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永夜のあと、夜明けが挨拶に来る  作者: 源もの


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序章 1073回目の十二月二十四日

永遠の12月24日で出会う、孤独な二人の再生の物語

午前五時四十七分。

東京・杉並区の朝日丘アパート。屋上では、雪が音もなく舞い落ちていた。

雪村深月は、手すりの前に立っていた。腰の高さしかない鉄の柵は、冬の夜気で凍えるように冷たい。それでも彼女は、その柵にすら触れようとしなかった。ただ、そこに立っていた。雪の中に置き去りにされた、一振りの彫刻のように。色褪せたグレーのパーカー一枚。肩に、髪に、降り積もる雪をそのままに。黒い髪はうっすらと白く染まっていた。彼女は震えていなかった。寒さを感じないのではない。もう、感じる力さえ失せていた。

寒さも、飢えも、眠気も。

何もかもが、遠くにある。

見下ろした先に、中庭がある。

六階。この高さなら、十分だ。落ちれば約三秒。何度も計算した。飛び降りてから、地面に達するまで、三秒。三秒後には、すべてが終わる。少なくとも、その一瞬だけは、すべてが終わるのだ。

積もった雪が、中庭を真っ白なキャンバスに変えていた。昼間は子供たちの雪だるまができ、夕暮れには帰宅を急ぐ人々の足跡がつく。深夜になれば、ただ街灯だけが黄色い光を落とす。けれど、今はまだ午前五時四十七分。中庭には誰もおらず、ただ静かに、雪だけが降り注いでいる。

その先に、いつものコンビニがある。二十四時間営業の「サニーマート」だ。

白い灯りは、夜明け前の最も深い闇の中で、まるで決して瞼を閉じることのない、一つの瞳のように見える。深月はその瞳を、1073回も見つめてきた。繰り返されるたび、それはいつもそこにあった。灯り続け、決して消えず、決して変わらない。この世界そのものが、そうであるように。

1073回。

その数字を、彼女は覚えている。

いつからか、ノートに繰り返しの回数を記すようになった。最初は正の字で。やがてページが埋まり、新しいノートに代えても、また埋まった。そのうちに、無意味に思えた。どんなに正確に数えたところで、誰も見やしない。誰も気にしない。彼女は数えるのをやめた。

けれど、また数え始めた。

自分が狂っていないことを、証明するために。この繰り返される日々が幻覚ではなく、確かに存在するという、その証拠を、自分自身に突きつけるために。1073回。すべて十二月二十四日。すべて同じ雪景色。同じ朝。同じ自分。

もし、ある日突然、永遠の輪廻が終わったら、自分はどうなるのだろう?わからない。もう、「普通の日々」がどんなものだったか、思い出せもしない。もしかすると、自分はとっくの昔にここに閉じ込められて、永遠に出られないのかもしれない。

空は鉛色で、ほんの僅かに紫がかっている。日の出まで、まだ一時間以上もある。それでも空は、純粋な闇から、この曖昧で居心地の悪い灰色へと、変わりつつあった。深月はこの時間帯が嫌いだ。あまりに曖昧すぎる。夜とも昼ともつかず、まるで二つの世界の狭間に挟まれて、どちらにも行けなくなった者のように。

それは、今の自分自身の姿と重なる。

生と死の間にも、そんな曖昧な灰色の領域があるのだろうか?わからない。けれど、もうすぐ、わかるのかもしれない。

自分の手を見る。

指先は血の気を失い、爪の周りはうっすらと紫を帯びている。握ったり開いたりを繰り返す。関節は冷え切って、ぎこちない音を立てた。

この手は、1073回もの繰り返しの中で、様々なことをしてきた。

文字を書いた。捨てられたノートに、繰り返しの細部を記録するために。食べ物を口に運んだ。コンビニの同じサンドイッチを、1073回。ドアを押し開けた。二〇一号室の、あのいつも引っかかるドアを。どのくらいの力で押せば一度で開くか、もう知っている。コンビニのコーヒー缶を握った。あの熱さを、1073回。ページをめくった。部屋で見つけた古びた本のページが、指の感触で柔らかくなるほどに。エレベーターのボタンを押した。あの、いつも光っている「一」のボタンを。

