月の土地
「ほら、月の土地を買ったぞ。」
ある民間企業から月の土地を購入した男は、土地の権利書を妻に見せながら言った。
「やったわね、あなた。これで私達も月の土地の地主ね。」
と、妻は冗談っぽく笑いながら答えた。
「とは言え、いくら月の土地を買ったからといって、月に行けないのでは意味がないけどな。」
「あら、そんな事ないわよ。夢があっていいじゃない。月見の時の楽しみが増えたと思えばいいでしょ?」
「ううん、そういうものだろうか…。」
「そういうものよ。だから買ったんだもの。」
「まあ確かにな。」
夫婦がそんな会話をしていると、突然部屋のドアを開けて入ってきた、明らかに人間ではない異様な姿の侵入者が、
「俺は月からやってきた者だが、お前ら、ここは俺が購入した地球の土地だぞ。さっさと出ていけ。」
と、懐から取り出した地球の土地の権利書を夫婦に見せつけた。権利書を見せられた夫婦は、逆らっても無理そうだと悟り、未だ手軽に月に行く事の出来ない地球の科学を呪ったのだった。