夫の苦手なものを探せ!
久々に妻のもとに指令書が届きました!
さぁ、どうなる、妻!?
時間軸は、物語開始後リーフェリア祭前の出来事です♪
物凄く久しぶりに、私宛の手紙が二通届きました。
一通は花柄の可愛い手紙で、もう一通は秘密部隊からの指令書です。
・・・最近来なかったので、すっかり忘れていました。まだ活動していたんですね。
指令書を開けようとして、いやまてよ、と手を止めました。
これまでの経験上、指令を全うしようとすると、結局私が大変な目にあっていますよね?
今回はこの指令書は最初っから無視しちゃった方がいいのかも・・・?
ちょっと考えてから開封せずにしっかりと棚にしまいこみました。
自分の身の安全のためにも、指令書なんて無視です、無視!
少し後ろめたさを感じてしまうのですが、これも自分の安全のためですよ、と自分に言い聞かせながら、気を取り直して、もう一通の手紙を開けてみました。
薄い花柄でとってもかわいらしい文字で表書きが書かれていたのですが、差出人の名前が抜けています。
誰からだろうとちょっとわくわくしながら中を確認すると。
『指令:夫の苦手なものを調査せよ』
たった一行、可愛らしい便箋と文字に似合わない簡潔用件のみが書かれていました。
・・・そういう手で来ましたか。
ちょっと楽しみにしちゃったじゃないですか、私のこのわくわく感をどうしてくれるんですかっ!?
とひとしきり地団駄を踏んで悔しがってから、ソファに腰掛けて大きく息をつきました。
この分だと、中身を見なかったことにしても、きっと次の手を打って来そうな気がしますし、何気に指令の内容が気になりました。
人にはどうしてもダメなものがあったりするものですが、夫にも苦手なものがあるのでしょうか?
・・・想像がつきません。
気になります、非常に気になりますっ!
それに、夫の苦手なものを知っておけば、知らずに失敗してしまう心配もありませんしね。
うん、調べてみましょう!
今回仕掛けるのは、いつもの夕御飯の時間じゃありません。
もうすぐ夫がお昼で帰って来るので、その時に急襲します!
昼ご飯を用意しながら、どうやって聞き出そうか考えているうちに、夫が帰って来ました。
お帰りなさい、ただいま、と挨拶を交わして食卓についた夫に冷やしておいた牛乳を渡します。
それを飲んでいる間に、お昼ご飯を並べました。
今日は、庭の家庭菜園で採れた野菜と、茹でた麺にお魚のフライのソースがけ、クルミのパン。
いつものことながら、手抜き料理です。
それでも文句ひとつ言わずに綺麗に平らげてくれる夫はやっぱりいい夫だと思います。
だいたい夫は食べ終わると、さっさと仕事に戻ってしまうので、食事中に話しかけてみることにしました。
「あの、旦那さまの苦手なものってなんですかっ!?」
直球勝負です!
お昼を選んだのも、この方が時間が余りありませんので、夫も勢いで答えてくれるんじゃないかな、って思うんですよね。
もし答えて貰えなかったら、夕御飯後のいつもの寛ぎ時間に再度急襲させてもらう予定です。二段構えですよ!
夫はクルミのパンに蜂蜜を塗りながら、ちょっと首を傾げました。
髭を剃ってから、すっかり野生化してしまった夫ですが、時々こんな風に首を傾げる仕草をするのですが、そんな時は縫いぐるみのクマさんの片鱗を片鱗が見えて嬉しくなってしまいます。
何かを考えている夫をにまにまと見ていると、こてっ、と反対側に首を傾げました。
あれ?
これはもしかして、思いつかなかったんでしょうか?
「えっと、例えばこれは食べられないとか、虫が怖いとか、走ったり泳いだりが苦手とか。何かありませんか?」
自分で言いながら、自分が苦手なものを挙げてしまいました。
夫は多分、一生懸命考えてくれているのだと思うのですが、どうして私のことを凝視しているのでしょうか?
・・・え、もしかして。
まさか。
夫の苦手なものって、私、ですかっ!?
いや、確かに最近夫の無いない尽くしを何とかしようと無茶ぶりしたり、わがまま言ったりしちゃっていますが、会話も増えて夫婦仲は良好になって来ていると思っていたのですが。
それって、私の勘違い?
・・・まずい、まずいですよ!
夫に苦手意識を持たれてる妻ってダメじゃないですか!?
これは何とかしなくちゃ!
で、でも、どうしたらいいのでしょうか?
「旦那さま!あの、私・・・っ!」
何を言おうと思ったのか、言おうとしていたのか、話しかけたそばから消えて行き、何も言葉が出てこなくて詰まってしまって、泣きたくなりました。
・・・もう、いっそ、泣いちゃってもいいですかね?
夫に苦手意識を持たれてると思うだけで、ひどく胸が痛んで、呼吸が苦しくて、涙腺が決壊の危機を迎えています。
夫は無表情で私をみているのですが、もしそこに私を疎ましく思っている色が浮かんでいたらどうしよう、と思うと、視線をしっかりと合わせることが出来ません。
堪え切れずに、じわり、と目に涙が溜まりだし、これは本当に決壊してしまうかも、と、慌てた瞬間、いきなり夫に抱き上げられました。
急に視界が高くなって慌てる私を抱えたまま、ソファに腰掛けた夫は小さくため息をついて、太い指をそっと伸ばしてくると、私の目尻を拭って行きます。
なんとなくその指の動きを目で追っていると、夫は、またあふれてきた涙を今度は目尻に口付けてすすりとってしまいました。
・・・え? いま、なにが?
呆然と夫を見つめると、きゅっと眉を寄せた夫が一言。
「からい」
・・・って、そりゃそうでしょうっ!?
涙は塩分たっぷりなんですから塩っ辛いですよね、って、いや、そうじゃないですよね、そういう問題じゃないですよねっ!?
って、叫びたいけど、叫べないっ!
真っ赤になりながら、口をパクパクさせていると、夫の瞳が、きらり、といたずらっぽく輝いたような気がしました。
「からいのは苦手だ」
夫が珍しく長く喋った! と驚いている間に、真っ赤になっている頬を、ぱくっ! と甘噛みし。
「甘い」
と、どこ満足気な夫の声が聞こえた気がするのですが。
・・・それは絶対、気のせいですからっ!!
後日。
夫から、実はミルクと野菜、お魚、クルミが苦手だったこと、そして毎日食べているうちに平気になったことを教わった私は。
・・・自分の手抜きっぷりを深く反省しつつ、もっと早くに指令書が欲しかった、とたそがれたのでした。
夫の数々の食わず嫌いは、妻の手抜き料理のおかげで改善されていたとか(笑)
食わず嫌いって、食べれば意外と食べれたりするものですよねぇ。