妻と夫の静かな戦い
※時間軸は挨拶をさせましょう、直後です。
夫にまさかのおまけ付きの朝の挨拶を初めてされた日。
私たちの静かな戦いの火蓋は切って落とされました。
朝食後。
珍しく夫がゆっくりと朝食を食べていたので、私と同時に食べ終わりました。出かける支度を終えた夫を扉の前まで見送ろうと近づくと、焦げ茶色の目でじっ、と私を見ています。何か忘れ物でもしたのでしょうか?
しばらく待ってみたのですが、何も言わないので、とりあえず見送ることにしました。
「いってらっしゃいませ」
いつものように返事が無いだろうな、と思いつつ、朝の挨拶のダメージを引きずっていた私は、挨拶を返させるべく奮闘する気力は残っていませんでした。
夫は何も言わずに、外へ出ようともせずに私を見ています。
「旦那さま?」
声を掛けると、無表情のまま、ふかふかのヒゲで覆われた頬を指で叩いて見せました。・・・もしかして、またですかっ!?
先ほどのやりとりを鮮明に思い出して、一気に顔に熱が集まって行きました。
もう無理です、さっきのやりとり一回ですら限界突破してるんですよ!?
おもいっきり頭を横に振り続けていると、夫はしばらく私の様子を見ていましたが、やがて頭の上に手を置いて、首振りを止めてくれました。夫の大きな手は、大きさに見あった重量感があるので、そのまま少し首ががくり、となりましたが私の意思は伝わったのでしょうか?
夫の様子をチラリとうかがうと、頭の上の夫の手に僅かに力がこもった気がしました。
どうしたのでしょうか?
不思議に思って見ていると、夫の顔がだんだん近づいてきて。
こ、これは危険です! なんとしても死守しなければっ!
「ダァっめです!」
こ、声が裏返ったぁーっ!?
これ以上ないくらいに真っ赤になって固まった私を、至近距離で焦げ茶色の目がどこか面白そうにみていました。
そして、やがて離れて行き。
「・・・行ってくる」
「は、はい、いってらっしゃい」
・・・挨拶って、大変ですね。
夫、真っ赤になって固まる妻を見れて、ちょっと満足げ。