ささやかな謀(夫視点)
レインが家に遊びに来る前夜の夫視点を書いてみました!
明日は、妻の友人が家に遊びに来るらしい。
ここ最近なんとなくふさぎこみ、ぼんやりと何かを考え込んでいることが増えた妻が、今日はやけに張り切って菓子の用意をしたり、茶器を用意したり、部屋を片付けたりしている。
足音をたてながら、くるくると動き回る妻。
体が小さいこともあって、木々を駆け回るリスのようにも見える。
そんな妻の動きを眺めるのは、なかなか楽しいことだし、妻が気分転換できるのはいいのだが、その動きが全て妻の友人のためのものだと思うと。
少し、面白くない。
月に一度の集会で、いつも妻が真っ先にその姿を捜し、駆け寄っていく相手は、妻と同じ黒髪に、黒い瞳をもつ男装の女。
男装しているとはいえ、もともとの性別は女であり、一時期だけだがグレインの妻であったこともあるとわかっていてもなお、二人が並ぶと似合いの恋人同士のように見えて。
・・・かなり、面白くない。
せめて男装をやめれば、普通の友人同士に見えるだろうに。
「はい、旦那さま! 蜂蜜クッキーを焼いてみたんです。どうですか?」
思考に沈んでいる間に妻が近づいてきて、焼きたての菓子をひと皿、渡してきた。
食べてみろと促す動きに、ひとつつまんで食べてみると、蜂蜜の甘い香りが口の中に広がる。
かなり甘いが、うまい。
じっ、と反応をうかがう妻に、小さくひとつ頷いて見せると、嬉しそうに笑った。
「大丈夫そうですね! レインが好きな蜂蜜クッキー、かなり久しぶりに作ったのでちょっと心配だったんですよ」
・・・やはり、面白くない。
楽しげに明日の準備をする妻をこれ以上見ていたら、何かを仕出かしてしまいそうな気がして、早々に寝室に引き上げた。
いつもよりもかなり遅い時間になって、ようやく妻が寝室に入ってくる。
焼き菓子の甘い香りを漂わせながら、あっという間に眠りについた妻はいつも通り腕の中に転がってきた。
いつものように大きく息をついて、身動きを止めた妻をしばらく見下ろし。
そっと妻の首筋に唇を寄せる。
妻が鏡を見ても見えない、ただし、横に座れば必ず見える位置に、ひとつ。
念のため。
それから、少しだけ、服の襟元をくつろげて胸元にも。
・・・ひとつでは、とまれなかった。
絶妙な位置の、ひとつだけじゃ無かったようです。
そして、妻は気付かない(笑)