けれど、誰かの手を握ったことは、一度もない。

誰かに、この手を握られたことも、一度もない。

深月は両手をパーカーのポケットに突っ込んだ。指先が、底に開いた穴に触れた。この穴はいつ開いたのだろう?わからない。繰り返しの中では、時間という概念そのものが意味を失っていた。百回目かもしれないし、五百回目かもしれない。ただ、ポケットにスマホを入れるたび、それが穴から落ちることだけは、知っている。

まるで、自分の人生のように。

顔を上げ、鉛色の空を見る。まつげに雪が積もり、視界が滲む。瞬きもしない。溶けた雪が、冷たい雫となって目尻を伝う。それは、涙の温度と同じだった。

けれど、泣いてはいない。もうずっと、泣いていない。

背後から、足音が聞こえた。

雪を踏みしめる、あの独特の音。きしっ、きしっと。ゆっくりと、そして、わざと音を殺すように。深月は振り返らなかった。どうせすぐにリセットされる。この瞬間を覚えている者など、誰もいない。誰かに見られようが、止められようが、意味はない。時間は巻き戻り、すべてが始まりに戻る。また午前六時零二分、あのシングルベッドの上で、見慣れた天井のひび割れを眺めて目覚めるのだから。

だから、振り返らなかった。

けれど、その男が、口を開いた。

「今回こそ、飛び降りるつもりか」

その声は、ひどく静かだった。自死を図ろうとする者への言葉とは思えないほどに。まるで、「今日は寒いですね」とか「もう朝ごはんは食べましたか」とでも尋ねるかのようだ。それよりもなお淡々と、遠い場所から聞こえてくる、やわらかな木霊のように。

深月は、はっとして振り返った。

三メートルほど離れたところに、男が立っていた。

くたびれた生成りのセーターを着て、袖口は伸び、糸がほつれている。下はカーキ色のチノパンで、裾は雪で濡れて色を濃くしていた。足元は、履き古したスニーカー。キャンバス地は白っぽく、靴ひもはゆるく結ばれていた。明るい茶色の髪は、少し長めの前髪が風に乱れ、左目を隠している。肩に雪が積もっているのに、彼はそれに気づいてすらいないようだった。

両手は、ポケットの中。

その表情は、あまりにも淡白だった。

無関心――それも一つの感情だ。世界に対する拒絶や疎外がそこにはある。無頓着――それもまた、物事への関心のなさだ。けれど、彼の顔に浮かぶ「空白」は、もっと深かった。何か大切なものを根こそぎ奪われた後に残る、虚ろな空洞。まるで、ここに立っているのは確かなのに、彼という人間の核心の部分は、どこか別の場所にあるかのように。

深月は、彼を知っていた。

上の階、三〇二号室の住人だ。エレベーターで何度か、すれ違ったことがある。いつも同じだった。彼女が一階のボタンを押し、彼もまた同じ階を押す。そして、黙ったまま、エレベーターのドアの一点を見つめている。決して「おはよう」とは言わない。彼女が何階に住んでいるのか、尋ねることもしない。ただ、沈黙したまま。まるで、呼吸をする彫刻のように。

名前も知らない。知ろうとも思わなかった。この繰り返される世界では、すべての人間はただ動く背景でしかない。彼も、その例に漏れない。

なのに、今、彼はここに立ち、彼女に向かって、その言葉を発した。

「あ……あなた」深月の声は、自分でも驚くほどかすれていた。長く口をきいていないせいで、声帯が錆びついてしまったかのようだ。「どうして、それを……」

「ループは、覚えていないんだ」

男は一歩、前に進んだ。そして、二メートルの距離を保ち、立ち止まる。その目は琥珀色で、雪明かりに透けて、冬の凍てついた湖面の浅瀬のように澄んで見えた。彼は深月を見つめていた。目をそらさず、無駄な感情も浮かべずに。

