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ボウドゥ牧場に行こう!②

新たな出会いと、ときめきです。

 それにしても、みんな何処かにいっちゃいましたし、残っている馬達もみんな私たちから離れたそうにしていますし、この牧場には私たちの家族になってもらえる子はいないのかもしれません。


 ちょっと落ち込んでいると、ウーマさんが、びくり、と大きく震えました。


 何だろう、と思って見ると、じっと放牧場の隅っこにいる薄茶色の馬を見ています。

 薄茶色の馬は怯えた様子もなく、真っすぐにこちらを、ウーマさんを見ているようです。

 どことなく優しい顔立ちをしていて、体もウーマさんの3分の1ほどの大きさなので、たぶん、女の子でしょうか?


 興味を持ってこちらを見ているような気がするのですが、ウーマさんほどはっきりと意思を読み取ることが出来ません。

 やっぱりウーマさんみたいに、ほとんどの感情や意思が伝わってくる方が珍しいんですよね。


 ウーマさんは、じっと薄茶色の馬を見ています。

 物凄く、食い入るように見ています、まだ見ています、さらに見ていますって見過ぎじゃないですか!?


 薄茶色の馬も見られ過ぎ、と思ったのか、ちょっと視線を外しました。


 うんうん。あまりじっと見られると困るんですよね。

 視線が合ったままだと、気恥ずかしくなってきますし、喧嘩腰だと思われても困りますし。でも、こちらが視線を外しても、相手にずっと見られると、なんと言うか、非常に居心地が悪いんですよね。


 妙に薄茶色の馬に親近感を覚えていると、ウーマさんがおもむろに少し後ろに下がり、勢いをつけて柵を飛び越えました。


 え。

 勝手に放牧場に入っちゃっていいんですか!?


 牧場主さんに怒られるのでは、と思ったら、離れた場所で、どこか必死な顔をしながらウーマさんを見ていました。

 どうやら、別に放牧場に入っても大丈夫なようですね、良かった。


 ほっとしてウーマさんに視線を戻すと、薄茶色の馬にゆっくりと慎重に近づいていきます。薄茶色の馬も、不思議そうにウーマさんを見ています。


 あれ?

 ・・・そういえば、これって、もしかして?


 ウーマさんが更に近づこうとすると、戸惑うように下がってしまう薄茶色の馬。それ以上近づけないのか、じっと熱い視線で見つめるウーマさん。


 私は思わず、お腹にある夫の腕を強く掴んでしまいました。


 やっぱりもしかして、ウーマさん、一目惚れですかっ!?


 いや、まさか、でも、と思いつつなぜか息を潜めて二頭を見守っていると、ウーマさんがゆっくりと首を伸ばしてたてがみに触れようとします。

 薄茶色の馬は、まるで恥ずかしがるように、またちょっと下がってしまいました。

 ぴたりと動きを止めて、開いてしまった距離を悲しげに見つめるウーマさん。その目の切なさといったらもう。


 うあぁぁっ、もうこれは確実です、確実にウーマさんが恋しちゃってますっ!

 こ、これからどうなるのでしょうか!?


 どうやらお相手は警戒してしまっているようですし、ウーマさんもどうすればいいのか困っているようです。

 それにしても、こうして二頭が並ぶと体格差が際立ちますね。この子もがっしりしているとはいえ、ウーマさんと比べると、かなり華奢に見えてしまいます。


 これからウーマさんがどう出るのか、夫の腕の中から息を詰めて見守っていると、薄茶色の馬が戸惑うように辺りに視線を流し、一瞬私と目があいました。


 そのまま驚いたように固まってしまった薄茶色の馬に、ここぞとばかりに距離を詰めたウーマさんが、何か話すように小さくいななきます。

 話が決まったのか、二頭が仲良く並んでこちらに向かって来ました。


 私のほぼ正面に立つと、じっと私を見つめてきます。何かを確かめているような、そんな視線です。おなかがすいているのでしょうか?


 ・・・今日はハチミツパン、持ってきていないんですが。


 薄茶色の馬越しに見えるウーマさんに視線を向けると、ウーマさんが、僕じゃなくてそっちに集中! と必死な目で訴えかけてきました。


 やっぱり、ウーマさんの意思はかなり伝わってきます。

 目の前に集中、ですね。了解です!


 促されるまま、何かを探すようなまん丸な大きな瞳を見ていると、ふと、ひとつの名前が思い浮かんできました。


「えっと、・・・エイリー、さん?」


 なんとなく、この子にはこの名前がぴったりな気がして、気がつくと声に出して呼びかけていました。

 すると、どうでしょう。

 薄茶色の馬の大きな瞳が嬉しさを爆発させたように煌き、いきなり私の髪の毛をはむはむと齧り始めました。


 いったい、なにが起きているのでしょうか?


 なんだかよくわからないのですが、大好きーっ! という感情がはっきり伝わって来ます。

 ウーマさんもなんだか嬉しそうですし、夫も特に何も言いませんし、何より私がこの子と一緒に居たいな、と思いました。そっと顔を撫でてあげれば、とても嬉しそうに顔を擦り付けてきます。


 う。か、かわいいじゃないですかっ!


 もうこのままお持ち帰りしちゃいたいのですが、やっぱり、だめでしょうか?

 ちらり、と夫を見上げると、夫はちょっと目を眇めて薄茶色の馬を見ていました。

 一瞬、背筋が寒くなった気がするのですが、薄茶色の馬がもウーマさんも特に変化がなかったので、気のせいだったのかもしれません。


「名前は?」

「エイリーさんです!」


 勝手に名前を決めちゃったのですが、夫は小さくうなづいてくれました。


 こうして、我が家にエイリーさんが加わることになりました!


 やけに喜ぶウーマさんはともかくとして。

 どうして牧場主まで飛び上がらんばかりに喜んでいたのかは。


 ・・・謎です。



お持ち帰り、成功っ!


ウェルカム、嫁さま!(←気が早い)

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