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10 in BLACK  作者: 森 鸚綠
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2.「Komm, du süße Todesstunde(3)」

 今回の第3節に限りまして、性行為、乱交等について言及した流れがあります。直接的な描写はありませんのでR-15、R‐18の規制は掛けておりませんが、予めご了承いただきますようお願い申し上げます。

           3

 「パーティー」は盛況のようだった。

 ご丁寧にも閉め切られた暗幕が黒を塗り広げ、非常口を示す緑の誘導灯のほかは、出席者たちが手にした蝋燭が暗闇に揺らめくのだけが映る。今の時世でただの白熱灯や蛍光球にまで、目くじらを立てるとは、全く時代錯誤も甚だしいところ。それを糾弾するならば、元々、この空間自体が不可思議だった。

 ポンペイウスの劇場を想起させるような半円型の劇場は、単にホールと評するにはやや装飾的で、会合を開くより演劇や舞台など催すほうが余程似合うはず。

 馬鹿にならぬ段数が続く階段を上がりきった、半円の舞台から見て、最後方の壁伝いに設えられた出入口の傍らから全体を見下ろす。次々と訪れる来場客が扉を抜けるたび、そこだけ長方形に切り抜かれたよう、白く光が差し込んで浮かび上がるのだ。

 暗黒舞踏会でもあるまいに。

 それとも、所謂アングラな前衛芸術―――――。

 どちらをとっても間違いではない。

 私は参加者全員が着用を定められたローブを纏い、すっぽりと丸ごと老躯を布地にうずめながら、黒インクを灌いだような暗がりを丹念に見回した。

 今晩開催される〈会合〉とは、何も、単なる享楽の為の集会ではない。

 魔術集会。

 次第に利き始めた夜目をすがめて、半円型の劇場の席をまばらに埋めていく、黒い影のごとき魔術師たちを舐るように眺める。

 ――――――〈薔薇十字愛好会〉。

 この極めて悪趣味としか表現しようがないだろう、退廃的且つ倒錯的、それでいてゴシック主義に傾倒した道楽人をも虜にする「パーティー」を締める主宰のことだ。こんな魔術結社など、本来、正規の魔術結社とはおためごかしにも言えない。ただ「値しない」というだけで、非正規の、すなわちイリーガルな組織とも異なっているのが面倒なところだった。グレイ。黒と白の中間にあって、しかし、黒により近しい濃厚な灰色。

 つまり、〈連盟〉公認ではない――――けれども、存在を黙認されている組織ということ。

 薔薇十字団、と口の中でごちる。

 〈薔薇十字団〉。

 一三七八年、クリスチャン・ローゼンクロイツが創設した秘密結社とは言うものの、真相は定かでなく、無数の人々が語り継いできた都市伝説だと思われてきた。寝物語ともつかぬ民間伝承や、噂話、と。ところが一七世紀になると、例えば一六一四年の『全世界の普遍的改革』、『薔薇十字団の告白』や『科学の結婚』などだろうか、「薔薇十字団」に関する数多の文献が表舞台に登壇。その実在が証明されたとあって、次々と「薔薇十字団」の系譜を名乗る結社が勃興、やがて、その一部はヨーロッパ諸国で秘密裡に続いていったという――――――。

 私が滔々とこんな経緯を語ったところで、まず世間では「都市伝説」か「世迷言」だと、一笑に付されるのが精々だろう。

 実際、〈薔薇十字団〉なる魔術結社や魔術師ローゼンクロイツの存在については、後世の人々が創造した幻想であると、正式に結論付けられている。一九二〇年の〈連盟〉発足から、かたや、僅か三十年足らずの歳月。たかだか四半世紀の間に各国政府と〈連盟〉の魔術師は、巧みなプロパガンダと情報統制で、〈魔術〉に関する一切を隠匿することに成功していたから。