「毎朝目覚めるたび、僕はその日を、初めて生きる」平坦な声だった。まるで、そこにある事実をただ羅列するかのように。「コンビニのあの店員の名前も、そのたびに忘れる。アパートの管理人だって、毎回顔を覚え直さなきゃならない。でも……」

ほんの一瞬、言葉を切る。

「君を見ると、わかるんだ」

深月の呼吸が止まった。

「何が?」

「君の目が、この日にあってはならないものを持っているってことだ」と彼は言った。「君の顔は認識できない。前に話したことがあるかどうかも、覚えていない。でも、君の目の奥の光は、覚えている。繰り返すたびに、その光は、前よりもっと深く、絶望の色を濃くしていく」

彼は続けた。確かめるように、ゆっくりと。

「最初の頃、君はまだ前を見て歩いていた。人を避け、コンビニのレジで『ありがとう』と言っていた。やがて、言わなくなった。さらに、誰とも目を合わせなくなった。コンビニに入り、サンドイッチを取り、レジに並び、金を払い、出ていく。その間、誰一人見ようとしない。君の目は……」

また、間を置く。適切な言葉を探すように。

「……もう、死んでいた」

深月は、言葉を失った。

頭の奥で、何かが炸裂する音がした。静まり返った湖面に、巨大な岩が投げ込まれたかのように、衝撃が広がり、波紋が走る。目の前の男を凝視する。心臓が激しく鼓動を打ち、その一拍ごとに、胸を打ち破らんばかりだった。

ループが始まってから、初めてだった。「覚えている」と、誰かに告げられたのは。

初めてだった。誰かに「見られた」のは。

身体ではなく、行動ではなく、自分が必死に隠してきた、その目に宿るもののすべてを。永遠に、誰にも触れられることはないと思っていた、その奥深くを。

「あ、あなたは……」声が震える。「一体、誰なんですか?」

「冬木湊だ」彼は短く答えた。その名乗りは、まるで自分の背番号を読み上げるかのように、簡潔で、無駄がなかった。「君の上の階の住人だ。イラストレーターをやってる」

「どうして……」

「どうして、君の目の光を覚えているのか?」湊は、かすかに首をかしげた。難問に直面したかのように。「わからない。本当に、わからないんだ。昨日のことも、一昨日のことも、ループの中の出来事は、何一つ覚えていない。でも、あの目の光だけは、覚えている。君を見るたび、どこか深く、深いところから、それが浮かび上がってくるんだ」

彼は深月を見つめ、その琥珀色の瞳に、初めてわずかな揺らぎが生まれた。それは、一言では言い表せないものだった。困惑のようでもあり、もっと深い、郷愁にも似た感情のようでもあり、あるいは、悲しみか、それとも別の何か。ただ、確かにそこにあった。

「だから、わかるんだ」彼は言った。「君が、とてつもなく恐ろしいものを、経験しているんだろうって」

深月は、パーカーの裾を握りしめた。爪が、布地に食い込む。何かを言わなければ。もっと、彼に問いたださなければ。けれど、喉の奥が塞がれたように、言葉が出てこない。

問いたかった。あなたは、何を経験してきたのですか?どうして、あなたの目も、死んだように見えるのですか?どうして、あなただけが、私を見ることができるのですか?

