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もしも妻が記憶喪失になってしまったら ②


前回、男性(夫)を起こすことを諦めた妻。(←それが正解)


起きた夫に急襲をかけます!



 男性が自然に起きてくれるのを待って、もう一度、しっかりと質問しました。

 寝起きでどこかぼんやりと寝台の上で胡座をかいている姿は、本当に実家のクマさんに良く似ていて、何だか妙に親近感を覚えてしまいます。


 非常に無口なクマさん似の男性から、どうにかこうにか話を聞き出すと、どうやら、この男性は本当に私の夫で、子供はまだいないのだそうです。


 といっても、私には身に覚えがありませんし、私が結婚するなんてちょっと想像がつかないんですよね。


 ですから、更に詳しく色々質問させて貰いますよ!


 男性のことに関する質問とそれに対する短い回答を引き出すうちに、ふと、じゃぁ、自分は? と自問して、何も思い出せないことに気付いて愕然としました。


 私、自分自身のことも分からなくなっちゃってます!?


 ・・・もしかして、記憶喪失・・・?


 いや、でも、物の名前とか、言葉とか、ちゃんと覚えていますよ!?

 ああ、でも、家族が何人いたとか、子供の頃の思い出とか、全然思い出せません。


 記憶喪失って言葉と、それがどういう状況なのかは分かるのに、どこでその言葉を覚えたのかも分かりません。覚えていないというよりも、覚えていたはずの物をどこにしまったのか分からなくなっているみたいです。


 今朝起きるまで、私は一体どうやって生きてきたのでしょうか?


 質問の途中で勢いを無くして茫然と自分の状況を確認していると、そっと、頬に手を当たられて、顔を上げさせられました。


「記憶が?」


 落ち着いた低い声で聞かれて、何故か酷く慌ててしまいました。


「あのっ、多分、ちょっと物忘れが酷くなっているだけだと思うんです! だから、きっとすぐ思い出せるんじゃないかなぁ、って・・・」


 焦った気持ちのまま、言葉を紡いでいるうちに、頬に当てられていた手が離れて行きました。

 それがなんだか酷く悲しい気がして男性を見上げると、そのまま大きな手が私の頭の上に落ちてきて、絶妙な力加減で撫でてくれます。


 焦げ茶色の目がとても優しくて、なんだか混乱が治まってきました。


 ・・・そうですよね、焦ったって思い出せるわけじゃないですし。

 ここはゆっくりと思い出す努力をして行きましょう!


 幸い、男性は信用できそうな方ですから、正直に話して、協力して貰えばいいですよね。


 ああ、それにしても、頭を撫でられるのが凄く気持ちいいです。


 目を瞑って撫でられるがままになっていたら、頬に柔らかな何かを押し当てられる感触が。


 え?


 今のはいったい・・・、と思って目を開けると、不思議そうにしているクマさ・・・男性が、物凄く至近距離に居ました。


 ぅええっ!?

 これはいくらなんでも近すぎですっ! ちょっと動いたら触れ合ってしまいそうな距離ですよ。っていうか、待って下さい、どうして頭を撫でていたはずの手が後頭部にあって、私を引き寄せようとしているんですか?


 い、異常に近い距離が、距離がなくなっちゃいますっ!


 大混乱をおこしてとっさに両手を男性の口元に当てると、焦げ茶色の目がとても不思議そうに私を見ています。


 あれ?

 なんで、そんなに不思議そうなんですか。


 この手はなんだろう、って思っていますよね?


 無口ですが、目が口ほどにものを言っているので、ちゃんと分かりますよ。あ、今何かを思いついたようで、


 はむっ。


 ・・・っ!!?


 はむはむっ


 なっ。

 なにしてるんですか、この人ぉぉーっ!??


 か、噛まれてる噛まれてる、今、ただいまも噛まれてますっ。


 とっさに思いっきり手を引いて、頭から湯気が出そうになりながら愕然と男性を見上げると、もういいのか、という目で見ています。

 そこには面白がっている様子はなく、ふざけているわけでもなく、まるで、いつもの習慣だと言わんばかりの穏やかな色だけが浮かんでいますが。


 い、いやいやいやっ。

 いくらなんでも、それはないですっ!


 記憶が無くても、夫に日常的に、か、噛まれることを許容できるほど、私の心の広くも大きくもありません! ええ、とっても小さいに違いないんですよ、私の心はっ!


 騙されませんよっ、と、男性を睨みつけると、ちゅっ、と口づけされました。


 だ。

 だ、っから、なにしてくれちゃっているんですか、この人はっ!?


 もう、なにがなんだか、わけが分からなくなって、支離滅裂にギャイギャイ騒ぐ私を、心底不思議そうに眺めていた男性がようやく一言。


「ああ。覚えていないのか」


 いつものことです、といわんばかりのその言葉に。

 次の瞬間。

 私の心の絶叫は、声にまで出ていました。


「そんなの絶対、私じゃありませんからーっ!!」


 私の中で、この男性が危険人物に分類された瞬間でした。


 これまでの日々を思い出したいような、思い出したくないような。


 ・・・ちょっと、微妙。





男性(夫)危険人物認定されました!(笑)


ある意味、正解。




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