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ボウドゥ牧場に行こう!(夫視点)

リクエストいただけたので、調子に乗って夫視点を書いてみました!


 最近、妻を一人にしてしまうことが増えてきた。


 普段は半日で片がつかない狩りはフィリウス達に任せるようにしているが、これからの季節はそうも言っていられなくなる。

 今年は既に獣害の報告が上がって来ているし、そろそろ俺たちも出なければならなくなるだろう。


 そうなれば当然、妻が一人で家にいることも増える。


 いつもと変わらないようにふるまってはいるが、どうやら妻は一人で家にいることが苦手なようだ。

 この一年で何度か留守を任せる度に、こげ茶色のクッションが増えていき、二日続けて留守にした夜には、大きな熊の縫いぐるみに妻が抱きついていた。

 ・・・すぐに引きはがしたが。

 俺が帰ってきたことに引きはがされてから気づいた妻はなぜかひどく慌てながらも、いつもと変わらない挨拶をくれたあと、いつも以上に良くしゃべった。


 よほど寂しかったのだろう。


 動物でも飼えば気がまぎれるかもしれないが、俺やウーマに怯えない生き物となると、かなり限られてしまう。

 妻の友人を招くという手もあるが・・・却下だ。


 いっそのこと、もう一頭、妻のためのボウドゥを迎えるか。

 野生ではなく、牧場で生まれ育ったボウドゥなら、多少は温厚な性格のものもいる。

 有事の際の足にもなるし、厩の広さも問題ない。乗り方は教えればいいし、ついでに妻の運動不足解消にもなるだろう。


 次の休暇に、知り合いの牧場を見に行こう。

 ほとんど思い付きで妻にそのことを伝えると、ひどく興奮した様子で大喜びしていた。


 新しくボウドゥを迎えることを知ったウーマも、かなり不満だったようだが、妻が嬉しそうに「もうすぐウーマさんにお友達ができますよ!」と何度も言い、非常に楽しみにしている様子を見て諦めたようだ。

 ・・・物事の決定権は、妻を喜ばせた方にある。


 休暇当日。

 よほど楽しみなのか、朝からずっと落ち着きのない妻をウーマに乗せて牧場に向かう。牧場に着くと、すぐに牧場主が駆け寄ってきた。


「おおっ!! よく来た、よく来た! 待っとったぞっ。さぁさぁ、こっちに来てくれ!」


 惚れ惚れとした視線をウーマに向ける牧場主。

 初めてウーマを見た瞬間に「子種をくれ!」と叫んで以来、ことあるごとにウーマに見合いをさせようと画策していただけあって、かなり気合が入っているようだ。

 その気合をあっさりと無視したウーマが妻を誘って先に放牧場を見に行く。

 戸惑ったような視線を向けてくる妻に頷いてみせると、すぐにウーマが放牧場の方へ押して行った。


「こりゃ驚いた。あの野生児が懐くとはなぁ。ありゃ、旦那の伴侶ですかい?」


 伴侶。

 ボウドゥにとって、乗り手と同じくらいに重要な存在。

 人間関係だろうがなんだろうが全てをボウドゥ基準で考える、生粋のボウドゥ馬鹿な牧場主らしい言い方ではあるが。


「妻だ」


 訂正しておいた。


「ああ、やっぱりそうですかい。うちのボウドゥの中に相棒がいりゃいいが・・・それが雌のボウドゥなら最高なんですがねぇ」


 どうやら、ウーマの子種はまだあきらめていないらしい。

 呆れた目を向けると、牧場主はまっすぐにウーマだけを見ている。


「野生児にしてみりゃ、うちのボウドゥたちはみんな外をしらねぇ箱入り娘たちだ。伴侶には向かねぇんでしょう。でもたまには世間知らずな美女ってのもいいもんだと思うんですがねぇ」


 どう思います、旦那? というように視線を向けられても、ウーマに聞け、としか言いようがない。

 そもそも、妻のボウドゥを探しに来たのであって、ウーマの伴侶を探しに来たわけじゃないのだから、どうでもいいことだ。

 ウーマも同じ意見なのか、牧場のボウドゥに近づこうとする妻の後ろから、やけに気合の入った威嚇をしている。


「あーあ。こりゃダメかねぇ。威嚇すんのはオスだけにしてくれりゃぁいいのに・・・」


 妻が手を伸ばすたびに、後ろから威嚇するウーマ。それにおびえて、さっ、と逃げて行くボウドゥたち。

 何度かそれを繰り返しているうちに、妻が柵に手をついてうなだれてしまった。


 ・・・落ち込んだらしい。


 すかさず慰めるように妻に顔を寄せ、撫でられながら誇らしげに他のボウドゥたちを見やるウーマに、瞬時に苛立ちが湧いた。

 妻を取り返すべく近寄ると、残っていたボウドゥたちが蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。

 ウーマもどこか逃げたそうに、妻からほんの少しだけ離れた。

 その隙に妻の腰から腹部にかけて腕を回し、少し強引に引き寄せて捕獲する。


 苦しかったのか、抗議しようとしたらしい妻が、俺の背後を不思議そうに見て、それから一気に悲しそうな顔になってまた落ち込んでしまった。


 周囲の、特にウーマに向けて殺気を醸し出しながら、気にしなくていい、という思いを込めて腕に力を込めると、妻が俺の腕に手をかけて何か言いたそうに見上げてくる。


 何を言おうとしているのか、聞き漏らさないように耳に意識を集中させた、その時。

 遠くでぼそり、とつぶやく牧場主の声を耳が拾った。


「・・・旦那。あんた、なにしに来たんですかぃ?」


 ・・・・・・忘れてた。




やっぱりかっ!?


憐れ、牧場主(笑)


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