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夫、妻を鍛えてみる(夫視点)


夫は妻が心配なのです。


 妻に関して、最近、改めて気付いたことがある。


 妻は非力だ。

 物置部屋でなにやら物の出し入れをしていたところに通りがかったら、箱を上に載せようとして、潰されそうになっていた。

 見かねて手を出すと、その箱は驚くほど軽く、片手でも持てるほどの重さだった。

 ふざけているのかと思ってさらに見ていると、本当に妻にはふらつくほどの重さに感じているらしく、もう少し重いものに関しては、持ち上げることさえできない。


 特にわかりやすいのは、洗濯物を干しているとき。

 妻が何度も絞って、踏んで、水を切ったはずの洗濯物は、干してから大して時間が経たないうちに水滴が落ち始める。

 試しに、妻が絞った後の布を絞ってみたら、たっぷり水が出てきた。

 結局、洗濯物を干す前に絞るのを手伝うことが日課になっているのだが、絞るたびに妻がどことなく悔しげなのは、どういうことだろうか。


 それから、妻は、体力がない。

 前にウーマにからかわれて、怒った妻がウーマを追いかけていたのだが、まだ家から見える距離で体力が尽きていた。

 膝に手を当てて、ぜーぜー息をつく妻に、ウーマも「まさか?」というように驚いた顔をしていたが、俺も驚いた。


 もちろん、俺を基準に考えてはいけないことはわかっている。

 だがそれにしたって、体力がないにも、ほどがあるだろう。


 これでは、有事の際になにも出来ずに死んでしまいそうな気がする。


 ただでさえでも、妻は小さく、細い。

 せめて、もう少し体力をつけさせたほうがよさそうだ、と判断して、休日に妻を少し鍛えてみることにした。


 ・・・結果、わかったこと。


 妻は、基礎体力が鍛錬所の女性たちの10分の1以下しかない。

 無理に運動させると、すぐに変な音で荒い呼吸が始まってしまい、最終的にはひっくり返ってしまう。

 毎朝、毎夕必ず運動させて少しでも基礎体力を伸ばそうと試みたのだが、たった数日で、妻は断固拒否の姿勢を見せた。


 運動すること自体は嫌いではないようなのだが、俺が併走するのが嫌なようだ。

 むきになってちょろちょろと走る妻が面白くて、つい調子にのって罰則付きで追い回してしまったのが失敗だったらしい。


 だが、妻に運動はさせたい。

 ではどうするか、と考えていると、妻が動きやすい服装でバスケットを持ち、声をかけてきた。


「旦那さま、ピクニックに行きましょう!」


 歩くのも、確かに運動になるか。

 小さく頷いて準備をし、ついでに妻からバスケットを受け取ると、妻はほっとしたような目をしながら、出発!と腕を振り上げた。


 自分で言ってくるだけあって、妻は歩くことは苦にならないようだ。景色を見ながら、あれこれと話しながら楽しげに歩く妻の隣で、時折相槌を打ちながら歩いていく。


 妻と話していると、時々、自分と妻とでは見えている世界が違うのでは、と思うときがあるほど、妻はいろいろなことに気付いて、それを俺に伝えてくる。


 山の緑が変わり始めている、雲の形が面白い、あの木の実は食べられるのか、虫が花の蜜を吸っている。


 そのどれもを、生き生きと話す妻。


 話に夢中になりすぎて、足元がおろそかになった妻が転びかけたのきっかけに、その小さな手を俺の手の中に握りこんだ。

 動揺している気配を感じるが、こうしたほうが安全だろう、という態度を崩さずにいれば、妻は頬を染めながらも、おとなしく手をつないだままにする。


 俺は、山の色より、妻の頬の色のほうが気になるが。


 ・・・こういう、穏やかな時間も、悪くない。




ちなみに、妻は歩くのは、大好きです♪


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