罪。
「神でなければ、音無さんの手助けが出来たのですが」
神という存在上、1人の人間に肩入れし過ぎてはいけない、だから遠くで見守ることしか出来ない、出来ることは少しの助言と見守ることだけ。
「音無さん、頑張って下さい!」