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ボウドゥ牧場に行こう!(ウーマさん視点 その②)

ウーマさんが彼女を見初めたとき、こんなことを考えていたようです。

※ウーマさんの印象が変ってしまう可能性もありますので、ご注意ください。

 大好きな人を腕に囲う相棒を、ちょっぴり呆れながら眺めていたら、ふと、視線を感じた。

 ほとんどの奴らが目を合わせないように視線を外しているのに、僕にまっすぐ視線を向けて来るなんて。どこのどいつだろう?


 大好きな人狙いだったら許さないぞ、と威嚇してやるつもりで視線を上げた瞬間。


 信じられないほどの衝撃が走った。


 初めて相棒を見つけた時のような、いや、それよりも何倍も、何十倍も強い衝撃に、身体が大きく震える。


 視線の先には、一頭の可愛らしい薄茶色の女の子。

 体と同じ薄茶色の瞳を好奇心いっぱいに輝かせて僕を見ている。


 見つけた。

 僕の、僕だけの、伴侶。


 ああっなんて、なんて可愛いんだろう!


 放牧場の反対側の隅っこに居るのに彼女の姿だけは、すぐ目の前に居るかのようにはっきりと見える。

 視線があっただけで、心の中に暖かくなって幸せな気持ちが湧き上がって来るなんて、初めてだ。


 どうしたらいいのかわからなくて、そわそわしながら可愛い彼女の姿を目に焼き付ける。


 時々、彼女の視線が相棒や大好きな人に向かってしまうのが嫌で、僕だけを見てほしい、と願いを込めて彼女を見つめた。

 僕と比べればかなり小さな体だけど、牧場の他の奴らと比べれば標準だし、大人なのは間違いない。

 でも、彼女は僕が伴侶だとは気づいていないみたいだ。その視線には好奇心はあっても、焦がれるような色が浮かんで居ないから。


 もしかしたら、まだ大人になったばかりなのかもしれない。


 じっと彼女を見つめていると、そっと視線を外されてしまった。


 ああっ、もっと彼女を見つめていたかったのに。でも、これではっきりした。悲しいけど、彼女はまだ僕が伴侶だと気づいていないんだ。

 もし気づいてくれていれば、視線をそらしたり、するはずがないもの。


 そんな気はしていたけど、そのことに物凄く落ち込む。

 彼女は、いつ僕が伴侶だと気づいてくれるんだろう?


 視線を外したまま、こちらを見ようとしてくれない彼女に焦れて、ちょっと勢いをつけて柵を飛び越える。


 彼女を驚かさないように、ゆっくりと近づいていくと、不思議そうに視線を向けてくれた。


 でもそれが、どうして近づいてくるの? と言わんばかりの困惑を含んでいて、また少し落ち込む。

 先に伴侶に気付いた方が幸せだけどとても苦しい、って本当だったんだ。


 さらに彼女に近づこうとすると、戸惑うように下がってしまった。

 もしかして、僕のことを怖がっているのかな?


 これ以上近づいたら逃げられてしまいそうで、あと少し、首を伸ばせば届く距離で足を止める。彼女から伝わってくるのは、戸惑いばかり。


 こんなことなら、前に会ったお節介な老ボウドゥの話をもっとちゃんと聞いておけば良かった。

 見つけた伴侶に逃げられた彼は、どうしたって言っていたっけ?


 ああ、それにしても、なんて可愛いんだろう。僕の半分くらいの大きさで、ピンッとたった形の綺麗な耳に大きくてまん丸な薄茶色の瞳、少しだけ色が濃くて波打つように輝く長いたてがみ。

 惹かれるように、首を伸ばしてたてがみを噛もうとしたら、驚いたように柵に体を押し付けるようにしながら下がっていってしまった。


 首を伸ばしても届かない距離まで離れられてしまって、ものすごく、悲しい。

 柵に沿って対峙するんじゃなくて、柵に追い込めば良かったかな、とちらりと考えて、そんな自分の思考に物凄く落ち込んだ。

 狩りじゃないんだから、追い込んでどうするの。

 本当は彼女から歩み寄って欲しいけど、首を伸ばしても届かないこの距離が、現実なんだよね。


 でも、このまま離れていたくない。

 どうやって距離を詰めようか、と考えていると、ふと、あっちこっちをさまよっていた彼女の視線が相棒たちのほうへと流れ、驚いたように、ビクッ、と震えて動きを止めた。


「あの人、誰?」


 呆然とつぶやくその可愛い声をきっかけに、一気に距離を詰めても彼女の食い入るようなその視線はぶれない。

 どこか無防備なまでにひきつけられているその様子は、僕が相棒を見つけたときと、同じもので。

 まさか、とその視線をたどると、やけに熱心な様子でこちらを見つめている僕の大好きな人。  


 ・・・ああ。

 本当に、僕らは運命の伴侶なんだね。


「おいで。君の求めている人かどうか、確かめよう」


 そっと誘うと、大好きな人から視線を外さないまま、小さく頷いて歩き出す彼女。

 僕を見て欲しい、と我侭な願いがまた湧き上がるけど、邪魔はしない。

 今彼女の邪魔をしようものなら、一生嫌われてしまうだろう。


 大好きな人の真正面に立ち、何かを確かめるように、求めるように、その目を覗き込む。

 不思議そうにしている大好きな人が、ちょっと困ったように「今日ハチミツパン、ないですよ」という視線を僕に向けてくるから、慌てて「目の前の彼女に集中して!」と訴えかけると、大好きな人はちゃんと彼女に集中してくれた。  


 見詰め合う彼女と大好きな人。

 どきどきしながら彼女の次の動きを待っていると、その前に大好きな人がちょっと首をかしげた。


「えっと、・・・エイリー、さん?」


 えっ、と思った瞬間、彼女が「嬉しいっ!」と小さく叫んで、最大級の愛情を表現すべく、大好きな人の髪をかみ始めた。


 ああっ、羨ましいっ!

 噛むのも噛まれるのも、どっちも羨ましいっ!


 それにしても、まさか、名前までつけちゃうなんて。

 いくら自分の相棒だと思っていても、普通、名前をつけてもらうまでに数年はかかるものなのに。

 思わず相棒を見ると、驚きと呆れがない交ぜになった目で、大好きな人を見ていた。


 相棒は突き刺さるような殺気を含んだ視線を、一瞬エイリーに向けたけれど、エイリーは怯える様子も無く大好きな人に頬を撫でてもらっている。

 むしろ、腕の中の大好きな人のほうがちょっと怯えてた?


 でも、コレで決まりだ。

 彼女は、エイリーは、大好きな人の相棒になった!


 一緒に帰れること嬉しくて、夢中で大好きな人に頬ずりしているエイリーのたてがみをそっと噛む。


 これからずっと一緒に居られるから、少しずつ、僕になれてもらおう。

 そうしたら、きっとそのうち僕が伴侶だって分かってくれるに違いない。


 早く、僕に気付いてね?

 ・・・僕の、エイリー。



 数日後。

 予定よりも早くやってきた星消え期に、エイリーになれてもらおう作戦が決行できなかった僕と、大好きな人がエイリーに夢中になってあまり相手をしてもらえなかった相棒は。


 ・・・記録的な狩りの成果を挙げた。



ウーマさん、一目ぼれ。

しかも、片思い。

恋敵は、大好きな人!?


このときのエイリーさんのなかでは、

 ウーマさん → ちょっと気になる。 

 妻 → めっちゃ気になる、ってか大好き!

 夫 → 視界に入っていない。


・・・ある意味、強者?


ウーマさんが「両手に花」になれるのは、いつになることやら・・・(笑)


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