 クリスチャン・ローゼンクロイツや或いは〈薔薇十字団〉が、魔術史の上では実在するとしても。

 この二〇二三年に於いては、最早、それは「虚像」でしか在りえない。

 これほど表舞台から魔術の痕跡が綺麗に拭い去られながらも、〈薔薇十字愛好会〉なんて名を掲げる非公認の魔術結社が存命なのは、偏に金と権力が注ぎ込まれているからだ。

「――――――もしや、あなたも今回が初めてですか?」

「えっ?」

 そっと耳打ちするような囁きに、思わず、背後を振り返りながら返す。

 全く顔の見えぬ男がぽつねんと一人で通路に立っている。

 私は人影を窺い知ろうと目を凝らすものの、フードを目深に被っているせいで、ほとんど見て取ることができない。それこそ暗闇で蠢いている出席者たちが皆、お揃いのローブに頭から包まれていると、シルエットは愚か気配すら溶けてしまう。

「ええ、……というと、貴方もですか?」

 あなたも、と男は言った。

 そう小さく尋ねると、男の影が肯くように揺れる。

「少し緊張してしまって。あなたがここで様子を見ているようだったので、もしかしたら、そう思って声を掛けたんです。ほら、常連の方だったら、もう定位置……指定席、とでも言うんでしょうか?それがきちんと決まっているようですから」

 こちらを初見の客だと看做した訳は、成程、ごく正鵠を射たものだった。すらすらと脚本でも読み上げるかのような男の指摘を受け、黒々しい人々に目を滑らせると、何の迷いもなく目当ての席へと階段を上がっていく様子が解る。私は微かに苦笑しながら、そうですね、と低く相槌を打った。

「お互いにとって、良い時間となりますように」

 御同輩を発見して緊張が解れたのか、ふわりと気配を薫りのように緩ませながら男が言う。そのまま、「では」と軽く会釈をして、また暗闇の中に紛れ込んで去っていった。

 良い時間。

 そんな有意義な時が過ごせるとは、思い難いことだった。

「……ホーエンローエ様」

 右耳に填め込んだイヤフォンからごく低く息を潜めた男の声が聞こえる。予め開いておいた内臓アプリの通話回線。ふと思い出して片眼鏡の端末を弄り、チャンネルを調整しつつ、クラウド内の電話帳を捲って相手の登録情報を引く。

 ――――――ビル・リットン。

 〈薔薇十字愛好会〉現会長、年齢四十八歳、ニューヨーク生まれのアメリカ人。「要警戒魔術師連続殺人事件」の次の標的である可能性有リ。本職は投資ファンドの経営者。M&Aや企業買収で多額の利益を上げる手腕が広く知られる。〈連盟〉登録済みのアマチュア魔術師。〈薔薇十字愛好会〉会長の就任は二年前、前会長の急死を受け、会員の総意に基づく推挙による。

 ぱら、と拡張現実に広がる頁を繰ると、真四角の付箋が次頁に貼りつけられたままだった。数日前のメモ。乱れきった筆運びの草書は潰れて見えず、白い紙片を二度タップし、仕方なく虫眼鏡を当てるように拡大した。

 【薔薇十字愛好会】

 一九〇二年に創設されたアマチュアの魔術同好会。

 会員数は百名弱。所属する会員の多くが、事業に成功した企業主や、個人投資家、大企業を引退した大株主等の金持ち連中。

 アメリカ式儀式魔術や、魔法の鏡、水晶占いとともに性魔術をメインに扱う。現在〈連盟〉からは、性行為・フリーセックスを用いた魔術儀式が異端視され、公認組織としては認められていない。長年にわたり〈連盟〉に対して多額の贈賄をしており、金と権力と引き換えに、魔術組織としての存続に暗黙の了解を得ている。

 二秒ほど付箋の左角から斜めに目を走らせて、あちこちに記憶の断片を継ぎ宛てして読み下すと、やっと口を開いた。そのままホールの全景に目を配り、通路側に空席を探しながら舞台へ向かって階段を降りていく。