けれど、問えなかった。

湊は、沈黙した。

二人の間に、雪が静かに降り積もる。うっすらと、白い層を重ねて。遠くで烏が一声、鳴いた。そして、再び、静寂が訪れる。コンビニの灯りは、相変わらず瞬きもせず、見つめ続けている。

やがて、彼が手を差し出した。

掌を上に向けて、開かれた手。そこに落ちた雪は、たちまち溶けて細かな水滴となり、掌の線を伝って流れる。痩せて、骨ばった手。指の腹には、かすかなペンだこ。長い間、描き続けてきた者の証だ。手の甲には、細かな傷跡が、うっすらと白い痕になっている。

「だから」彼は言った。声は、相変わらず静かだった。けれど、深月は、その静けさの奥に、かすかな温もりが宿っているのを感じ取った。「今回は、一緒に、見てみないか?」

「何を、ですか?」深月は、我知らず尋ねていた。その声は、か細く、何かを壊してしまわないように、慎重に紡がれたものだった。

「君が、これほど嫌うこの世界に」湊は言った。「留まるに値するものが、あるのかどうかを」

深月は、その手を見つめた。

骨ばって、ペンだこがあり、溶けた雪が掌の線を伝う、その手。これは、確かにそこにある、本物の手だ。生きている、人間の手だ。この、止まり、繰り返され、すべてが無意味なループの世界で、唯一、自分に向かって差し伸べられた手。

彼女は、その手を握らなかった。

けれど、屋上の縁から、一歩、後退した。

湊は、手を下ろした。失望した様子は、微塵も見せなかった。再びポケットに手を入れ、ただ、小さく一つ、頷いた。何かを、確かめるように。

そして、背を向け、屋上の鉄扉へと歩き出す。

「また、明日」彼は言った。

「明日……?」深月は、呆然と呟いた。明日という言葉は、このループの中では、もはや意味を持たない。

「1074回目だ」湊は、振り返らずに言った。背中越しに、その声が届く。「六時零二分、君はベッドで目を覚ます。もし、気が向いたら、三〇二に来てくれ。君の目の光を、覚えているから」

鉄扉を押す。錆びついた蝶番が、鋭くきしむ。そして、扉は、彼の向こう側で、静かに閉まった。

足音が、遠ざかっていく。きしっ、きしっと。次第に、かすかに。やがて、聞こえなくなった。

深月は、そこに立ち尽くしていた。まるで、彫刻のように。

そして、時間が、巻き戻り始めた。

リセットは、何度も経験している。けれど、今回のそれは、これまでとはまったく違っていた。

風景が、急速に逆回転し始める。雪が、地面から空へと舞い戻る。一つ一つ、逆さまに映し出されるフィルムのように。コンビニの灯りは、見えざる手によって店内へと吸い込まれ、白光は次第に弱まり、ついにガラスドアの向こうへと消える。階下の中庭の雪は、層をなして消えていく。厚く、薄く、そして無へ。最後には、むき出しのコンクリートだけが残る。空は、鉛色から純粋な闇へと戻り、紫は消え、星々が再び瞬き始める。

深月の身体は、見えない力に引きずられる。後退し、落下し、何か巨大な意志によって、無理やり引き戻される。その感覚は、高速で走る電車の中で、急ブレーキに全身を放り出されそうになるのに似ている。しかし、それは比べ物にならないほど激しく、抗う術もない。

屋上の鉄扉が、ひとりでに閉まり、ガタンと大きな音を立てた。衝撃で、扉に積もっていた雪が、ざっと崩れ落ちる。

階段の照明が、明滅する。映りの悪いテレビ画面のように。明、暗、明、暗。点滅するたび、彼女は一階層ずつ、落下していく。

六階。五階。四階。

廊下の窓が視界を掠め、外の雪景色は灰色の塊となって、ぼやけていく。

三階。二階。一階。

自分の部屋のドア、二〇一号室が見える。木製のドア。色褪せた数字のプレート。一度も使ったことのない「起こさないでください」の札が、ドアノブに掛かっている。

ドアが、ひとりでに開いた。

部屋の中は、暗い。カーテンはきつく閉められ、わずかな光が、その隙間から差し込むだけだ。自分が、ベッドに横たわっているのが見える。色褪せた掛け布団をかぶり、小さく丸まって。まるで、傷ついた小動物のように。くしゃくしゃに丸められた、一枚の紙きれのように。

