妄想劇場 ~夫:クマ、妻:シャケ~
もしも、夫がクマで、妻がシャケだったら!? という妄想から生まれた妄想劇場を、お送ります(笑)
完全に妄想ですので、本編とは一切関係ありませんので、別物語として、お楽しみいただけると嬉しいです。
では、はじまり、はじまり~♪
配役:クマ(夫)
シャケ(妻)
こんにちは、シャケです。
私、このたび目出たく生まれ育った川に戻ってきました。
目的のひとつは産卵ですが、それだけではありません!
まだ稚魚だった頃に出会った、あの方にもう一度お会いするために帰ってきたのです!
そう、あれはまだ生まれて間もない頃のことでした。
増水していた川で遊んでいた私は、いつの間にか水位が低くなってしまい、くぼ地に取り残されてしまったのです。日に日に水の量は少なくなっていきますし、ご飯だってほとんどありません。
太陽の明るさが大好きなのですが、今はそれが私の残りの魚生(人生)を刻一刻と奪っていきます。
雨が降る気配もなく、もう背中が水面に出てしまっている状態で、今生をあきらめかけていたそのとき、彼が現れたのです!
黒くて大きな体に、まん丸の目。
風でふわふわ揺れるふかふかの毛皮で覆われた彼は、私を見つけるとしばらく見つめていました。
そして彼は、その大きな手のひらで私を本流へとはじき飛ばして、助けてくれたのです!
それ以来、彼は時々川辺に来ては、私や他の仲間たちと戯れるようになりました。
けれど、その楽しい交流は長くは続きませんでした。
私たちが海へ向かう時期がやってきたのです。
私は最後に彼にお別れと、そして約束をしたのです。
必ず戻ってくると!
そして今日。
私はその約束を守って、この懐かしい川辺へ戻ってきました。
彼は、どこにいるのでしょうか?
そのとき。
大きな影が差したかと思うと、近くにいた一匹のオスシャケが水中からはじき飛ばされました。
この手の動きは!?
私が水面を見上げると、揺れる水面に大きな黒い影が動いていました。大きな、大きな影です。
彼です!
全体的にかなり大きくなっていますが、彼に違いありません!
私は彼に挨拶がしたくて、逃げ惑う仲間たちとは逆に、大きな影へと近づいていきました。
水面を一生懸命見上げながら、彼の側でくるくる回っていると、彼が急に水中に顔をつけました。
やっぱり彼です!
毛はふかふかそうですし、まん丸の目も間違いなく彼です。
もしかして、彼も私に気づいてくれたのでしょうか!?
嬉しくなって彼の顔の側に近づくと、彼はちょっと不思議そうな顔をしたあと。
がぶり。
私を咬んだまま、空中へと戻っていきました。
私、魚なので、水がないと死んじゃうんですけど!?
エラに空気が入るとめちゃくちゃ痛いんですよ!?
ほとんど反射でびちびち体をひねっていると、だんだん意識が遠のいてきました。
せめて、彼と一言お話させてもらいたかったなぁ。
今生をあきらめた瞬間、ばしゃん、と言う音ともに呼吸が出来るようになりました。
み、水!!
水ってこんなに美味しかったでしたっけ!?
私は水中をぐるぐる動きながら、彼のほうを見上げました。
彼はじっと私を見ています。
私も動きを止めて、彼を見つめます。
水と空気の隔たりはありますが、やっぱり彼です。
ちゃんと、会えました。
私はいつぞやのお礼をいって、約束どおり帰ってきたんですよ、といったのですが、彼には伝わっていないようです。やはり、彼には魚語はわからないのでしょうか?
でも、いいんです。
こうしてまた会えたから。
嬉しくてまたくるくる動いて気が付きました。
ここ、私の故郷の川じゃないです。
水流がものすごく緩やかで、ほとんどないといってもいいです。それにあまり広さはないのですが、その分すごく、深そうです。試しにもぐってみると、海のようでした。底までは行けなそうです。水面に戻ろうとすると、水中に彼の顔をみつけました。
また見に来てくれたのでしょうか?
私は嬉しさが抑えきれなくて、彼の前でくるりと回って見せてから、彼の鼻先に顔の先で触れてみたのですが、彼はいきなり空中に戻っていってしまいました。
呼吸が続かなかったのでしょうか?
それから。
私と彼の生活が始まりました。
・・・ここが私の楽園です。
シャケになっても一途な妻と、クマになっても予想外の攻めに弱い夫なのでした