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分岐物語 ☆→A:やっぱり小動物を撫でたいし、触れ合い体験コーナーに行こう。

10日に間違えてアップしてしまった分岐先、

「A:やっぱり小動物を撫でたいし、触れ合い体験コーナーに行こう。」

を選択した場合の物語です。


フライングで、こちらだけ先に公開します!


それでは、触れ合い体験広場へレッツゴー!!




 さっき黒茶の髪の男性が言った「ある意味世界一危険」って言葉が気になる・・・けど。非常に気なるけどっ!

 せっかく動物園に来たんだし、可愛い小動物を抱っこしたり、なでたりして癒されたいっ。

 動物と触れ合う機会なんて、日常ではそうそうないし。


 やっぱり、触れ合い体験コーナーに行ってみよう!


 まだちょっと怒ったような表情で黒茶の男性を睨んでいる薄茶色の髪の女の子にそう言うと、ぱっとこっちを見て嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「それじゃあ、右手に見えるコーナーに進んで下さいね!」

「・・・係員の指示は絶対に守ろうね」


 髪を直し終わったあとはそのままどこかうっとりと頭を撫でていた男性は、ちらり、と一瞬だけ視線を投げて寄越した。

 なんとなく不機嫌そうなのは、薄茶色の女の子に笑顔を向けられたことへの嫉妬だろうか。男性がこの女の子のことが好きなのは、この短時間で嫌と言うほどよくわかった。

 だって、甘くて、ものすごく甘くて、見ているこっちが恥ずかしくなってくるほど甘い視線を女の子に向けているから。

 ・・・来場客の前でそれは、動物園のスタッフとしてはどうなんだ、と思わなくもないけれど。

 余裕のない男は嫌われるぞー、と呆れた視線を投げ返すと、どこかショックを受けたような眼差しが向けられた気がしたけど、気にせず言われた通り右手にあるコーナーに向かった。

 背後で何やらもめているような、いちゃついているような声が聞こえるけど、まぁ女の子の方が主導権を握っているっぽかったから大丈夫だろう。


 さぁ、いったいどんな係員が待ち構えているのかとドキドキしながら受付台のところを見ると、飼育員っぽい制服を着た薄茶色の髪の男性が、後ろの方を向いて何かをしているみたいだった。

 なんだ、横顔しか見えないけど、すごく優しそうな飼育員さんだ。もしかして、さっきの黒茶の男性はからかっていただけだったのかも?

 ほっとしていると、飼育員さん(仮)がこっちに気がついて、笑顔を浮かべた。


「あ、体験希望のお客さん? 今ご飯の時間だから、ちょっと待ってね」


 ご飯タイム!?

 それは是非ともみたいっ!

 思わず台の奥を覗くと、つぶらな目をしたウサギさんが飼育員さんの手から葉っぱをもらって食べているところだった。

 うああっ、か、かわいいっ!

 惚れ惚れしながら、ウサギの小さな口がもぐもぐと動いてご飯の葉っぱが消えて行くのを見ていると、飼育員さんが中に入れてくれた。


「中では静かにね? 気の小さい子もいるから」


 驚かさないようにってことだよね、了解っ!

 他にどんな子がいるのか、ドキドキしながら中に入ると、いきなり壁に突き当たった。あれ、なんでこんなところに壁が?

 ・・・視線を上げて、咄嗟に手で口を被った自分を褒めてあげたい。超褒めてあげたい。そうでなかったら、飼育員さんに静かにって言われたのに、全力で悲鳴を上げてしまうところだった。

 壁だと思ったのは、金髪に同じ色のヒゲを生やしたとんでもなく厳つい男性の背中だった。本気で壁だと思ったのに・・・って、どんだけ大きいんだ!?


「なんだ、体験希望者か」


 着ているものが、さっきの飼育員さんと同じなんだけど、え、この人も飼育員!?

 いやっ、ありえないでしょうっ!?


「悪いが、こいつは今機嫌が悪くてな。飯も食いやがらねぇから、他に行ってくれや」


 地獄の番人と言われたほうがしっくりきそうな男性が右手に視線を向けたのにつられて視線を向けると、男性の右腕に一匹の猫が怒りもあらわにかじりついていた。

 ・・・ね、猫? 


「まだガキでな。躾がなってないんだ」


 いや、猫にしてはかなり足が大きいし、牙が太い気がする。

 猫っぽい何かは、男性の言葉に更に怒ったように、腕を噛んだまま、後ろ足で男性のお腹のあたりに蹴りを入れている。

 ・・・なんとなく「レディに向かって失礼な!」的な怒りを感じるんだけど。

 地獄の番人のような飼育員に向かって、なんて勇気があるんだろう、この猫っぽいなにかは。

 悲鳴を上げることはなんとか耐えたものの、静かに怒りを蓄積させていっているとしか思えない男性を直視し続けるほどの勇気もない私は、そそくさと離れさせてもらった。

 破裂しそうな風船を見るドキドキ感はあんまり好きじゃないからね!


