妻と夫のとある休日
妻と夫の、とある雨の日の日常です。
いいお天気です。
今日はとっても、いいお天気なんです。
窓の外は真っ黒な雲で覆われていて、なにか細かなものを叩きつけるような小さな音がずっと続いていたとしても、今日はいいお天気なんです!
外の地面が水浸しになっていようが、なんだかゴロゴロいっていようが、いいお天気だったらいいお天気なんですっ!
・・・今日のお出かけ、中止になっちゃうでしょうか。
まだ街以外の場所に行ったことがないので、どこかに連れて行って欲しいとねだったら、少し離れた場所にある湖まで連れて行ってもらえる予定だったんですが。
お弁当も、おやつも、飲み物もちゃんと用意したのに。お出掛け、なくなっちゃうんでしょうか。
いえっ、まだ分かりません! もしかしたら雨がやむかもしれませんしっ!
晴れろ~、晴れろ~、と窓の外の空に念を送っていると、頭の上にぽん、と衝撃が走りました。お、重いっ。一体なにが、と振り向くと夫が立っていました。私の頭の衝撃は夫の手のひらが発生源だったようです。
「旦那さま・・・」
はっ、まずい、外はまだ私の念が届いていません!
「そ、外はまだ支度中なので、覗いちゃ駄目です!」
私は慌てて窓を背に隠しました。いえ、窓のほうがずっと大きいので、全然隠れていないんですけども、こういうのは気持ちですよね、気持ち。
というか、自分で言っておいてなんなんですが、外が支度中っていったいどんな状況でしょうか。なにを支度しているんでしょうか。とっさにいい誤魔化しが思いつかなかったからって、なに言ってるんですか、私っ!?
思わず夫の反応を伺うと、夫は相変わらずの無表情で見下ろしています。相変わらずの無反応っぷりで、むしろほっとしました。
夫は私がおかしな言動をしてしまっても、気にしないでくれるので、その辺は気分的にかなり助かります。
気が緩んで小さく息をついた途端、夫が私越しにカーテンを引いて、自然な動きでひょい、っと私を抱き上げました。
急な動きについて行けなくてバランスを崩し掛けたのですが、すぐに夫の腕が背中に回ってしっかりと固定します。
うん、ものすごい安定感。
でも、急に抱き上げたら危ないですよ!
と抗議しようとしてしたら、ポスッ、という衝撃が走りました。
夫が私ごとソファに腰掛け、もぞもぞ動いているなァ、と思ったら、夫私の間に、焦げ茶色のクッション。
これ、私のお気に入りの、ふかふかクッションです。
さらに何処からともなく取り出した可愛いネコのクッキーを口の中に放り込まれました。
あ、これは、店主さまの奥さまのクッキーです!
むむむ、しかも私がまだ試した事がない味です。新作でしょうか?
もぐもぐむぐむぐ味わっていると、今度は、最近お気に入りの作家の本が手渡されました。
うあっ! これ、まだ読んでないやつですっ!
今度友人に借りに行こうと思ってたやつですよ!
きゃーきゃー言いながら、早速読もうと本を開き掛けて、はたっ、と気づきました。
夫の方を振り向くと、じっと私のようすを見ています。
「旦那さま、ありがとうございます!」
どこかほっとしたような優しい目で小さく頷くと、夫も手元に本を引き寄せました。
お気に入りのクッションに、お気に入りのお菓子、お気に入りの本。そして側には、暖かな夫。
・・・雨の日のお休みも、お気に入りになりました。
こうして少しずつ、お気に入りが増えていく、夫婦の日常でした。