妻と夫のお勉強会
妻と夫の日常の一コマです。
夫+焦げ茶色のクッション=?
晩酌を終えた夫が、まったりとソファでくつろいでいます。
私お手製のクッションを抱えて、本を読んでいるんですが、その姿に、ひそかに悶えてしまいました。
クマさんです。どこから見てもクマさんです!
ひげが無くなってすっかり野生化した夫でも、クッションを追加するとぬいぐるみのクマさんが帰ってくるのです!
今すぐにでも飛びつきたい衝動に駆られたのですが、ここはぐっと我慢しました。
ええ、私は知っていますよ、そのクッションは非常に危険な魔性のクッションだということを!
夫が居ないときは、普通のさわり心地の良い焦げ茶色のクッションなのですが、いったん夫が抱えると、なぜか特殊な効能が発揮されます。
それは、一度くっついてしまうとなかなか離れられず、ひどく眠たくなってしまうというものです。
そして気が付くと翌朝になっているので、私の寝るまでの時間がまるっとなくなってしまう、恐ろしい効能です。
もう何度、この誘惑に負けてしまったことか。
しかも夫もこのクッションを気に入ってくれたようで、結構な頻度で抱えているんですよね。
夫のために作ったものなので、作者としては嬉しい限りなのですが、誘惑される回数が多くて、日々忍耐力を試されている気分です。
・・・ほとんど負けていますが。
いえっ、今日という今日は誘惑に打ち勝って見せますとも!
というか、クッションって普通背中を預けるものだと思うのですが、夫が使う時は必ず抱えているのは、癖なんでしょうか?
それにしても、気持ちよさそうです。
しかも、あったかいんですよね。
まだ夜は少し肌寒いので、あの包まれるようなあたたかさにほっとするというか。
ハッ。
あ、危ない、危ない。
いつの間にか夫ににじり寄ってしまっていました。
夫が不思議そうに焦げ茶色の目を向けてきています。
慌てて視線を泳がせると、夫が読んでいた本が目にとまりました。
あ、この街の言葉で書かれている本ですね。私も一度挑戦して見たのですが、内容が難しくて、挫折したやつです。
「旦那さま、その本、どんなことが書かれているんですか?」
たぶん何かの生き物を追いかけて、退治する、というような日誌風の冒険記だと思うのですが、専門用語なのか、日常会話に出てこない特殊な言葉が多用されていて、ほとんど内容が分かりません。私にとっては街の外の言葉で書かれている本とほぼ一緒です。
それでも、文章の一部は読めるので、余計に内容が気になってしまうんですよね。
だから、ちょっとした好奇心で夫に尋ねてみたのですが。
ちょっと首をかしげて本と私を見比べた夫が、軽く腕を私のほうに伸ばしたかと思うと、気が付けば、夫が抱えたクッションの前に座らされていました。
ああっ、私の我慢がっ。
でも、まだ負けたわけではありません! 要は寝なければいいんですよ、寝なければ。
しっかりと目を開いておこうと何度も瞬きをしてつつ、クッション越しに夫を見上げると、クッションと私を抱える腕に一瞬力が篭ったような気がしました。
すぐに夫が本を私にも見える位置に持ってきて、指でトントン、と文章の一部を叩いています。読めってことですね。
黙読していると小さく揺すられます。
夫をもう一度見上げると、声を出して、という視線が返されました。
「えーと、星消え、水影、4日。涯の地にて、ふ、ふぃ・・・?」
「フィグル」
一瞬、頭が沸騰したかと思いました。
お。
お、夫の声が。
み、耳もとで・・・っ!?
最近は会話が成立することが多くなってきたとはいえ、まだまだ夫から言葉を引き出すのはなかなか至難の業で。
まして、こんな至近距離で夫の声を聞くのは初めてで、なんだかひどく気恥ずかしいですっ。
動揺しまくる私に気付いていないらしい夫が、さらに本を叩いて続き読むように要求してきました。
ちょっと待ってください、動揺中なんです・・・って言いたいんですが、それを言えるくらいなら、最初からこんなに動揺してませんっ!
「が、涯の地にて、フィグル4頭を発見。せ、ぜ・・・」
「ぜグラム」
誰に対してでもなく、あえて言うなら自分に対して文句を言いつつ、動揺したまま続きを読むと、また耳元で訂正されました。
どうやら夫は私に読み方を教えてくれようとしているらしいことには気付いたのですが。
・・・全然集中できませんっ!!
せめてこの体勢をやめてくれないか、と身動きしようとしたのですが、やっぱりというか、いつものことというか、ピクリとも動きませんでした。
それから、夫による勉強会は数頁読み終わるまで続き。
動揺のあまり体力知力共に使いきり疲れきってしまった私は、結局、焦げ茶色のクッションと一緒に夫に抱えられたまま、眠ってしまいました。
・・・惨敗記録、更新です。
夫+焦げ茶色のクッション=対妻用捕獲罠(笑)