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動物園に行こう!(夫:クマ、妻:人間)

もしも夫ーず(動物版)がいる動物園に妻ーず(人間版)が行ったなら? という妄想が発展しました(笑)

※完全にお遊びのもしもの世界ですので、ご注意を。


『ご当選おめでとうございます。あなたは厳正なる選考により、フィグルイーグ動物園の開園記念特別イベントの参加者として選出されました。ご招待券を同封致しましたので、ぜひご参加ください。なお、日時は・・・』


 と言う訳で、動物園の入場券を貰いました!

 差出人不明の手紙を受け取った時には、なぜか指令的な、非常に嫌な予感がしたのですが、散々迷った末に中を開けてみると、可愛らしい動物たちの絵が書かれたチケットと一緒に、案内状が入っていました。


 どうやら、知らないうちに当選していたようです!

 普段は買い物のおまけについてくるくじ引きでも当たったことがないほどくじ運がないので、ものすごく嬉しいです!

 ・・・でも、知らないうちに当選って、あるんですかね? 

 ちょっと不安になって友人たちに聞いてみたら、みんな貰っていたので、もしかしたら、当選率100%のハズレなしで街の人たち全員に配っているものなのかもしれません。

 せっかくなので、女友達みんなで行ってみることにしました。


 特別イベントのためか、それほど混んでいなくて、場所によっては貸切状態です!


 物珍しくてあちこちきょろきょろしている内にみんなとはぐれてしまったようで、気がついたら、一人になってしまっていました。


 うーん、これは失敗です。

 早く合流しないと、あとで友人に怒られてしまうことは確実ですよね。なにしろ、出発前に散々迷子にならないように注意されていたのに・・・・いえっ! まだ迷子と決まったわけではありません!

 単にみんなとはぐれてしまっただけで、自分の位置はちゃんと分かってますとも!

 ここは落ち着いて一人一人に配られた園内案内図でみんながどっちの方向に行ったのか予想してみることにしましょう。

 決して、自分が今いる場所がわからないわけではないデスよっ!?

 あくまで、みんなが行きそうな場所を予想するためデスともっ!


 園内案内図には、分かりやすく絵で何処にどの動物がいるのかが書かれていました。


 えーと、これまで見たのは、ライオンがお昼寝しているところと、珍しい銀色の狼がうろうろして居るところ。

 あと、ちょっとグレーがかったヒョウが木に登っているところも見ましたね。

 それから、薄茶色のフクロウも見ました。


 ということは、今私が居るのはちょうど動物園の中央ぐらいの場所ですね。道順的にみんながいる可能性があるのは、狐か熊かワニが居るところか、ということになるのですが。


 たしか友人は爬虫類が苦手だったはずですから、可能性が高いのは狐か熊ですね。

 うん、ここは狐を見に行って見ましょうか!

 もし居なくてもしばらくまわると狐に戻ってくるようですし、そこで待って居ればいいですよね。


 と言うわけで、意気揚々と狐のいる場所にやってきました!


 ・・・狐って、こんなに大きな生き物でしたっけ?

 故郷で一度だけ狐を見たことがあるのですが、確か犬くらいの大きさで、耳も顔も尖っていて、ほっそりとした手足で、身体全体が綺麗な小麦色をしていた記憶があるのですが。

 今目の前でじっ、とこちらを見つめてきている狐は、耳も顔も、どちらかと言えば丸いですし、手も足もぶっとくて、体は黒にも見えるような焦げ茶色です。


 おかしいなぁ、と思って看板を見ると、そこには大きく「熊」と書かれていました。


 ・・・。

 ま、まぁ、熊でも大丈夫ですよね!

 先ほど見た案内図によれば、順序的に出口に行く前にここも必ず通るはずですし!


 自分の方向音痴加減はあえて触れない方向で、ここで待たせてもらうことにしましょう。


 それにしても、このクマ・・・クマさんは、猛獣なだけあってか非常に迫力があります。

 身体が大きくてがっしりしていることもあって、つい「さん」付けで呼びたくなってしまうというか、呼び捨てにできない貫禄があるというか。

 でも、それでいてどこか愛嬌もあって。焦げ茶色の丸い耳と、同じ色のまんまるの瞳のせいかもしれませんね。なんだか、目がちょっと不思議そうにしながらも、優しくて穏やかな色合いを浮かべている気がします。

 ああ、あの丸い耳、触ったらどんな感触がするんでしょうか? 触ってみたいという欲求が沸き起こってきてしまうのですが、命をかけてやることでもないので、見るだけで満足しておきましょう。


 あまりにも私がジロジロと見すぎてしまったせいか、それまで檻の奥の方で座っていたクマさんが、ゆっくりとした動作でこちらに歩いてきました。


 うわっ、本当に大きい。

 四足状態のクマさんの方が、立っている私よりも目線が高いですよ。


 のっそりと檻のすぐ前まで歩いてきたクマさんは、そのままその場に座ったかと思うと、ちょこん、と首をかしげました。


 うっ、かっ、可愛いっ!