「今回は捜査にご協力いただき、ありがとうございます」

 私は張詰めた糸ほどでないにしろ、緩んでもいない、そんな塩梅の調子で御礼の挨拶を返した。ビル・リットンとは数日前のコンタクトで、今晩の――――――二〇二三年六月期、第二回目の〈会合〉に秘密裡に入場できるよう、裏で執り計らって貰っている。いや、承諾させたと言うべき。現在捜査中のジェローラモ・ヴァレンティーノに関する一連の事件についても、こちらに差障りのない範疇で説き諭し、次のターゲットである可能性を示唆しておいた。

 たとえ〈連盟〉暗黙の存在であるとはいっても、リットンとて、命を狙われているとあらば〈陪審員〉に協力せざるを得まい。彼の今にも崩れ落ちそうな足下を、抜け目なく見計らって、この内偵監察にも近い潜入捜査を呑ませたのだ。

 ビル・リットンがやや緊張した様子で尋ねる。

「……今回の件に関しては、私が狙われているようですが、本当にここに現れるのでしょうか?いえ、ホーエンローエ様を疑っているのではありませんが、しかし、ここは我々〈薔薇十字愛好会〉の本拠地です。親愛なる同志の会員以外は、厳しい入場規制が掛かっていますし、セキュリティシステムも万全……保安の面では、ここを犯行場所とするようには思えませんが」

 私はリットンの主張に肯く。

 この懐古趣味も甚だしい劇場は、〈薔薇十字愛好会〉本部ビルの地下にあり、四階分相当のスペースと巨額の施工費を投じて作られている。そして地上には偽装工作、一種のカモフラージュとして建設された、 二十階建ての複合ビルが構えてあった。ビル自体は金持ちの会員が合同名義で出資・所有しているもので、地上でビルを一見しただけでは、立派なオフィスビルそのもの。巨大な地下空間はビルの図面にすら残されていやしまい。

 彼らからすれば、最新の防犯設備を導入したセキュリティ万全の根城、とでも思っているのだろう。

「ええ、仰る通りでございます。しかし、何もここで犯行をする心算がなくとも、例えばリットン様の姿を確認するための下見、という可能性も捨てきることはできません。普段人前に御出になられない貴方を、一目でも見ようとするのであれば、この〈会合〉ほど都合の良い時は御座いませんでしょう?」

「それは、そうかもしれませんが……」

「私は〈陪審員〉です。御安心下さいませ。貴方の身の安全は必ずや保障します」

 そうはっきりと断言してみせると、リットンは、漸く猜疑の念を払い落したらしい。ええ、お願いします、と切々とした口調で続けてから、何かあったら連絡を寄越すよう、何度も執拗なほど言い含めて通話を切った。

 困ったものだ。

 溜息を吐かぬにしろ、小さく鼻で笑わずにはいられない。

 ふと数段先に通路と面した空席を認め、足早に降りていき、そのまま浅く腰を下ろした。首から提げていた暗視スコープを目元に運び、舞台上に照準を合わせながらも、まるでヘドロでも飲んだかのような苦々しさを味わわざるを得なかった。

 ――――――〈薔薇十字愛好会〉ね。

 そもそもこの愛好会の原型、或いは総元締は、一八六〇年に発足した魔術結社だ。ビバリー・ランドルフ。アメリカ初の「薔薇十字団体」を設立した人物で、ニューヨークのスラム街に育ったのち、一八五〇年代に訪れた英国で「神秘主義」――――ヨーロッパで花開いた魔術の春、あの悪名高い『黄金期』の一端に触れたらしい。帰国後、彼は薔薇十字団体を設立して、インドのタントリズムなど東洋の魔術をも組み込んだ、彼独自の「性魔術」による魔術的啓示を実践し始めた。そして、一七世紀の様々な文献において、〈薔薇十字団〉が掲げたとされる「魔術による世界の啓蒙と改革」を受け、生命の神秘への到達を目指すようになった、というのが基礎知識といったところ。

