第2話【正しさ】
「それじゃ、解散。春休みにアルバイトしたい奴は申請用紙取りに来いよ~」
高校1年生最後の日。即帰宅する者、部活に行く者、友達と駄弁る者、教師に呼び出されている者。各々が各々の放課後へ移行する中、蒼もまた、アルバイトの申請用紙を取りに、他の生徒に紛れ教卓へと赴く。
「霜夜もバイトするのか」
「ええ、まあ。…両親に迷惑かけたくないので」
「……そうか。課題、今回だけはやっとけよ」
「……余裕があれば」
──家に帰り、勇気を出して近所のスーパーに電話してみる。
「あの…えっと…アルバイト募集…して…ますよね?」
慣れない会話をし、面接の日を明後日に決める。
「…電話でもこんなおどおどして……私、大丈夫なのかしら…」
力無く天井を仰いでため息を着く。
「……でも、やるしかないのよ……」
そして、面接の日。
面接と言っても、かなり簡易的なものだった。
「君が電話くれた霜夜蒼ちゃんだね」
「…はい」
「高校生だっけ」
「はい。……えっと、それで、あの、は、働ける期間なんですけど…」
「ああ、春休みの間だけなんだよね」
「…えっと、はい。休みの間だけです」
「んー。分かったよ。春休みって短いでしょ。…明日からでも行ける?」
「え?あ、はい」
「ちなみに、学校からは何か貰ってる?申請用紙みたいなのとか」
「…あ、はい。これ……」
蒼は学校で貰った用紙を渡す。
「えと……ここにお店の名前と住所…書いて貰えれば大丈夫です」
「はいよ。…それじゃ、蒼ちゃん、明日からよろしく」
「は、はい」
用紙を受け取り、家に帰った。
「……この紙って別にすぐに出す必要ないわよね」
ほんの少し人と対面して話しただけでかなり疲れた。もう家の外には出たくない。そもそもインドアなのでできるだけ外出はしたくない。
「早ければいいんだろうけど………提出は休みが明けてからでいいわね……」
用紙を入れたクリアファイルを通学用の鞄に雑に放り込む。
「……はあ。ベースでも弾こうかしら」
◇◇◇
春休みが開けた。
始業式前。クラスはそのままで、2年生の教室へ入る。
他のクラスメイトは、和気あいあいと話をしているが、私は誰とも話さないまま席に着く。
「………」
バイトに行って、ベースを弾くだけの春休みだった。だいたい想像通りの過ごし方だった。
「みんな席に着け~。今日から2年生だ。数日後には先輩になるからな。自覚持っておけよ。2年のクラス分けは始業式の後に張り出すからな」
教室に入ってきた1年生の時の担任。この人は、教員にしては人の心がある人だった。今年は誰が担任になるやら。まともな人であってほしいが、教師になろうだなんて思う人間がまともなわけが無い。彼が特殊なだけだ。
「…それじゃ、始業式だ。体育館に集合」
みんな立ち上がる。蒼もそれに続いて、体育館へ向かおうとするが、担任に呼び止められた。
「あと、霜夜」
「はい…?」
「バイト、やっぱりやめたのか」
「え?…いえ……やりましたよ。…これ、用紙です」
「…………あ、ああ……」
担任は複雑そうな顔をしながら、蒼から用紙を受け取る。
「………。…あぁ…悪いけど……放課後、職員室に来れるか?」
「え?まあ……。はい」
その後、始業式を終え、クラス分けと担任の発表があった。
「…1組ね……」
2年1組の教室へ行く。
担任は物分りの悪そうな顔をした中年の男性だった。人の名前と顔を一致させるのが苦手な私は、彼の自己紹介を3秒で忘れ、なにか不穏な空気を感じながら学校での時間を過ごした。
放課後になり、1年の頃の担任に言われたように職員室を訪れる。
「えっと……2年1組の霜夜です…」
「ああ、来たか」
私を待っていたのは、今年の担任と、生徒指導の教師。
「……私……何か……しま…し…た…か……?」
「無断アルバイト。校則違反だ」
「……は…?」
突然の事で混乱する。
「……いえ……ちゃんと用紙…出しましたよね…?」
「今朝にな」
「………出してるじゃないですか」
「アルバイトをやるより先に提出する決まりだぞ」
「……いや、でも…」
「言い訳は知らん。無断アルバイトは反省文、原稿用紙5枚」
「あ……っ」
何も言えないまま、原稿用紙を胸に押し付けられる。
「………ッ……“無断”じゃないです!!ちゃんと担任に言いました!!!アルバイトするって!!!ちゃんと断ってます!!!」
「屁理屈は知らん。反省文を書け。タイトルは『無断アルバイトと私』だ」
「ッ………“無断”じゃありません…!!」
「屁理屈は知らんと言っている」
「………無断の意味も分からないの?」
「なんだその態度は」
「……………態度に名前とかあるんですか」
「………」
「……それと霜夜。俺からもだ。春休みの課題、何一つ出てないよな」
「………それがどうかしましたか」
「出せ。絶対だ」
「……テストの点は足りてます」
「それは関係無いことだ。出せ」
「………」
「出せよ」
「………」
「出せって言ってんだよ。分かるか?」
「ッ………えぇ……分かりました…!!!」
分からない。
分からない。
分からない。
理不尽だ。
ふざけている。
原稿用紙を握り潰しながら階段を降り、靴を履き替えて校舎を出る。
「………無断じゃない。出す意味が無い。私は何も悪くない」
私は正直に言ったんだ。
じゃあ何だ。アルバイトはしませんでしたと言えばよかったのか。しませんでしたと嘘をついて、それでお咎めなしのハッピーエンドにすれば良かったのか。
家に帰ると、鞄を床に叩きつけて部屋に行き、ベースを手に取る。
「私は悪くない……!!!」




