妻と夫と闖入者
夫妻のとある穏やかな日常に、ちょっと変った訪問者が来たようです。
いつもの通り洗濯物を取り込んで洗濯籠に入れようとして、白いものが入っていることに気がつきました。
よく見ると、洗濯籠の中には、フカフカで、モコモコが。
「旦那さま、旦那さま。見てください!」
仕事が早く終わって、夕食前に帰ってきてくつろいでいた夫に、腕に抱き上げていたものを見せに行きました。
体を起こした夫が、私が抱えるフカフカでモコモコでとても暖かくて気持ちいい真っ白な生き物を見て、ちょっと驚いたような表情を浮かべました。
「さっき、洗濯物を取り込んでいたら、この子が洗濯籠の中に入ってきたんですよ。かわいいですよね!」
興奮しながらもっとよく見せようと夫に近づけると、夫が額に手を当てて、深く、深くため息をつきました。
夫の目が、どこまでも呆れています。
あ、あれ?
別にフカモコなこの子を飼いたいとは言っていないですよ? 野生の生き物をペットにしちゃいけないですものね。
ただ、たまたまやってきた珍しい訪問者に、ちょっとハチミツとか、ミルクとかを分けてあげたいなぁって、思っただけで。
あと、ブラッシングもさせてもらって、ちょっと体を撫でさせてもらって。
・・・あわよくば、一泊していってくれたらいいのになぁ、とか思っているのは、内緒です。
「それは、ヴァルファスだ」
「ヴァウ?」
「ヴァルファス」
ヴァルファス、ですか。
なんだかかっこいい名前ですね!
夫が片手を伸ばすと、真っ白なフカモコがかわいい顔をゆがめて、思いっきり威嚇しています。
夫に威嚇するなんて、勇気があるなぁ、と思っていたら、腕に震えが伝わってきました。
・・・もしかして。
威嚇というよりも、怯えている?
怯えを隠して、一生懸命虚勢を張っているような感じです。
・・・やっぱり野生動物は、本能的に自分より強い相手がわかるものなのでしょうか?
「だ、大丈夫ですよ! 私の旦那さまは、強いだけじゃなくて、とっても優しい人なんですから」
野生動物に怯えられてしまう夫っていったい・・・、と思いつつ、とにかくフカモコのおびえを取り除こうと、優しくフカフカでモコモコな体を撫でてあげながら話かけていると、少し落ち着いてきたようです。
「ね、抱っこしてもらってみませんか? 旦那さまの抱っこは、安定感抜群ですし、暖かくて気持ちがいいんですよ?」
私の腕の中で小さくなっているフカモコを一生懸命説得していると、いきなり夫に抱き上げられました。
・・・あのー、旦那さま?
私を抱っこしても意味が無いと思うのですが。
思わず夫を見上げると、これでいい、といわんばかりの態度で、見てごらん、と腕の中のフカモコに視線を促されました。
フカモコは、ちょっと驚いたような動きをしていたのですが、その後は妙に落ち着いたように、私の腕の中で寝息を立て始めました。
う、うわっ、か、かわいいっ!
小さくて真っ白で、フカフカモコモコが安心しきったように腕の中で眠っている姿に心を打ち抜かれました。
「かわいいですね、旦那さま!」
幸せに浸りながら、満面の笑みで夫を見上げると、夫も愛情あふれる視線で見返して来てくれました。
やっぱり、夫も小さなフカモコがかわいいんですね!
私はフカモコが起きるまで、そのまま、かわいい寝顔を眺めていようと思ったのですが、いつの間にか眠ってしまっていました。
・・・夫の抱っこは、やっぱり安定感抜群です!
ふかふか、もこもこは、正義です!(きっぱり)