そして、すべてが、ゼロに戻る。

目覚まし時計の数字が、六時零二分に変わる。

ピッ、ピッ、ピッ。

深月は、目を開けた。

天井の、あのひび割れを見つめる。左上の隅から、照明の根元まで走る、稲妻のような痕。決して癒えることのない、古い傷跡。1073回、見つめてきた。毎回、まったく同じだ。分岐する角度さえ、変わりはしない。

けれど、今回は、心臓が激しく鼓動を打っている。

ドクン、ドクン、ドクン。一拍ごとに、重く、強く。胸を打ち破らんばかりに。手を当てると、肋骨越しに、その鼓動が掌に伝わってくる。

あの男は……本物だったのか?

それとも、あまりに長いループの末に、ついに幻覚を見るようになったのか?

跳ね起きるように、身体を起こす。布団が腰に滑り落ち、冷たい空気が肌を刺す。彼女は、身震いした――痺れたような震えではない。本当に、寒さを感じていた。部屋は冷え切っている。暖房は、まだ入っていない。吐く息が、白い霧になる。

カーテンは半分だけ閉まり、その隙間から、灰色がかった朝の光が差し込んでいる。

スマホを手に取る。画面には「6:02」。電波は、入っていない。毎回、そうだ。通話記録も、空白だ。不在着信も、メールも、何もない。

画面を見つめながら、頭の中では、さっきの光景が繰り返し再生される。屋上の雪。鉄扉のきしむ音。あの男の背中。差し出された手。そして、言葉。「君の目の光を、覚えているから」

それから、あの目。

琥珀色で、冬の湖のように静かで。けれど、その奥底には、彼女の知らない何かが、潜んでいる。

冬木湊。

三〇二号室。

イラストレーター。

この三つの情報が、何を意味するのか、彼女にはわからない。なぜ彼が、彼女の目の光を覚えているのか、わからない。彼の言う「一緒に見る」が、何を指すのか、わからない。

けれど、一つだけ、わかることがある。

彼女は、行こうと決めた。

ベッドを降り、冷たい畳の上に、裸足で立つ。足の裏から伝わる冷たさに、また一つ、身震いする。自分の足を見る。指先は、血の気を失って白い。爪が、少し伸びている。切らなければ。

彼女は思う。もし今日、三〇二に行くのなら、せめて顔くらい、洗わなければ。

洗面所へ向かい、ドアを開け、明かりをつける。鏡の中の自分。目の下のくまは、描いたように濃い。髪は、乱れて垂れている。唇は、乾いてひび割れている。こんなに長い時間をかけて、自分の顔をまじまじと見つめたのは、いつぶりだろう。

繰り返しの中では、毎日、同じ顔で目覚める。毎日、鏡の中の同じ自分を見る。けれど今日は、初めて、その顔が、どこか他人のように思えた。

蛇口をひねり、冷たい水を両手で受け、顔に浴びせる。冷たさが、意識をわずかに冴え渡らせる。タオルで拭き、指で適当に、髪を整える。

そして、クローゼットから、紺色のパーカーを引っ張り出す。今着ているものより、少し厚手だ。少なくとも、屋上で凍え死ぬことはないだろう。

玄関に立ち、ドアノブに手をかける。深く、息を吸い込んだ。

もしあの男が幻覚で、三〇二号室には誰もおらず、すべてが自分の頭の中の妄想だったとしても――少なくとも、それを確かめることはできる。そして、1074回目の繰り返しを、続ければいい。

もし、あの男が本物だったなら……

それ以上は、考えられなかった。

ドアを開け、廊下に出る。そして、階段の方へ、顔を向けた。

三〇二号室は、三階。

彼女は、あのドアを、ノックしようと、思った。

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