 他にはどんな子がいるのかな、と周りを見回すと、銀髪の飼育員が真っ黒な猫にご飯をあげているのを見つけた。

 猫だ、今度こそ、間違いなく猫だ。

 ほっそりとした小さな足に、長い尻尾。どこか気品が漂う佇まいに、切れ長の大きな瞳。

 猫って割と美醜がはっきりしている生き物だと思うんだけど、この猫さんはまごうことなき美猫さんだ。

 ・・・動物園に、猫?

 再び不思議に思いつつも様子を見ていると、銀髪の飼育員のお世話を嫌がっているみたいだった。

 この飼育員、入ったばかりなのか、いきなり抱き上げようとしたり、撫で回そうとしたり、明らかに猫が嫌がりそうな事ばかりしている。

 というか、ご飯を食べようとしているのに邪魔をしちゃいけないでしょう、と思って見ていると、真っ黒な美猫さんと目がバッチリあった。


 銀髪の飼育員の手から、ひらりと身を躱した美猫さんは、そのままこっちに向かって歩いてくる。

 おおっ! 歩く姿も気品がっ!

 ツヤツヤの毛が、私の足になつくように体を寄せて来たから、驚かさないように静かにしゃがんで、ゆっくりと手を差し出してみた。逃げない。よし。

 そっと撫でてあげると、喉を慣らして甘えてくる。


 ああっ、可愛い、可愛いぞっ!


 内心身悶えしながら撫でていると、突き刺されるような視線を感じてびくっと手を止めるのと、美猫さんがやれやれ、というように小さなため息を吐いたのが同時だった。

 銀髪の飼育員が、睨んでる、明らかに睨んでるっ!!

 ってか、お客さんを睨んじゃダメだろう、と心の中で突っ込みつつ、冷たい青い瞳をさらに凍てつかせた絶対零度の視線に硬直していると、なぜか美猫さんが申し訳なさそうに一声鳴いて飼育員の方へ戻っていった。

 すぐさま抱き上げようとした飼育員に向かって、短く、でもどこか厳しさを含んだ声で鳴く。

 ビクッと手を引っ込めた飼育員は、チラリとこちらを見た後に、静かにしゃがんでゆっくりと手を差し出してから、そっと撫でる。

 まだどこか厳しい目で飼育員を見つつも、撫でさせてあげている美猫さん。

 さっき美猫さんが申し訳なさそうに鳴いた時、「躾がなってなくて、ごめんね」という風に聞こえたのは、どうやら気のせいじゃなかったらしい。


 うん、一言だけ言わせて。

 ・・・どっちが、飼育員?


 絶対零度の生き物には興味がないので、美猫さんの躾の邪魔をしないように別の子を見に行こうとすると、美猫さんがさりげなく尻尾で「バイバイ」してくれたことにまた身悶えしてしまった。

 なにげにちょっとしか美猫さんをなでられなかったから、余計に触れ合い欲求が高まってしまった気がする。

 今度こそ抱っこするぞ! と気合を入れて周囲を見回して。


 本日二度目の硬直を体験した。


 さっきの地獄の番人のような飼育員ほどではないけど、縦にも横にもかなり大きくて地獄の番人其ノ二と言った方が良さそうな厳つい顔をしている焦げ茶色の髪の飼育員、の、大きな手のひらの上に、ちょこん、と乗った小さなリス。

 ・・・ミスマッチッ!! 

 リンゴを軽く潰してしまいそうな、武器がよく似合いそうなでっかい手のひら。

 ふかふかな毛で覆われて、長い尻尾をゆらゆらと揺らしながら、大きな真っ黒の目をくりくりと動かす可愛い小さなリス。

 もう一度言おう。

 ミスマッチッ!!

 責任者出てこい、と叫びたい。というかここの飼育員、最初の薄茶色の男性以外全員配置ミスだろう!


 若干気が遠くなりながらも、小さく首を傾げている小リスに視線が向く。ふっくらしたリスのお腹がめちゃくちゃ可愛い。

 触りたいなぁ、と思いながら見ていると、焦げ茶色の髪のでっかい飼育員にじろり、と睨まれた。

 ・・・スタッフの教育係も出て来い。


 睨まれたことにビビりつつ、小リスのふくふくしいお腹が諦め切れずになんとか踏みとどまると、キュッ、と小さく小リスが鳴いた。

 焦げ茶色の飼育員が小リスに一瞬視線を向け、あからさまなため息をつく。


「まずは、そこの強力洗剤を使って手を3度洗い、消毒殺菌した上で・・・」


 延々と、じつに延々と。

 手の洗い方から消毒の仕方、受け取るときの作法、撫でる角度、その他諸々まで指定した注意事項を聞かされたのだけど。

 そんなの、覚えきれるわけないだろうが!

