レイン&グレイン 馴れ初め?話(グレイン視点)
レインとグレインがまだ新婚生活を送っていたときの一コマを、グレイン視点でどうぞ!
「私はどんなことをしてでも、帰ります」
初めてレインという名の訪れし者に会った時、真っ直ぐに視線を合わせて言われた言葉がこれだった。
顔も服装も全く覚えていないが、その強固な意思を宿した目をただ見つめていたのを覚えている。
帰れるかどうかも、帰るための方法も知らないはずなのに、この目の持ち主なら成し遂げるかもしれない。そう思わせる、強い目だった。
俺を真っ直ぐに見ていられるなら、仮初めの夫婦になっても問題はないだろう。
相手もここではない何処かに帰る意思は固いようだし、俺も友人である領主からの依頼分以上に関わるつもりはなかった。
「帰りたいなら、帰ればいい」
だから、そのときに言った言葉は、本心からのものだったというのに。
それを僅か二カ月で撤回することになるとは、思ってもみなかった。
紹介を受けた数日後には書類が整い、正式にレインが俺の妻になったその日。
「短い間だけど、よろしくお願いします・・・私の夫殿」
これまで事務的な会話しかしてこなかった妻レインが、初めて笑みを浮かべて見せる。どこか楽しげに、からかうようなその表情に、目を奪われ、記憶に焼き付けていた。
それなのに、こんな無防備な表情を俺に見せる人間がいることに驚いたのだと、それが不快だったからいつまでもあの表情が消えないのだと、そう思い込んだのは、逃げ以外の何ものでもない。
毎日愛らしい服で、くるくると活動的に動きをまわるレインは、家のことを完璧にこなしながら、積極的に外出し、多くの人と知り合い、さまざまなことを自力で学んでいた。
それを不快に感じるのも、護衛の手間が増えるのと、敵の選定が面倒だからだと思い込み。
少しは家で大人しくしていたらどうなんだ、と酒の勢いで苦言を吐くと、レインはまたあのいたずらを思いついた子供のような楽しげな顔でにやり、と笑ってみせた。
「もしかして、寂しい?」
飲みかけていた酒に思いっきりむせる。
咳き込む俺を見て、やっぱり図星だ! と言って笑うレイン。
「遠慮せずに、寂しいなら寂しいといえばいいのに。うんうん、ごめんね、夫殿。これからは、もうちょっとだけ早く帰って来るようにするよ」
誰が寂しいなんて言った!?
と噛み付くよりも先に、レインの小さな手が優しく頭を撫でてきて、動くどころか、一言も言葉が出てこなくなる。
どこまでも優しく丁寧に撫でられるのは、存外に心地よい。
寂しいなんて一言も言っていない、とか、謝っておきながら少ししか早く帰って来ないのか、とか他の些末な諸々は全てどうでも良くなってしまった。
大人しく撫でられるがままになりながら。
この手が、欲しい。
ふと、そんなことを思ったことさえ、酒のせいだと言い聞かせていたというのに。
その日から、レインは当たり前のように頭を撫で、時には鼻先に口付けることさえあって、その度に歯止めがひとつずつ壊れていって。
レインが、欲しい。
・・・全てを望んでしまうまで、それほど時間は掛からなかった。
可愛らしい新妻に、あっさりと落ちてしまったけれど、それを認められないグレイン。
おこたの中では、グレインはワンコなイメージ。
かまって欲しいけど、いい出せなくて、ちょっといじけている感じで。
・・・うん、ワンコだ。