 「エウリス、ピシアナ、ロシクルシアの至高のマスター」。「三つの教団の主」。

 ランドルフが自称した二つ名を思い出す。

 それこそアメリカにおける近代魔術の開祖、いや、開闢ともいえる男が名乗ったのならば。俗にカリスマなんて呼ばれる人種は、皆、そんな馬鹿げた綽名を背負いたがるものなのだろうか。被疑者、ジェローラモ・ヴァレンティーノが公に自称していた名前がふと浮かんだ。ヴィスコンティ。イタリア語の「子爵」が原義で、実際、イタリア貴族の家系の一つに数えられているはず。

 齢三十二歳の若輩者であろうに、よもや、彼は自らを天才と宣うつもりとは。

 カリスマ。

 人を惹きつける天才。

 天性の素質。

 そんなものを信じたところで、所詮、都合の良い幻想でしかあるまいに。

 これから行われる〈会合〉の行程を思い浮かべ、ほとほと辟易しつつも、無責任に放り出すわけにもいかぬと諦め半分に息を吐いた。タイムテーブルの問題ではなく、単に、気に食わないのは内実のほう。クラウドに備えたクリップボードに付箋代わりと貼りつけておいたのを、二、三度指先を左右に振って剥がしてくると、数字と単語が詰め込まれたメモが現れる。

 時刻と「出し物」を併記した、綿密なほどのタイムスケジュール。その末尾には、乱交パーティー、との注釈が荒れた字で足してあった。

 今晩開催される〈会合〉とは、何も、単なる享楽の為ではない。

 「性魔術」が齎す快楽によって、生命の神秘へと至る―――――ことを目的とした、れっきとした魔術集会。それがビル・リットンら〈薔薇十字愛好会〉の会員が主張する〈会合〉なのだ。私が敢えて「パーティー」と称したのも、フリーセックスというより、「乱交社交会」なんて呼び名が相応しいだろうとの皮肉から。

 私の扱う魔術には、そもそも、性的快楽は必要ない。

 そも厖大な種類を数える〈魔術〉のなかには、性行為を魔術儀礼として定め、一つの手段として利用するものもある。とはいえ、今ではそれもごく少数のこと。確かに近代魔術師のなかには、「性魔術」とやらに大層入れ込んで、「魔術行為」と憚らず麻薬とセックスに溺れた者はいるものの。

 それが魔術的意義を持っているかは、こちらとて与り知らぬ範疇の話だった。

 舞台に定めていた暗視スコープを外したところで、ブザーが鳴り始め、やがて〈会合〉の開幕を告げるアナウンスが流れ出した。

 私は舞台上で繰り広げられるだろう、「実演」を見る気もなく、ウィンドウを並べた拡張現実を見ながら思考の海に身を投げる。さながら、荒れた大海原に漂泊するよう。何度も白い波濤に揉まれ漂いながら、しかつめらしく思案するのはこれからの采配についてだった。

 采配。

 今回の件についての然るべき措置。

 それは被疑者に対する執行処分だけでは事足りぬ。

 ジェローラモ・ヴァレンティーノの身柄確保が大前提の確定事項だとして、本題は寧ろ、ビル・リットンと〈薔薇十字愛好会〉の今後にある。彼らが〈連盟〉上層部だけでなく連中にも、箆棒な額の金を握らせているならば、こちらの処遇によっては流血沙汰にも繋がりかねない。今まで甘露を啜ってきた〈連盟〉も黙っていないはず。とはいえ、リットンたちの振舞いは目に余る。

 これは単に「出る杭は打たれる」、というだけのこと。

 ――――――〈薔薇十字愛好会〉は調子に乗り過ぎた。

 私はほんの口の動きだけで、〈陪審院〉司令部の意向を暗に示すように告げる。

 赤い緞帳の捌けられた舞台を数台のスポットライトが照らすのに比して、かえって劇場内の席を浸す倉が闇の濃さが際立ち、煤煙から精製されたランプ・ブラックが濛々と立ち込めるよう。ぽつぽつと儚げに点るのは、柑子色の蝋燭の明かりばかりで、何も鮮明に照らしはしなかった。