 と、激しく突っ込みたい。できることならハリセンも使わせて欲しい。

 なぜか小リスの方が驚愕したように、ただでさえでも大きい黒目が零れ落ちてきそうなほど目を見開いて飼育員を見ていたけれど、飼育員の方は涼しい顔で、やれるもんならやってみろ、と言わんばかりの顔だ。

 もう一回同じことが言えるかどうか試してやろうかと思ったけど、それがあっているかどうか確認できないからやめておいた。


 というか、ここ、触れ合い体験コーナーだよね? でもこの人、触らせる気無いよね?


 小動物に触って、抱っこして触れ合おうっていう体験コーナーなのに、触れたのは美猫さんだけってどういうこと。

 がっくりと肩を落としていると、落ち込んでいる私を慰めようと思ったのか、焦げ茶色の髪の飼育員の手から、小リスがこっちへジャンプしてきてくれた!


 と思ったら、飼育員に空中でキャッチされた。


 思わず見つめ合う、私と小リス。

 ・・・飼育員よ、空中キャッチはやってもいいのかい?


 決死のダイブが失敗に終わった小リスは、キュゥキュゥ、と鳴いて、飼育員に抗議しているらしい。飼育員は小リスを片手に移して、反対の手でコーナーの一角を指さした。


「あれなら丈夫だ」


 その方向を見ると、柵の隅っこに籠が置かれていて、何かわからないけど真っ白い毛玉みたいなものが上下に動いていた。

 なんだろう、すごくふわふわしている。

 うさぎ、かな? 

 近づいて籠の中を覗き込むと上下に動いていた毛の塊がくるん、と回転して、真夏の雲一つない青空みたいな青い目が出てきた。

 うわっ、キレイな目!

 フカフカの毛も非常に気持ちがよさそうで、驚かさないようにそっと手を伸ばすと、クワッ、と大きく口を開けて威嚇された。

 驚いて手をひっこめるのと、キュゥ、という悲しげな声を小リスあげるのと、威嚇した謎の生き物が慌てて口を閉じるのとが、ほぼ同時だった。

 一瞬見えた口の中には、ふわふわの毛と同じくらい白くて鋭い牙が何本も並んでいるのが見えたんだけど。


 ・・・もうここ、小動物の触れ合い体験コーナーじゃないよね?


 なんで明らかにお肉大好き!って感じの牙を持っている子が小動物にカテゴライズされてるんだ、責任者と経営者、まとめてハリセンボンで滅多打ちの刑にしたい。


 おかしい。

 ただ可愛い小動物に癒されに来たはずなのに、威嚇されてしまうなんて。

 いったいなにをしに来たんだろう自分、と悲しい気持ちになりながら籠の中のフカモコを眺めていたら、白いフカフカな毛が風に煽られるように膨らんで、浮いた。


 ・・・浮いた!?


 ふわふわと風船のように浮かんだ白いふかふかな毛が、ちょうど私のすぐ目の前まで移動してきて、ぽてっ、と腕の中に落ちてくる。

 咄嗟に思わず受け止めちゃったけど、さっきは触られるのも嫌がって威嚇されたんだよね・・・もしかして、このまま噛まれる!?

 白いふかふかを腕に抱えたまま硬直していると、ちらり、少し拗ねた視線が向けられた。


 あ、そうか。

 小動物館に入れられちゃったのは、たぶん、この子にとっても不本意なことなんだ。

 だって青い目が、僕は小動物じゃないのに・・・って不満を余さず伝えてくる。

 それでもこうして抱っこさせてくれるのは、私が落ち込んでいたから、だろうな。


 ・・・なんだ。この子、すごく優しい子なんじゃないか!


 そっとフカフカでもこもこな体を撫でても、腕の中で大人しくしていてくれる。思った以上の撫で心地にうっとりしてしまう。


 優しく、何度も丁寧に撫でさせてもらいながら、立派な牙や長い毛で隠れていた足ががっしりしていることとか、猛獣としての特徴を褒めまくった。

 すごく不本意そうだった表情が、少しずつ和んでいくのが嬉しい。

 白い毛がほんの少し濡れていたから、鞄からハンカチを出して拭いても嫌がる素振りも見せず、興味を持ったのか空色の瞳が鞄と私の間を行き来している。

 そんな様子も可愛らしくて、微笑ましく思ったのは、内緒だ。


 猛獣なのに小動物館に入れられちゃったのは気の毒だけど、この子がいなかったらこのコーナー自体が成り立たないことは間違いない。というか、一番人気になりそうな気がする。


 損な役だとは思うけど。

 このコーナーの存続は、君にかかってるよ。

 頑張ってね、と小さな猛獣に心の中で盛大な声援を送った。



 ・・・帰り際、こっそり鞄の中に忍び込まれてしまうことも知らずに。






鞄を開けたら、真っ白でふわふわな猛獣が空色の瞳で見上げていると(笑)


うん、大パニック間違いなし!(いい笑顔)



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