 な、なんなんですか、この異常なまでの可愛さは!?

 迫力があって、かなり怖いハズなのに、可愛いさまで兼ね備えるなんて、ずるいですよっ!


 かなり本気でドツボをついてくるクマさんに身悶えしつつ、思わず目の前の檻に感謝してしまいました。

 ああっ、檻があってよかったっ!

 もし檻がなかったら、私今ので絶対クマさんに抱きついていたと思います。

 危ない、危ない。気をしっかりと持たないと、私なら本当にやりかねません。


 何かを考えているように首を傾げているクマさんを幸せな気分に浸りつつ、動きそうになってしまう腕を必死に抑えていると、クマさんがおもむろに片手をあげました。


 おおっ。

 手のひらも大きいんですね!


 爪が長いなぁ、なんて見ていたら、クマさんの大きな手が私のすぐ目の前の檻に触れて、ちょっと押すと。


 キィ。

 と、軽い音を立てて、檻が開きました。


 ・・・。

 ・・・・・・。

 え。ええええっ!?

 思わず遮るものが何もない状態でクマさんと見つめ合ってしまったのですが、こ、これダメですよね!?

 中から簡単に開けられる檻って、なんの意味もないですよね!?


 焦りまくる私をよそに、クマさんがゆっくりと檻から出てきます。

 いや、出てきちゃダメですよ、本当にダメです!


「ま、待ったぁっ!!」


 後々思い返すに、よく私生きてたな、と思うのですが。

 この時、焦りに焦った私は何を思ったのか、クマさんの目の前に両手を突き出し柔らかくて固い、壁のような肩に手を置いて、檻の方へと押し返していました。


「戻って、戻って、出てきちゃダメです、中に戻ってくださいっ!!」


 いや、だって、猛獣が檻から勝手に出てきちゃダメなんですよっ!?

 動物園に来る前に、お友達みんなと予習会を開催したのですが、その時に友人が脱走した猛獣は殺されてしまうこともあるって言っていました。

 今回はたぶん動物園の係員が鍵をかけ忘れたのかもしれませんし、クマさんはたまたま檻に手をかけたら開いちゃっただけなんだと思います。

 でも、もし脱走したのがバレたら、クマさんが殺されてしまうかもしれません。それだけは何としても阻止しなくてはっ!

 どうしてそんなに必死になっていたのか、あとから思い返しても、この時の私の思考回路が全然わからないのですが、とにかくこの焦げ茶色の優しい目をしたクマさんが怖い思いをさせるわけにはいかない、という使命感に燃えていたことだけは覚えています。


 私のあまりに鬼気迫る様子に圧されたのか、クマさんは私が押し戻すままに、檻の中へと下がって行ってくれました。なんとなくクマさんから呆れたような視線を向けられた気がしましたが、至近距離すぎて良く見えませんでしたし、正直クマさんを押すのに全力を使っていて、それどころでは無かったので。

 とりあえず、檻の中に戻ってくれればなんでもいいですよっ。


 グイグイ押して、最初にクマさんが座っていた檻の中野中央くらいまで下がったところで、ほっと息をつきました。

 ここまで来れば、もう大丈夫ですよね! ああ、よかったぁ。

 ホッとしたら、急に体から力が抜けて、その場に座り込んでしまいました。


「もう、ダメですよ。檻から出たら、危ないんですからね?」


 ぐったりと疲れきって座り込んだ私を、焦げ茶色の瞳がなんだか心配そうな色を浮かべて覗き込んでいたので、その大きな頭を撫でてあげながら、近所の子供に言い聞かせるように注意しました。


 クマさんがなんだかとっても妙な顔で首をちょっと傾げています。

 ああ、それにしても、大きな頭ですよね。うわっ、耳が、耳がモコモコっ! 耳の裏側の毛はかなりしっかりしていて固めなんですが、内側は柔らかな毛が密集していて、その境目がなんとも言えず気持ちいいですっ!


 ついつい夢中になって耳を触りまくっていると、クマさんはちょっとため息のような息を吐いて、私の足元に寝転がって膝に頭を乗せてくれました。

 驚いて手を止めてクマさんを見ていると、お好きなだけどうぞ? と言わんばかりの、ちょっと面白がっているような焦げ茶色の瞳で見上げてきて。

 嬉しさのあまり心の中で黄色い悲鳴を上げながら、頭どころか背中からお腹まで、人生最高の幸せに浸りながら全力で撫で回していた私は。


「・・・君、いつから熊になったんだい?」


 探しに来た友人が頭を抱えてつぶやいていたことも、自分がクマさんの檻の中に入ってしまっていたことも。

 ・・・気がつきませんでした。




 妻、一点に集中すると、周りも自分も見えなくなるタイプ。

 このあと、クマさんと妻を引き離すのにえらい苦労するんだろうなぁ(遠い目)

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