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妻のやきもち、夫のやきもち(謎の女性視点)

楽しいことが大好きな、謎の女性視点です。

 面白いことになった。

 

 少し離れた場所に立って、こちらをじっと見ている、二人の女性。

 一人は、良く見知った男装の女性で、向こうもすぐにこちらに気付いたみたいだ。もう一人は、見知らぬ女性。

 ただ、今一緒にいる男の表情がわずかに動いたのを見て、ああ、と思う。

 

 あれが、噂の。


 小さな体に、黒髪、黒い大きな瞳。

 特別なところなど、どこにもなさそうなのに、なぜかこの獣の気を引き、あまつさえ、ボウドゥの名づけ親の一人になったという女性。

 なるほど、確かにこうして殺気を含ませた視線にも、怯える様子はない。


 体つきから見て、武術、剣術の類は全く出来ないとわかるだけに、どうして対抗する術がないのに、こんなに堂々と真っ向から視線を絡めてこれるのかが不思議で、面白い。


 すごく、面白そうな、おもちゃ。


 クスリと笑うと、なにを勘違いしたのか、大きな黒い瞳に、一瞬好戦的な色を浮かべたけれど、すぐに、思い直すように何か思案しているのが見て取れる。


 すごい。こんなに読みやすい相手は久しぶりかも。


 それが面白くてくすくす笑いながら、唇を読まれないよう、一緒にいる男の耳元に口を寄せてささやいた。


「あの子があなたの奥方でしょう? なにを勘違いしているんだか、嫉妬しちゃって。かわいいねぇ」


 すると、男がちょっと考えるような気配を見せたあと、どことなく上機嫌になったのがわかった。その視線の先には、毛を逆立てた猫のように、無謀にもこちらを威嚇してくるかわいい女性。


 なるほど。噂どおりに、べたぼれなわけだ。

 本当に面白い。


 男にも、女にも、決してのめりこむことがなく、常に淡々としていたこの男が、こんなにもあっさりと機嫌の良しあしを悟らせるなんて、よっぽどのこと。


 その喧嘩、買ってやる! とばかりにこちらに向かってこようとする女性は、実に遊びがいがありそうな獲物なのに、もし手出ししたら、間違いなく男に殺されるとわかっているだけに、残念だ。


 さぁ、男を怒らせない程度に、どう迎えてやろうか。


 そう思ってわくわくしていたら、知り合いの男装の女性のほうが、後ろから手を引いて、女性を止めてしまった。


 なんだ、つまらないの。


 と、邪魔をした女性を軽く睨もうとしたら、ものすごく、物騒な笑みを浮かべていた。あのひと、こんな笑い方も出来たんだ、と思っていたら、勢いよくこちらに向かってこようとした女性のほうが、逃げ腰になった。


 それから、男装の女性のほうが、もう一人の肩を抱き寄せて、こめかみの辺りに口付けているようで。

 ものすごく、顔が真っ赤になっていくのが見えた。


 女二人で、なにやってんの?


 と呆れながら見ていたら。

 隣から、噴出してくる殺気に、思わず肩にかけていた手を外して、懐の武器に手をかけそうになってしまった。

 男はまっすぐに、自分の妻である女性だけを身も凍るような視線で睨んでいて。


 まさか、嫉妬?

 おいおいおい、相手は男装しているとはいえ、女同士だよ?


 押しのけるようにして、ゆっくりと自分の妻に近づく男のその動きは、完全に獲物を狙う捕食者のそれで。


 うわ、マジだよ、この人。


 呆れ半分、面白さ半分で見守っていると、自分の夫と視線が合った女性は、一気に青ざめて、自分を抱き寄せている男装の女性の手を取って逃げようと動きかけたのが見えた。


 あ、それはマズイでしょ!

 唯でさえでも殺気立っている男をこれ以上刺激してどうするのさ!


 慌てて懐に手を入れるのと、どこからともなく現れたもう一人の男が、男装の女性を掻き抱いて後ろに大きく下がるのとが同時だった。


 女性の手が、空を切る。


 そして、しっかりと自分の妻を捕獲した、男。


 今、目の前には、それぞれの妻を抱きしめて捕獲する二匹の獣。

 そのどちらもが必死に抱きしめているのが、小さな、黒髪、黒い瞳の小動物のような奥方で。

 で、かたや、やってやったぞ、的な引きつった笑みを浮かべ、かたやなにが起きているのかわかっていない様子でパニックを起こしている。


 それぞれのその必死の様子があまりにも面白くて、つい、爆笑してしまった。


 笑い声で我に返ったのか、女性が何か違和感を感じているようにこちらを見ていたけれど、男が腕に力を込めたのか、少し苦しそうな様子を見せて。


「旦那さま、苦しいですよ!」


 と、はっきりと抗議した。


 あの獣相手に。しかも今は頭に血が上っているといえる状態なのに。

 命知らずな、と思った途端。


 ぺろり。


 と主に男装の女性に見せ付けるように先ほど唇を当てていたこめかみを舐めて見せた。


 それから、真っ赤になってもがく獲物を無視して、何度も、何度も舌を這わせ。


「おやおや」


 これはもうすぐ限界だな、と思うのと同時に、きゅう、というなんともいえない音を立てて、女性が目を回して気絶した。

 気絶した自分の妻を嬉々として連れ帰る男を止めるほどの命知らずは、ここには居ない。

 

 ああ、面白いったら、ありゃしない!

 ところかまわず、腹を抱えて爆笑するなんて、いつ振りの経験だろう。


 妻を抱きかかえて去っていく男の後姿を見送ったあと、涙をぬぐいながらまだこの場に残っていた男装の女性と銀髪の男へと視線を向ける。


 こっちはこっちで面白そうだし。


 ・・・しばらく、この街に滞在しようっと。 




この謎の女性(?)の正体は、次の小話で!

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