【ハロウィンパーティ】あの日の約束
リアルとリンクする小説始動。
今日は10月31日。
世間ではハロウィンということで、みんなで仮装するパーティーが開かれるらしい。
しかし、パーティーといってもなにをするかはまったくわからない。不明瞭なパーティーらしい。
というかそもそもハロウィンというのは魔女などの格好をして「トリックオアトリート」と言い、お菓子をもらう子供たちのにこやかな行事じゃなかったっけ?
それなのにいま日本で行われているハロウィンは『仮装して騒ぐ』ような感じになってる気がする。しかもその仮装も魔女のような西洋風にとどまらず、アニメキャラクターなどにまで仮装するようになっている。
そして僕、結城圭織ゆうきかおるは現在そんな秩序の狂ったパーティーに参加している。まわりにはフランケンやガチャピン、悪魔などがジュースを片手に談笑している。正直に言って怖い。というか混沌と化している。
この会場は僕のクラスの有名なお金持ちのお嬢様である水橋咲みずはしさきによって用意されたものらしく、僕の教室の5倍ぐらいの広さがある。そんな有り余る広さを利用してか、会場の中心にはイチメートルほどあるお菓子の山がとてつもない存在感を放ちながら堂々と居座っていた。さらに会場の外にある更衣室には仮装の衣装を用意してあるのだ。用意周到にもほどがある。
僕はその更衣室にあった適当な服を着て会場に来たのだ。
「はぁ。お菓子でも食べるか」
僕は咲に頼まれて仕方なく来ただけで特に僕はこのパーティーに参加したかった訳ではないし、そもそも僕はそんなにこういうパーティーに参加するような人間ではない。どちらかと言えばどんな祝い事があっても家でずっと本を読んだり、テレビを見たりして過ごすような、そんな人間だ。
そんな遊び慣れてない僕が『遊びの会場』に来てしまったのだ。当然、一人になる。
僕を誘った咲も今はまわりの妖怪の相手で忙しいらしく、こなきじじい(?)とハロウィン談義に花を咲かせている。
中央のお菓子の山に着くと、僕はしゃがんで下の方にあったミニチョコレートを適当に取った。
すると同じくお菓子の山でお菓子を漁っていたクラスメイトが話しかけてきた。
「アンタもお菓子食べに来たの?」
僕が顔をあげると目の前に魔女がいた。いや、べつに本物の魔女ではなく仮装だ。
茶色い髪に垂れた目ですこし、幼い感じの顔。それと同じく幼い身長。彼女はクラスのロリ女王である今泉希いまいずみのぞみだ。
僕は立ち上がりながら答える。
「そう言う希ちゃんはそんなにお菓子を抱えてどうしたの?まさかそのお菓子全部食べるつもりなの?太っちゃうよ」
僕が言うと希ちゃんは抱えてたお菓子をさらに大事そうにぎゅっとして答えた。
「なにいってんの!私はこれを全部持ち帰って家でゆっくりしながら食べるのよ!こんなにたくさんのお菓子なのに1日で食べちゃうなんてもったいないじゃない!あと、このカロリーは全部身長にするから問題ないの!」
「よしよし」
「なんで頭撫でるのよ!」
いつのまにか希ちゃんの頭を撫でてしまっていた僕の手を希ちゃんは払った。
「ごめんごめん」
僕は謝ってその手を引っ込めた。いやー。いつもの癖とはいえすこし、失礼なことをしてしまった。これからはすこし気を付けなければいけないな。
僕はチョコを口に入れて静かに山から離れることにした。
「じゃあ、僕はこれからメインディッシュに手をつけてくるよ」
「はいはい。いってらっしゃーい」
希ちゃんの適当な返事を背中に受けながらみんなの集まっている場所に向かった。
そこにあるのはバイキングコーナーである。カボチャのスープのようなハロウィン仕様の料理からサラダやカレーなどの様々な料理が100種類並んでいて、ジュースも20種類ほどある。そのためみんなそれをめがけて会話をしながら料理を選んでいる。
僕も同じようにコーナーの隅にあるトレイに皿を乗せて料理を選んでいく。まわりのみんなと会話をすることなく、目的の料理だけを次々に取っていく。
結果僕のトレイにはカル〇スとと唐揚げとサンドイッチが適当におかれることになった。ちなみにカル〇スに『〇』が入っていることには触れないでほしい。そもそもそういう商品なのである。気にしてはいけない。
さて、これを食べるところを探さないと。
会場をぐるりと見回すと会場の角に食事スペースを見つけた。こんなもので用意していたのか。さすがだな。
僕は食事スペースの1番端っこに座ってみんなの様子を見ながらカル〇スを飲む。うん。やっぱり美味しいな。
しばらく夕食を楽しんでいると主催者が僕の方へやって来るのが目に入った。
「やぁ」
僕はかるーく手を振りながらそんなことを言ってみた。
「どうも、アタシのパーティーは気に入らないのかしら?」
これはこれは、なかなか手厳しい。
