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一発ネタSFシリーズ

ユートピアをつくるコツ。あるいは分配と平等の原理

作者: ミミズク

差別的と取られる表現があるかもしれません。事前に謝っておきます。

 人類はついに安定した富を手に入れた。にもかかわらず仕事はますます増え、時間はいつでもカツカツだった。

 社会学者のT氏はこれは労働の分配と資産の分配がうまくなされていないためだと考えた。

 未だに人間の能力には差があり、生まれついての環境にも差があった。

 T氏が政府と一緒に最初に行った政策がベーシック・インカム(BI)だ。これにより全国民の給与が保証され、人々は労働から開放された。


「あなたの労働生産性は基準以下です。はたらいてはダメです」


「なんで俺がはたらいて得た金を無能な下民どもに分けてやらねえといけねえんだ!」


「・・私は働きたいんです。お金なんかいらない。ただ社会の役に立ちたいんです」


「社畜乙。ホント天国ですよ。日々ダラダラできるんだから、これ以上の平等はないと思いますね」


 BIは様々な感想をもって迎えられた。結果は概ね不評だった。


 T氏は当初、有能で恵まれた人々は労働により賃金と賞賛と自己研鑽ができることに幸福を感じ、無能な社会不適合者たちは前者を尊敬することによりお金をもらえ、働く必要がないというバランスは完全なものだと考えていた。


「大事なのは所得の分配よりも労働の分配なのか!」

 着想をえたT氏は政府と組んで教育改革に取り組んだ。








「ようこそ外国親善大使の皆様。わたくし共の工場に見学しに来ていただき誠に光栄です」

 太って脂ぎった工場長の増田は異国からの見学者たちを誇らしく迎えた。


「これは何をやってるんですか?」

 イギリスからの大使が尋ねた。


「彼は車の部品を作っています。我が社の根幹に関わる重要な部品です」


「ほうそれはすごい!というのも彼は手が不自由なのではないでしょうか?」

 そう聞いたのはアメリカからの大使だ。


「ええ、彼はバイク事故により体に麻痺が残っています」


「素晴らしい!!」

 この答えには欧米からの使者たちはご満悦のようだ。


 絶賛を聞いて増田の鼻は膨らんでいる。

「ですが、それだけじゃありません!我が社では労働者の4分の3が身障者や障害者です。中には重度で他ではなかなか働けない方もいます!」


「ハラショー!ハラショー!」


「・・しかしその話は夢物語のように感じます。見てください、あの部品を」

 そういったのはフィリピンからの使者だ。


 そこには誰の目から見ても歪んだようにみえる『根幹に関わる重要な部品』があった。


 それを聞いて我が意を得たりと増田は頷いた。

「ええ、それは大丈夫なんです。みてくだい」

 そういうと増田は次の工程を指さした。

「あそこで全部溶かすので、完璧な製品は機械が造ってくれるんですよ!」


「・・・・・・」

 自信満々な増田に対して一同は唖然としている。


「現代の車産業において9割以上は機械が人間よりも早く正確に作ることができるのです」


「・・それなら労働者を雇わなければいいのでは?」

 一同は当然の疑問を投げかける。


「労働者から仕事を奪うなんて、なんて非人道的なことを言うんですか!!」

 増田は信じられないものを聞いたかのように驚き呆れた。


「我が社は完璧な労働と賃金の分配を達成しているんです!」


「・・・・」

 一同は不満ながらも彼についていった。


「これが完成品ですね?」

 車に詳しいドイツからの使者が関心したように言う。


「ええ、そう思いますよね。・・実はこのあとが我が社の秘伝なんです」

 増田は機嫌をなおし、不敵な笑みをたたえながら最後の工程を指さした。


「・・こ、これは!」


「ええ、すべて溶かすのです」




 現在、生産ラインは労働者を雇うため日々誰も乗らない車を作り続けている。

 原料が安くて済むのが増田の自慢だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 虚構新聞の書籍での「記事の作り方」を思い出しました。
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