フローイン教師と妻ママの話(フローイン視点)
フローイン教師(天敵)と妻ママの話を、天敵視点でお送りします!
若かりし頃の天敵を、どうぞ!
「最も求めるものは、決して手に入らぬがゆえに、そなたにとって永遠のものとなるじゃろう」
どこぞの朽ちかけたボロ小屋で占いという名の情報屋を営むババに言われた言葉。
それは何の冗談だ、と食ってかかれば、老婆はシワだらけに顔を歪めて笑う。
「儂もな、時には見えることもあるのさね」
どうせ見るなら、もうちょっとましな未来を見ろよ、と文句をつけた事を最近、よく思い出す。
あの女性に会った日から、ババの占いが外れることを、どれほど祈ったことか。
自由奔放な、風のような女性。
大らかで、知性的で、情熱的で。
「私の宝は家族」
と、堂々と言ってのけて、夫と子供達の自慢話をする彼女が、眩しいほどに好ましかった。
子供たちのことを話すとき、彼女はとても優しい母の声になっているのは、きっと無自覚なのだろう。一人ひとりの子供たちの特徴や思い出話を聞いているだけで、まるで目の前に子供たちが居るかのように錯覚してしまうときもある。
それと同時に、彼女の話を聞く度に夫である男をどれほど殺してやりたいと思ったことか。
もし彼女の夫がこちらに訪れたならば、間違いなく消していた。
なにしろ、そのためだけに、密かに訪れし者や、帰還方法を調べたほどだから。
どうしても手に入れたくて、紳士的に振る舞いながら、ずっと隙を伺っていたが、彼女は決して隙を見せてくれない。
抑え切れなくなった想いを直接伝えれば、真っ赤になりながらも、しっかりと視線を合わせてくる。綺麗な黒い瞳が眩しいほどに強い意思を示していた。
彼女が言おうとしているであろう言葉を聞きたくなくて、その唇を塞げば、渾身の力を込めた拳を見舞われる。
「次に私に触れたら、嫌いになるわよ?」
「それは困ります。でも、貴女に触れたい」
懇願しても彼女の意志は変わらない。
何度も何度も懇願を続け、拒否され続け。
もういっそ、攫って閉じ込めてしまおうか。
と、どこまでも汚い身勝手な考えが湧いてきてしまう。しかもそれは、自分が本気でそうしようと思えば、容易に実現できてしまうことだ。
これからずっと彼女がそばに居てくれるという誘惑に負け、彼女を攫おうと決めた夜。
窓から寝室に侵入した私に、彼女がひとつの約束をくれた。
「私は家族の元に帰るから、貴方の想いには応えられない。でも、私は一生貴方を忘れない」
それは、彼女らしい、誠実で想いのこもった答えで。
「では、何か証をくれますか」
「それを、これから一緒に作りましょう」
鮮やかな笑みを向けてそう言ってくれたから、思い留まる事が出来た。
それから、彼女に触れられない代わりに、寝る間も惜しんで彼女と知恵を絞りあい、二人で様々な道具を生み出した。
「貴方のことを、この作品を、私の子供たちに伝えるわ」
そして。
彼女の娘がこちらへやって来た。
神殿の聖域を吹き飛ばしたあの強力洗剤は、私と彼女の最後にして、最大の作品。
彼女への想いと、彼女からの友愛は、形を変えて受け継がれていくのだろう。
喜びも、後悔も。
記憶は薄れることはなく、鮮やかさを増すばかり。
・・・それがきっと、永遠というものなのだろう。
お互いに一生忘れられない相手になっているんだろうな、と。