彼女はこのパーティーの主催者であり、この会場をセッティングしたお嬢様、水橋咲。容姿端麗で性格もいい。これまでも委員長になったり、生徒会長になってみたりしていた。
そして、彼女は僕の幼馴染みでもある。そう、言ってしまえば腐れ縁だ。小学校から高校までずっと同じで、聞いてみれば幼少時代にも面識があるらしいのだ。
しかし、僕は覚えていない。彼女が言うには『なにか重要な約束』をしたんだそうだ。
彼女は背後に禍禍しいオーラをまといながらやって来ている。こ、怖すぎる。
というか似合い過ぎている。彼女の仮装はフランケンらしい。なんでそれを選んだんだ。
「いやいや、まったくそんなことはないよ。それどころか楽しすぎて疲れちゃうぐらいだよ!」
僕は彼女のみんなには見せない一面を知っている。
いつも彼女はまわりの人から完璧な人間だと言われている。そのお陰で彼女のまわりには常に人がいた。彼女がまったく知らない人までいた。しかし、彼女はそんな人まで受け入れて、にこにこと笑顔を周囲に振り撒いている。
しかし、彼女だって人間だ。どこかで確実に失敗するし、成功が続くというのは必ずしも自信に繋がるとは限らない。成功がまわりに認められれば、それは重荷になってしまう。
『失敗したら失望させてしまう』『明日は成功できるだろうか』
そんな思いが生まれてしまう。
そんな自分を保つために彼女はいつも僕に暴言を吐く。自分が自分に思っていることをすべて僕にぶつけて安心するために僕を傷つける。それはもはや『きまり』であった。それをしなければ彼女が消えてしまう。そんな思いから僕がはじめた『きまり』だったのだ。
「まったくそれならいいのよ。あと、それならなんでアタシのパーティーにちゃんと参加しないのよ!」
彼女は僕の向かいに座りながら言った。
ふむ。『なんで参加しないのか』か。たしかに彼女にとって僕は参加してないように見えてしまうか。
「いや、僕は参加してない訳じゃないよ。僕にだって僕なりの考えがあるんだよ」
「へぇー。じゃあその考えとやらを聞かせてくれない?」
よし。じゃあ聞かせてあげよう。僕の一世一代の言い訳を。
「いいよ」
僕はカル〇スを飲み干して話を始めた。
「咲も知ってると思うけど僕はもともとこういうパーティーに参加するような人間じゃないんだ。だって僕はいっつも影で活動してきたようなものだからね。まぁ、かっこよく言えばの話だけど。
そして、あそこにいる希ちゃん。彼女も僕と同じ人間だと思うよ?だっていまも僕が話した時と同じようにひとりで山を漁ってるでしょ。べつに希ちゃんが貧乏だから山のようにあるお菓子を持っていきたい訳じゃないよ。彼女は僕と同じように時間を潰しているんだ。
僕はここで食事をしてこのパーティーが終わるのを待ってる。希ちゃんはお菓子の山を漁って同じく終わるのを待ってる。
それに、僕や希ちゃん以外にも隅で固まって小さくなってるグループもあるよ?彼らはたぶん咲のグループに入りたいんだけど咲が僕のところに来ちゃったからどうすることもできなくなってしまったんだ。
そして、ここで僕は『参加』ということに触れよう。
僕が参加していないように見えるのはしかたのないことだよ。それぐらいなら僕でもわかる。でも、すこし、待ってほしい。たぶん咲は咲のグループから離れているから『参加してない』とと言ってるね。
でも、小さくなってるあのグループも──。」
彼らはテーブルに座って再び談笑に耽っていた。
「ほら。あの通り、楽しんでいるよ?それなのに参加してないの?それはおかしいじゃないか。参加っていうのは客観的なものではないだろう?まわりから参加してなくても自分が参加していると思えばそれは『参加している』ことになるんだ。
それすら許されなくなってしまえばそれは独裁政治と同じだと思わないかい?」
咲はさっきまでの威勢はどこへいったのかという風にずっと黙って聞いていた。
久しぶりに僕のことを話した気がする。
「────わかった」
咲はしばらくの後にうなずいた。
「じゃあ、アタシがみんなを参加させてあげるよ」
咲は僕の手をとって大股で歩きだした。
「みんなでもりあがるんだ。」
小さく聞こえたその決意を僕は否定したくなった。
でも、今日ぐらいはいいだろう。
今日は10月31日。ハロウィンだ。
みんなで自分じゃない誰かになりきって楽しく盛り上がるパーティーの開催日。僕もたまには盛り上がろう。
たとえ、明日には元通りになってしまうとしても。今日限りの特別だ。
「みんなー!楽しむよー!」
みんな流されるようにその声に乗っかった。
今日はいつもよりも楽しそうだ。
「ねぇ、なんで参加することにしたの?」
偶然隣に来た希ちゃんが尋ねてきた。いや、ほんとは僕の隣に来たのは必然なのだろう。
僕はそれを察しながら答える。
「咲が昔に言ったんだよ────って」
希ちゃんは笑った。
「私は応援するよ!」
僕は笑おう。
あの日の約束を守るために。