 暗視スコープで客席の様子を覗きながら、しかし、とめどのない思案を掬って呷る。

 まず被疑者を捕らえることが最優先―――――そう思ったところで、ふいに頭蓋の隅でほんの些細な違和感がちらついた。

 「親愛なる同志の会員以外は、厳しい入場規制が掛かっていますし」。

 「セキュリティも万全」。

 ビル・リットンが易々と請け負うた安全性が真に盤石のものだと誰が言えようか。最新鋭のセキュリティシステムと各種の防犯設備が、随所に講じられているといえど、完璧な予防線なんてものが存在するはずはない。例えば、被疑者と通じた協力者がいたとしたら。何せ若きカリスマ。会員の一人や二人、手籠めにするくらい易い。ビル・リットンの情報を貰い受けるのに加えて、彼の動向、そして〈薔薇十字愛好会〉の会合についても手中に収められた。

 ジェローラモ・ヴァレンティーノは、観客として劇場に紛れ込むだけでなく、次の標的としてビル・リットンを捕らえることも可能なのではなかろうか。いや、と即座に否定する。そもそもこの会場に侵入できるとした時点で、彼は「下見」などではなく、本当に殺害する算段を組み上げていると考えるべきだったのだ。

 彼がリスクを冒してまで、二度もこの建物を訪れるとは流石に思えなかった。

 だとしたら。

 「――――――もしや、あなたも今回が初めてですか?」

 初参加だと話し掛けてきた男が、スウ、と一つの像を目蓋の裏で結んでいた。

 ジェローラモ・ヴァレンティーノ。

 彼がそうだったとすれば。標的が、ビル・リットンの身が危ない。

 そう数秒の空白を置いて気付くと、すぐさま通話履歴を紐解いてリットンに連絡を入れたものの、設定されたコール音が鳴るだけで応答は返って来やしない。

 私が三度目のリダイヤルを試みるなか、劇場の覚めやらぬ興奮は最高潮を迎え、バチバチと爆竹なんかの類が爆ぜるような拍手が客席から溢れた。舞台上での「実演」が終わったらしい。

「では皆様、ご用意致しました別室にお移りいただきまして――――――」

 スピーカーから女のアナウンスが聞こえる。

 ここからは劇場の上階にある小ホールに移り、参加者同士の「乱交パーティー」が開催されると、タイムスケジュールに記載されていた旨を思い出しながら席を立った。今までの下品な見世物は、ただの「御手本」でしかなく、本番はあくまでも別の会場で行われる手筈になっていた。

 これが狙いだったのだろう。

 彼の目論見は最初から――――――この参加者たちが一斉に暗中を移動し、「パーティー」の余熱で警備が手薄になる、今この瞬間なのだ。黒い襤褸じみた人の群れに身を潜め、予め知らされたリットンの居場所で接触後、脅迫でもして連れ出してしまえば終い。

 長々と続く階段をタタタッと蹄のような靴音を鳴らして駆け上っていく。警備係の立った出入口の扉をすり抜けて外へ飛び出す。そのまま人波を縫うように歩を運びざま、重ったるいローブを引き剥がし、ジャケットの懐に挿しておいたニワトコの杖を引き抜いた。劇場前のロビーを矍鑠と闊歩して渡り、クロークの受付嬢に短く「一二四番、箒と黒のコートを」と頼んで、預けた黒い外套と白樺製の箒を受け取る。

 ――――――しくじった。

 私としたことが、どうやら、とんだ下手を打ったらしい。

 エニシダと白樺で編んだ箒に、ヒラリ跨り、細枝の束を蹴って空へと舞いあがる。それから、右手にしたニワトコの杖先でルーンで編んだセンテンスを記すと、いっそ底冷えのする声で命じた。

「――――――追いなさい!」


 次の第4節の更新は2、3日後を予定しております。

 少しずつではありますが、精進しながら更新して参ります、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

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