もしも、妻が猫になっちゃったら?
最終話以降の夫は、ひたすらに妻を猫っかわいがりにかわいがるんだろうなぁ、という想像から生まれた小話です(笑)
「もしも」ですから、何でもありですよ!(いい笑顔)
先日、風邪を引いてしまったのがきっかけで、夫がいろいろなお薬をもらってきてくれました。
なんでも、夫自身の薬では、私には効きすぎてしまうものがあるかもしれない、ということで、店主さまの子猫さまからわざわざ分けてもらってきたそうです。
その中に、かわいい瓶に入った液体のお薬がありました。
子猫さまからのメモで確認すると、こんな風に書いてありました。
症状:大ゲンカしたとき、気分転換がしたいとき。
量:瓶一本分。
効能:すっきり。
・・・薬?
内容を読むに、なんとなく、薬ではないような気がします。気分転換に飲む薬って薬じゃないですよね。しかも大ゲンカした時って、子猫さまは店主さまと喧嘩なさるんでしょうか? 小さな子猫さまと大きな店主さまでは、喧嘩にならないような気がするのですが。
気になってちょっと匂いをかいでみたら、甘い匂いがしました。
いい匂いです。
つられてちょっと舐めてみると、やっぱり甘くて、美味しいです。
ただ甘いだけじゃなくて、うーん、これはなんと言えばいいのでしょうか。しょっぱさでも苦みがあるわけでもないですし・・・。
もう少し、もう少し、と舐めているうちに、いつの間にか全部舐めてしまいました。
ああ、もうなくなっちゃいました。もうちょっと舐めたかったなぁ。
残念な思いで瓶を転がして遊んでいると、奇妙な違和感を感じました。
何だか、前足が変な感じがします。
それに、どうして床に座っているのでしょうか。
あれ、やっぱり、前足が変です。
ん? 前足??
えええっ!?
私の前足、いやいや手が、おかしいですよっ!?
手のひらを見ているはずが、細くて柔らかな毛で覆われた肉球があります。
にくきゅうです。
私の前足に肉球があります!
な、なんでっ!?
嫌な予感がしてそおっと頭に触れて見ると。
ぴくっ
・・・動いてます。
頭の上で何かが動いてますよっ!?
全身の毛が膨らむような気がしながら、もしかして・・・、とさらに嫌な予感に襲われながら後ろを振り向くと。
やっぱり、ありました。
細くて長い尻尾が。
慌てて全身を見下ろすと、ふっかふかの毛でおおわれているじゃありませんか!
服の中から出ると、真っ黒な体に、靴下を履いたように前足と後ろ足の先に白が入り、ついでにお腹も白い、猫、になっていました。
「み、みにゃぁ~~~~っ!?(い、いや~~~~っ!?)」
猫!?
どうして猫!?
いや、確かに動物の中では好きな動物ランキングの上位に不動の地位を確立していますが、だからって自分が猫になりたかったわけじゃないですよ!?
猫を愛でるのが好きなのであって、決して猫になりたいわけじゃありませんっ。
これは、どう考えても、子猫さまのお薬のせいですよね。
でも、逆に考えれば、子猫さまも時々気分転換で本物の猫になっているということですよ。ということは、しばらくすれば、猫から人に戻れるはずです!
そう思ったら、ちょっと安心しました。
猫になるなんて、そうそう体験できることではありませんから、せっかくなので、猫である自分を存分に楽しみましょう!
私はとりあえず、物置部屋に置いてある姿見を見てみようと、物置に行ってみました。ちょうど扉は開けてあったので、隙間をこじ開けて中に入ります。
おお、本当に猫です。
真っ黒な顔の真ん中で髭がぴくぴく動いていて、三角の耳がピンッ!と立っていて、自分の意思である程度動かすことができるようです。
猫って、わりと美醜がはっきりしているものですが、私の場合は、何とも言えない感じです。美醜というか、ものすごく、気が弱そうな猫です。私自身は今それほど悲観していないのですが、えらい情けない顔をした猫が鏡に映っています。
完全に猫になっている自分の姿をみて、ちょっと不安になってきました。
私、本当に人に戻れるのでしょうか?
もしも戻れなかったら、どうしましょう。
野良猫になって、縄張り争いとかしながら生きていける自信はないんですが。
し、しかもご飯が食べられなくて、も、もしかしたら、餓死しちゃうかもしれません。そ、それはいやですっ!
不安に駆られてぐるぐる回っていると、外を誰かが歩いている微かな音が聞こえてきました。夫でしょうか? 立ち止まってじっと耳を澄ませると、足音は寝室のほうに入っていきます。
普段、夫はほとんど全くといっていいほど足音を立てないのですが、猫になって床が近くなったせいか、よく聞こえてきます。
寝室に入った足音がすぐにこちらに向かってきます。
物置に用事があるのでしょうか。
・・・って、これは、まずいですよっ!?
私は今猫なので、もし見つかったら、不法侵入猫になっちゃいます!!
ど、どうしよう、と焦って周りを見回して隠れる場所を探しているうちに、背後で扉の開く音がしました。
びくっ!
と毛を逆立てて、そーっと後ろを振り返ると、やっぱり夫がそこに立っています。
い、いつも以上に高い位置に夫の顔がありますね。
というか、私、これから摘み出されちゃうのでしょうか。
想像しただけで悲しくなってきて、耳と尻尾が力なく、へにゃり、と垂れ下がっていきました。
もう、こうなったら、逃げるしかありません。
夫に出て行けといわれる前に、脱走しましょう!
扉と夫の足元の隙間をすり抜けようと全速力で駆け出しましたっ!
・・・捕獲されました。
片手で掬い上げられて、ぶらーん、と目の前まで持ち上げられました。う、この抱き上げ方、ちょっと苦しいです。
夫の焦げ茶色の瞳が、不思議そうに私を見ています。
びくびくしながら、夫の反応をうかがっていると、両腕の中に抱え込むようにして抱き直されました。
あれ?
追い出さないのでしょうか?
顎の下を優しく撫でられて、思わず喉がゴロゴロと鳴ります。
猫って、本当に喉が鳴るんですね!
ああ、それにしても、夫は撫でるのがものすごく上手です。
喉だけでなくて、頭も撫でて欲しくなって夫の指に頭をこすり付けると、頭全体を撫でて、ついでに体も撫でてくれました。相変わらず、夫の抱っこは安定感抜群です。それになんだか、暖かくて、ものすごく安心して眠くなってきちゃいました。
ちらり、と夫を見上げると、とても優しい目で私を見てくれています。
・・・なんだか、大丈夫、そうな気がしてきました。
ふあっ、とひとつあくびをして、夫の腕の中で丸くなります。
優しく撫でられながら、誘惑に負けて一眠りすることにしました。
起きたときには、薬の効果が切れているといいなぁ、と思いながら眠った私は。
薬の効果が切れて人に戻ったら、服を着ていないということを。
・・・すっかり忘れてしまっていました。
このあとどうなってしまったかは、推して知るべし・・・(逃っ)