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第32飯 「勝手にやってきて、なんだお前は」


「おいヴィヴィ。こいつ、魔族なのか。本当か」

「ああ。ちょびっとじゃが、思い出したわ」


ヴィヴィが倒れたシルラスの顔を指さした。


「この青い肌。長い耳。いわゆる、ダークエルフってやつじゃな。魔王が率いておった、魔族じゃ」


「ダークエルフ……、なんか頭が痛くなってきた」


正直、情報量が多すぎる。魔王。魔族。異世界。そしてダークエルフ。もうしっちゃかめっちゃかだ。何から整理すればいいのかまるでわからない。


……俺がこんな状況だ。配信コメントなんか大荒れだろう。


>俺たちは何を見せられてるんだ……

>魔王?魔族?どゆこと

>異世界いってみたいです!

>ってか、なんでヴィヴィちゃんそんなこと知ってるの

>ダークエルフ!キタコレ!

>この倒れてるやつどうすんの?

>さすが短剣ニキ! 秒殺乙です!


ちらっと見ただけでこの様子、すなわちカオスである。コメントが早すぎて読むのが全く追いつかない。あと殺してないからな。


「わしが、なぜ知っているか! それはな! わしが魔王剣だからじゃ! はーーーっはっはっは!」

「……はぁ」


配信コメントを見て、自分から言いやがった。


「せっかく、秘密にしてたのに……」

「よかろう、下僕よ! もう、こやつが! このシルなんとかが! わしを魔王剣と呼んだのじゃ! すべては、もう遅い! 遅すぎるのじゃ!」

「シルラスな」


胸を張って、高笑いするヴィヴィ。まあ、そうなんだ。こいつの言う通り、シルラスが配信で堂々とヴィヴィを「魔王剣」と呼んだ時点で隠しようもなかった。


「……まあ、そうか。仮にヴィヴィが魔剣でも、魔王剣でも、そんなに変わらんか」


俺もこれについては今は考えるのをやめた。ここまで来るともう大差ない。あとのことは、あとの俺に任せよう。


というかそれより、だ。


俺の足元でのびているシルラス。こいつ、呑気に気絶しているんだが、妙に気持ちよさそうに寝ている。


しかしよくも、俺の配信が流れてる最中にこっちのプライベートをべらべら喋ってくれたな。さすがにちょっとムカムカしている。……まあ煽った俺もちょっぴり悪いんだが。


「さて。どうしてやろうか」


問題はこいつをどうするかだ。ギルドに突き出すにしても、この図体を引きずって帰るのか。いったん帰らなくてはいけないのか。


そうなるとまた戻ってくることになる……面倒だな。いや面倒というより、このダンジョンに戻ってくる!?


正直、置いていきたい。……そうだ。俺にはこれからボス攻略と魔剣を集めるっていう、重要な使命があるんだ! こんな青いオッサンにかまってる暇などない。


よし。置いていこう。我ながら名案だ。そう思ったそのときだった。



 ◇



「シルラス様――――!!」


遠くから声がした。


ドドドドド、と。土を蹴るけたたましい足音。誰かが猛然と駆けてくる。


「……なんだ?」


このダンジョンの中でこんな大声を張り上げて突っ込んでくるとは。馬鹿なのか。モンスター、いや妖怪どもが集まるだろう。止めてほしい。


はたして現れたのは、青い肌の男だった。


ぎざぎざに逆立った、つんつんのショートヘア。顔じゅうにいくつも開いたピアス。シルラスと同じ、身長190センチくらい、尖った長い耳。だが、あっちが年寄りならこっちは若い。派手でチャラついた風貌だ。


男はシュタッと軽い身のこなしでシルラスの横に降り立った。


「あー、やっぱり負けちゃったっすかー。やっぱりあの後思い直して見に来てよかったっす」


気の抜けた声で言うと、シルラスをひょいと右肩に担ぎ上げる。米俵みたいな担ぎ方だった。


「おい。勝手にやってきて、なんだお前は」

「アー、すんませんね」


男がにこっと笑って、ピースをした。


「さっきシルラス様が話してたでしょ。俺たち魔族っすよ♪」


……こいつもやっぱり魔族か。


>またなんか出てきた

>おっさんよりイケメンのダークエルフ

>つんつんヘアー

>ピアス多すぎ痛そう

>キャラ渋滞してきた


「それよりおにーさん、今、配信中っすよね?」


男が俺の背後のカメラに目をやった。顎に手を当てて考えるしぐさをする。


「だったら、あんまり、これ以上は話せないっすねー」


……こいつ、配信中だってことをわかってやがる。だからシルラスみたいに口を滑らせない。あおっても無駄そうだ。ずっとニコニコして少しお茶らけているが、頭は回りそうだ。


