壁側で寝かせるそのわけは(夫視点)
※「早寝をさせましょう」後のとある夜を、夫視点でお送りします。
妻が眠そうだ。
そろそろ限界に近づいているのか、縫い物の針を何度も刺しそうになりながら、ちらちらと視線をよこしてくる。
・・・潮時だな。
手入れをしていた商売道具を片付けると、妻も嬉しそうに裁縫道具を片付け始める。その様子を横目で見ながら寝室に入り、寝具の中に入って目を閉じれば、それほど間をおかず妻が布団の中に入ってきた。
妻の視線を感じつつ、目をつむったまま一定の呼吸を続けていると、やがてかすかに聞こえてくる妻の呼吸も同じように浅く規則正しいものに変わっていく。
さらにしばらくそのままでいると、妻が動き出した。
やはり、今夜もか。
横向きになって目を開ければ、さっきまで腕に触れていた妻の体が狭い寝台の中を外側へ向かって転がっていくところだった。ぬくもりが離れていく。
すぐに端まで行き着いた妻は、絶妙なバランスで寝台から落ちはしないものの、そこで落ちそうで落ちない、ぎりぎりの綱渡りのようなバランス芸が披露されている。
初めてこれを見たときは、まさかそんな状態で本当に寝ているとは思わず、そんなに俺と寝るのが嫌なのか、と呆れるとともに少し攻撃的な気分になったりもしたが。
ただ寝相が悪いだけだとわかったときには、それはそれで微妙な気分だった。
いつものように、妻を起こさないように起き上がり、絶妙なバランスでふらふらしている肩を軽く引っ張って寝台の奥側へ転がす。
大人しく転がって行った妻は、壁まで行き着くと、しばらく壁に張り付いていたが、また転がってくる。
待ち構えていた腕の中にまで転がってきた妻をそっと抱き寄せると、しばらくもぞもぞ動いていたが、やがて大きく息を吐いて、大人しくなった。一度場所が落ち着けば、再び転がりだすことはない。
この一連の動きを完全な睡眠状態で行うのが、妻だ。
最近は、壁側で寝るのが好きだという、妙な誤解のせいで外側で寝たがるようになったから、ほぼ、毎晩この動きが行われている。
ただ、起きた時に自分が壁側になっていても気にしていないようなので、妻が寝入った後で遠慮なく転がすことにした。
誤解が解ければ、妻が寝入るのを待たなくてもいいのだろうが、その誤解を解くわけにもいかないし、ちょっと押せば寝台から落ちてしまいそうな妻をそのままにしておくわけにもいかない。
結局、妻転がしは毎晩続いている。
・・・朝、寝台にいない妻の温もりの名残を求めて奥側で寝ていることは、秘密だ。
こうして、妻は毎晩ころころ転がっていると。
毎朝起きると、奥側で寝ているのはこういう訳でした(笑)