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精神科の夜勤で、命の危険を感じた夜

作者: 神谷透
掲載日:2026/04/03



夜勤は、三人だった。



看護師が二人。

男性と、女性。



そして、看護補助者が一人。



いつもと変わらない夜だった。



二十時。



眠前薬の時間。



女性看護師と補助者が一組になり、

別のフロアを回っている。



私は一人で、こちらのフロアを担当していた。



順番に声をかけ、

患者に薬を渡していく。



問題は、なかった。



——あの一人を除いて。



廊下の隅。



一人の青年が、しゃがみ込んでいた。



二十代くらい。



静かだった。



異様なほどに。



他の患者の対応を終えたあと、

最後に声をかけた。



「薬、どうしますか」



返事はなかった。



視線も、動かない。



「詰所にありますので、飲みたくなったら来てください」



そう伝えた。



そして——



背を向けた、その瞬間だった。



強い衝撃。



次の瞬間、


髪を掴まれていた。



力が、異常だった。



引き抜かれるような痛み。



反射的に両手で押さえる。



それしかできなかった。



振りほどけない。



「……離してください」



声をかける。



反応はない。



青年は、


無表情だった。



怒りでもない。



笑いでもない。



ただ、


こちらを見ている。



そして、


さらに強く引いた。



痛みで、思考が飛びそうになる。



「……っ、やめてください!」



声が大きくなる。



それでも、


離さない。



限界だった。



「来てください!!」



叫ぶ。



別フロアにいるスタッフに向けて。



数秒後、


足音が響く。



二人が駆けつける。



三人がかりで、


ようやく手を離させた。



だが、


終わっていなかった。



青年は、


こちらに向かってこようとした。



同じ表情のまま。



同じ視線のまま。



距離が一気に詰まる。



反射的に後ずさる。



その瞬間、


はっきりと思った。



——危ない。



すぐに当直医へ連絡。



そのまま保護室へ。



隔離。



そして、


鎮静。



静かになったのは、


その後だった。




あのとき、


感情はなかった。



怒りも、


恐怖も、


なかった。



ただ、


一つだけ残った。



——“違和感”だった。




人が壊れるとき、


それは叫びながらじゃない。




静かに、


何も変わらない顔で、


起きる。



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▶ カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/2912051597199534420

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