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妻と夫の夜のお散歩

夜のお散歩も、おつなもんです。

「旦那さま、お散歩に行きませんか?」


 リーフェリア祭が近づくこの季節、空から月が消え、真っ暗になってしまう分、星がとてもきれいに見える時期でもあるそうです。

 夕食前にチラッと見てみたのですが、木々にさえぎられてしまって、あまり良く見えません。でも隙間から見える空は、確かにきらきらと星が瞬いました。


 もっと開けた場所でゆっくり眺めたいな、と思ったので、夕食後の時間に夫を誘ってみました。

 夫は晩酌していた手を止めて、不思議そうに私の方を見ています。これは、質問の意味が良くわからなかったときの雰囲気ですね。

 相変わらず無表情のままですが、最近、夫の雰囲気と視線から感情と思考を読み取る能力が格段に上がってきたように思います。

 対夫限定の能力ではありますが。


「今夜はとても空がきれいですよ。一緒にゆっくりお散歩して、夜空を見にいきませんか?」


 もう一度誘うと、夫は杯に残っていたお酒を飲み干して立ち上がりました。

 やった! これは夫が乗り気になった動きです!


 夫は手早く鞄に何かを詰めると、私が靴を履き替えるのを待って、外へ出ました。

 

 リーフェリア祭が近づいているとはいえ、やっぱりまだ夜は肌寒いですね。


 それに、星はきれいに輝いているのですが、月が無いので、真っ暗です。自分の足元どころか、少し先を歩く夫の背中さえ見失ってしまいそうな暗さに、思わずしり込みしてしまったのが失敗でした。


「あれ? 旦那さま・・・?」


 夫の背中、見失いました。


 まずいです、これは非常にまずいです!

 自宅前で遭難って、どんな遭難の仕方ですか!?

 友人に知られたら、何年も言われるに違いありません。それだけは阻止しないと。


 いやいや、まだ遭難したと決まったわけではありません!

 大きな声で呼べば、夫が気づいて戻ってきてくれるかもしれません。


「旦那さ・・・っ!!」


 呼びかけた途中で、暗闇からぬっ、と夫が戻ってきました。び、びっくりした、意外と近くに居たんですね。

 夫は少し不思議そうに首をかしげて、ああ、と小さくつぶやきました。


「見えないのか?」

「え、見えているんですか?」


 夫の貴重な自主的な質問に思わず質問で返してしまいました。

 ああっ、なんてもったいないことを! ここはちゃんと質問に答えてから聞き返したほうが会話が続いたのに!

 チャンスをふいにしてしまって嘆いていると、夫がこくん、と頷きました。


 えーと、これは私の質問への返事ということですから、見えている、という肯定の意味ですよね。

 ああ、だから明かりの類を全然持ってこなかったんですね。


「見えないのか?」


 夫が、また質問してきた!!

 どんな奇跡が起きたのか、唖然としてしまいそうになりましたが、そんな場合じゃありません、同じ失敗は二度繰り返しませんよ!


「これくらい離れると、旦那さまの顔が見えません」


 どの程度見えないかを表現しようと少し後ろに下がったのですが、気づけば、夫に捕獲されました。

 ・・・えーと。いや、今のは逃げようとか、びびったとかの動きじゃないんですが、それも駄目なんですか?


 ちょっと驚いて夫を見ていると、夫は暗闇の中、明らかに視線を逸らして、私を抱えたまま、歩き出しました。


 これ、私のお散歩にならないですよ!


「着いたら、下ろす」


 抗議しようとした気配を感じたのか、何かを言う前に夫に決定されてしまいました。

 でも確かに、明かりも無く夜道を歩くのは私には無理そうですよね。足元、全然見えていないですし。それに風がまだ少し冷たいので、こうしていると夫の体温でとても温かくて心地良いんですよね。


 私はちょっと悩んでから、力を抜いて夫に寄りかかりました。

 楽をさせてもらいましょう!


 夫の動きが一瞬ぎこちなくなったような気がするのですが、すぐにもとの通りゆるぎない足取りで進んでいきます。

 人一人抱えているとは思えない動きで、家から少し離れた広場のようになっている場所まで運んでもらうと、夫が地面に立たせてくれました。


「うわぁっ・・・!」


 夫に支えられて見上げた空では、無数の星々がその輝きを競い合っていました。

 こんなにたくさんの星を一度に見たのは、初めてです!

 大きいものもあれば、今にも消えてしまいそうなほど小さな瞬きもあります。空には、こんなにたくさんの星があったんですね。


「旦那さま! すごいですね、すごくきれいです!」


 この感動を分かち合おうと夫を見上げると、夫は、まっすぐに私を見ていました。その視線があまりにも強くて、心臓が一音、飛びました。


「ああ、そうだな」


 私が見えていないと思ったのか、いつもの首肯ではなく、声に出して返事をしてくれた夫の視線は、いまだ、私に注がれています。


 それからもって来た鞄から敷物と、飲み物、私用のひざ掛けなどを次々と取り出して快適な夜空見学の会場を作ってくれたり。

 星座や星の名前についての知識が皆無な私の子供のような質問に、簡潔に答えてくれたり。


 とても快適で楽しい夜空見学は、空が白み始めるまで続き、夫と交わした会話の新記録を樹立しました。


 ・・・たまには、こうして夫とお出かけするのもいいものですね。




昼のお散歩と夜のお散歩、皆さんはどちらが好きですか?

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