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妻と夫と闖入者(夫視点)


甘めを目指してみました!



 妻が、変なものを拾ってきた。


 洗濯物を取り込みに外に出たはずの妻が、真っ白いものを抱えて駆け込んできたときには、なにがあったのかと思ったが。

 妻の腕の中でおとなしく抱かれていたのは、この辺りの食物連鎖の頂点に立つヴァルファスの雛だった。


 ・・・どうしてこんなところに、ヴァルファスの雛が?


「さっき、洗濯物を取り込んでいたら、この子が洗濯籠の中に入ってきたんですよ。かわいいですよね!」


 興奮した様子で腕に抱えたものを近づけてくる無邪気な妻に、思わず額に手を当てて、深いため息が出た。


 確かにモコモコとした雛の姿は可愛らしいかもしれないが。

 ヴァルファスは、ボウドゥに次ぐ凶暴さで有名な肉食獣だ。


 今はモコモコとした白い毛で覆われている雛だが、成獣すれば、背に生える鳥類とはまた違った羽で空を自由に飛びまわる長毛種になる。その毛の白さは、空からの襲撃に適した色合いだ。


 人と生きるボウドゥと違い、単体で生きるヴァルファスは、誇り高い孤高の存在で雛といえども手懐けることは不可能、といわれているはずなのだが。


 妻の腕でおとなしくしているコレもまた、その無邪気さに毒気を抜かれたのだろうか?


「それは、ヴァルファスだ」

「ヴァウ?」

「ヴァルファス」


 言ってもわからないだろうな、とは思ったが、やはり、決して人に懐かない凶暴な肉食獣の名前を言っても、妻は不思議そうに首を傾げるだけだった。


 試しにヴァルファスに触れようと手を伸ばしてみると、いきなり顔を上げてこちらを威嚇してくる。

 少しだけ殺気をにじませても、怯えながらも威嚇してくる姿勢はそのままだった。

 普通の獣なら怯えて逃げるか恭順の姿勢を見せるはずだが、雛といえども、さすがはヴァルファスといったところか。


 だが、このまま妻に危険な肉食動物を抱かせているわけにも行かない。

 さて、どうするか、と考え始めたところで、ヴァルファスがひときわ大きく震え、妻が慌てたように撫ではじめた。


「だ、大丈夫ですよ! 私の旦那さまは、強いだけじゃなくて、とっても優しい人なんですから」


 優しく語り掛ける声に、俺も毒気を抜かれて、殺気が消える。

 それと同時に、ヴァルファスの視線がちらりとこちらに飛んできた。


「ね、抱っこしてもらってみませんか? 旦那さまの抱っこは、安定感抜群ですし、暖かくて気持ちがいいんですよ?」


 腕の中で小さくなっているヴァルファスに一生懸命話しかけているから、おそらく本人の前でほめるようなことを言っているということに、気付いていないのだろう。


 こんな風に、目の前でほめられるのは、初めてだ。


 本能の促すままに、妻を抱き上げると、なぜ自分が抱き上げられているのだろう? といわんばかりに驚いた視線で見上げてくるのに、あくまでこれが当然だという態度を貫く。


 ちょうど、殺気から開放されて安心したのか、ヴァルファスが眠り始めたので、そちらに妻の視線を促すと、素直にそれを見た妻から、悶えるような気配を感じた。

 小さくてフカフカな生き物が好きな妻のことだから、寝姿に感激しているのだろう。


「かわいいですね、旦那さま!」


 幸せそうに満面の笑みを向けてくる妻のほうが、よほど。

 腕の中のヴァルファスに全意識を向けているのをいいことに、妻をじっくりと見つめる。


 もしも。

 俺たちに子供が出来たら、妻はこんな風に幸せそうに笑いながら眠る子を抱くのだろう。


 ふと思い浮かんだその光景は、これまで感じたこと無い種類の幸福を伴っていて。

 うとうとし始めた妻を抱く腕に、そっと力を込める。


 ・・・俺だけの、幸せだ。




無自覚で着々と猛獣使いへの道を突き進む妻と、幸せの予感を噛み締めている夫。


その幸せは、そう遠くない未来にやってくる、かも?

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