「でも」


不意に男の目(・)が(・)鋭(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)。さっきまでのへらへらした空気が消え鋭い刃のような雰囲気を纏った。


「シルラス様はこう見えて、俺たちのリーダーなんすよ。だから――連れて行くのは、やめてほしいっすね」


男がふいに左手を前に差し出した。


ビクっ。何かする気か。


さっきのシルラスの事がある。俺は声に出さず、周囲にロックを張った。これでどんな攻撃が来ようとこいつの手は届かない。



 ◇



「わかってるっすよ」


男が薄く笑った。


「あんたに攻撃が効かないのは。――でも、さすがにこれはどうっすかね?」


ゆらぁ、と。男が、左手で大きく円を描いた。


「幻炎(げんえん)」


ボボボボボボ。


俺の周囲に数十の蒼い炎がともった。青白い火はみるみる大きく広がり、俺をぐるりと取り囲む。あっという間に男の姿が炎の壁の向こうに消えた。


「ショック!」


こんなもの効くか。ショックで目に見える範囲の空間ごと揺らして吹き飛ばす。


だが。


炎は消えなかった。ぼうぼうと燃え続けている。


「なっ……!?」


「幻っすよ」


炎の向こうから間延びした声。


「さっきのシルラス様のを、忘れちゃったんすか?」


――幻影か。


くそっ。実体がないなら、ショックじゃ消せない。だったら、もう一度ヤールングレイプルで、放電を――


「遅いっす」


炎の向こうで、男が背を向けたのがわかった。


「俺の名は、幻炎のカジン。――また会おうっす、短剣ニキ――」


俺がヴァーリーを構えるより早く。


蒼い炎が蜃気楼のように揺らぎ、そして跡形もなく消えた。


そこにはもうシルラスもカジンと名乗った魔族もいなかった。



 ◇



「……逃がした、か」


誰もいなくなった暗い山の中。俺は構えた金籠手を下ろした。


まあ、いいか。


探索者を襲ってたやつの正体はわかった。多分だけど今後このダンジョンには来ないだろう。正体を明かした形になるみたいだし。


そうなればこの調査依頼はこれで完了ということになるのだろうか。正体はなんであれ、自白した配信も残ってる。証拠には十分だろう。


それに正直なところ、シルラスを引きずって帰るのが無茶苦茶面倒くさかった。だからカジンとかいう魔族が勝手に持って帰ってくれて、むしろ助かった。けっしてダンジョンにもう一度くるのが嫌とかそういうのでは全くない!


配信ドローンがピカピカと光っていることに気が付いた。


>怒涛の展開すぎる

>正直コメントするのも忘れてた

>映画みたいな展開だった

>何が起きてんだよ

>逃げちゃったけど

>逃がしたらあかんやろ

>短剣ニキ、大丈夫か?

>というか、その金色の籠手なんだよ

>いつの間にそんなの手に入れたんだ

>毎回武器が増えるニキ

>それも魔剣なの?

>というか魔王剣ってなに?

>ヴィヴィちゃん、なんで魔族って知ってるん?


「……うわ」


コメントが先ほど以上のすごいことになっていた。


流れる速度がいつもの比じゃない。次から次へと疑問符が積み上がっていく。魔王剣。魔族。金色の籠手。全部、答えるのか、これ。


わかる、めっちゃわかるんだ。聞きたいよな、俺も何が起こってるのか誰かに聞きたい……頭が痛い。


「お? 下僕、終わったのか?」


ひょい、とヴィヴィが顔を出した。


……こいつ。いつの間にか姿が見えないと思ったら、勝手に実体化を解いてやがった。戦いの間も、オチのところも全部人任せか。


「お前、自由すぎるだろ」


 

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