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妻のやきもち、夫のやきもち

※嫉妬、というキーワードでお礼の小話を作ってみました。時間軸的には、ちょっと未来です。

 ある日のことです。


 賢妻の勉強会の帰り、レインと一緒に街を歩いていた時、反対側から夫が女性と一緒に歩いてくるのが見えました。


 すらりと背が高くて、短く切った髪が頬のあたりでさらさらと揺れていて、とても綺麗な人です。

 時々夫の肩に手を置きながら、楽しげに話をしています。

 こちらの女性にしては珍しく、袖のない上着を着ているのですが、それがまたほっそりとしながらしなやかに筋肉がついている腕を、とても魅力的に見せています。


「あれは・・・」


 隣で友人が何かをつぶやいたようなのですが、よく聞こえませんでした。


 なぜでしょうか。ちょっと気分が悪いです。

 私が夫に気づくのとほぼ同時に夫も私たちに気づいたようで、少し遅れて一緒にいる女性も私たちに気づいたようです。


 女性の視線が、やけに鋭いような気がするのは、気のせいでしょうか?

 でも、夫よりも鋭さにかける視線を怖がるような私ではありません!

 夫に本気でにらまれたら、さすがに逃げ出してしまうかもしれませんが。でもその場合、逃げ出しても逃げられなそうな気がします・・・。

 女性は、私のことを上から下までじっくりとみられた上で、クスリ、と笑いました。


 ・・・むか。


 なんでしょう、今のものすごく挑戦的な笑みじゃなかったですか!? いえ、でも気のせいかもしれません。好意的な笑みがちょっとタイミングの問題でそう見えただけとか。


 女性はクスクス笑いながら、夫の肩にしなだれかかり、何事かを夫の耳元でささやいています。


 やっぱり、気のせいなんかじゃないです!!

 思いっきり、私に喧嘩を売っていますよね!?

 いいでしょう、その喧嘩買ってやろうじゃありませんか!


 ついでに、女性にしなだれかかられて、何も言わない、何もしない夫に対しても一言言わせてもらいますよ! まぁ、ある意味ないない尽くしの夫らしいといえば夫らしいのですが・・・いえ、ダメです。夫らしくても、やっぱりダメです。私の気が収まりませんっ!


 鼻息荒く二人のもとへ向かおうとしたら、後ろから手を引かれました。


 今の私は売られた喧嘩は全部買わせてもらっちゃいますよっ、と勢いよく振り向いたところで、友人がにやり、と笑ったのを目にして、頭から水を浴びせられたように興奮が引いていきました。


「あ、あの、レインさん?」


 思わず腰が引けてしまうのは、仕方ありません。

 だって、私、知ってます。こういう笑顔を見せる時の友人は、何かあとあと厄介なことになることを考えている時だって。そしてその厄介ごとは、なぜか大体私に降りかかってくるんですっ!


 もの凄く嫌な予感がして、逃げようとしたのですが、ちょっと遅かったようです。

 華麗な男装の麗人の仮面を素早くかぶった友人は、私の肩を抱き寄せて、こめかみのあたりに顔を寄せてきました。


 フッ、と友人の呼吸がこめかみを撫でて行きます。


 って、何してるんですか、あなたはっ!?

 それ周りの人が見たら、ちゅーしてるみたいに見えちゃいますよっ!?


 いくら見た目が男性とはいえ、友人は女性です。ですから、本来なら動揺しなくてもいいところなんですけど、でも、はたから見たらカップルがいちゃついているように見えなくもないですよね・・・。そう思ったら、急にこうしているのが恥ずかしい気がして、顔に熱が集まってきました。


 気を逸らせるものを探して視線をさまよわせると、夫たちが目に入ってきて。


 一気に、青ざめました。


 夫が、突き刺さるような鋭い視線で睨んでいます。

 ものすごく、睨んでいます。

 動けません、逃げるどころか、金縛りにあったように、体を動かしたくても動かせません!


 夫が女性を押し退けて近づいて来ました。


 まずいです。

 何がまずいのか、よくわからないのですが、とにかくマズイです! そんな気がします!


 思わず友人の手をとって逃げようと動きかけ。

 その手が空を切りました。

 見ると私以上に青ざめながら気丈笑みを浮かべ続けている友人が、どこかからか現れた元夫によって引き離されて行きます。


 え?


 と思った瞬間、後ろから締め上げ・・・捕獲さ、抱き締められました。これは、間違いなく夫です。夫なんですが、ちょっといつもより力がこもってます、というかしまってます、絞まってますっ!

 お肉が、内臓が飛び出しますっ! とバシバシ夫の腕を叩くのですが、なかなか力を弱めてくれません。


 い、息が出来なくなって来ました。

 このまま夫に絞め殺されてしまうのかも、とお花畑が見え始めた頃、豪快な爆笑が聞こえて来て、夫の腕に一瞬もの凄く力がこもったかと思うと、ゆっくり力が抜けて行きました。


 血、血の循環が再開されました! 危うく本当に死んじゃうかと思いましたが、どうやら九死に一生を得たようです。どうにか呼吸を整えて、ようやく周りを見回す余裕が出て来ました。


 まだ声を上げながらお腹を抱えて笑っているのは、先程の女性でした。

 あれ? でも、なんだか違和感が・・・。

 その違和感の正体を見極めようと女性をじっと見ていたら、また夫の太い腕による締め付けが始まりました。夫の方を振り向きたいのですが、後ろから締め上げられているので、少しも振り向けません。


「旦那さま、苦しいですよ!」


 思わず声をあげて抗議すると、夫の腕の力が弱まったのですが。

 後ろから顎を固定されて。


 ぺろり。


 暖かくて濡れたものがこめかみをぉぉっ!?

 反射的に思いっきり夫を振り払おうとしたのですが、全く、少しも、ちっとも動けませんっ! 片腕のくせに、一体どういう拘束の仕方をしているんですか!?

 って、うそっまたっ・・・っ!!


 抜け出そうとした間にも、それは何度もこめかみを往復し。


「おやおや」


 面白がるような低めの声を聞きながら、羞恥のあまり、目を回してしまった私は。


 ・・・うちに連れ帰られてからも。夫に、離してもらえませんでした・・・。




焼きつ、焼かれつ(苦笑)

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