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10 in BLACK  作者: 森 鸚綠
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3.「Blood Parabellum Bullet」

 今節から「10 in BLACK」 第3話となります。

 前回よりも更新間隔があいてしまうかもしれませんが、ゆっくりと、今回もお付き合いいただけたらと思います。第3話については舞台をアジアに移して、よりアクションを多めに配合しながら、前話に比してテンポよく、をモットーで頑張ります。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 


 地面に映った黒い影が、スッ、と指鉄砲のカタチを作った。

 もちろん、引鉄はない。

 まっすぐ指した右の人差し指が示すポイントで、半透明のフィルタ越し、赤い破線で描いた延長線上に白目を剥きかけた男が蹲っている。

「――――――target in sight.」

 この呟きが聞こえたかどうかはわからない。

 急に白い泡を噴いて目をひん剥いたままだった男が、薬漬けの混濁した意識から、ずるりと這い出すように身をもたげた。う、うぅ、と野生のケダモノのごとく唸りながら、黒ずんだ歯茎を、メレンゲになりそこなった卵白のような唾に塗れさせたのを露出する。

 このザマでは、マトモな自我が残ってるかも、到底解ったもんじゃない。見るからに粘っこい唾液の黄色がかった泡が弾けて、だらしなく弛んだ口端と、それから荒れた皮膚をゆっくり伝い落ちていく。薬物中毒者の生体標本。これまたグロテスクな絵面だ。

「いやだ、あ、おれ、ああ、し……死にたぐッ、ない、いやだ、あああああ……」

 死にたくない、と男が鸚鵡のように言う。

 複数の薬物で調教されてしまったとはいえ、一応ヒトという動物としての生存本能は、まだ健常者と同様に機能しているらしい。まぁ、そんなものがあっても、今際も死に様も変えようがないんだけど。

 赤黒い血液が呪素と混じり合って、一発分、9ミリパラべラム弾――――9x19mm、直径9㎜、薬莢の長さ19㎜――――を模った銃弾が一発分、右の指先に装填される。オレには銃火器の類はいらない。ただこの肉体が生きていて、心臓が脈打ち、赤い生血が流れ続けているのなら。弾を撃つには十分だ。

 オレはゆっくりと指を折る。

 そこには見えもしない、一グラムの重みもない引鉄を引いた。


 第3話1節、お読みくださってありがとうございました。

 次節の更新は、一週間前後空けてを予定しております。またお付き合いいただけたら幸いです。

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