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ブルームーン  作者: 葡萄
7/17

7話 オールド・パル

夏の暑さと共に、救いのある涼しい風が吹く夜。

(かおり)絢香(あやか)は、いつものバーで酒を片手に談笑していた。

絢香が一口飲んだとき、薫はふと考えた。

(たまには、別の場所で飲みたいな・・・)

このバーは、二人にとってのいつもだ。

薄暗い照明、レコードから流れる古いジャズ。

その静けさに包まれて飲む時間は、少しだけ特別だった。

憧れていた“大人の世界”に、自分もいる──────そう思える場所。

けれど、同じ場所には少しずつ飽きがくる。

たまには違う空気の中で、絢香と話したい。

(でも・・・どこがいいんだろう)


居酒屋は嫌だ。

うるさいし、何より、絢香さんを他人に見せたくない。

カフェも悪くはないけれど、絢香さんはお酒が好きだ。

コーヒーではなく、絢香さんの一番好きなものを飲んでほしい。

他のバーなら?

結局どこも似たようなものだ。

行く理由にはならない。


薫がそんなことを考えながらグラスを揺らしていると、絢香が顔を上げた。

「ねぇ、薫ちゃん」

「えっ、は、はい。なんでしょう?」

絢香は、氷だけになったグラスをテーブルに置き、静かに氷を見つめた。

「たまには、別のところで飲まない?」

「え・・・?」

驚きで、思わず息が詰まる。

それはまさに、薫がさっきまで考えていたことだった。

まさか絢香まで同じことを思っていたなんて。

絢香は薫の反応に気づかないまま、言葉を続けた。

「最初は居酒屋とかカフェとか考えたんだけど、なんか違う気がしてね」

(それも・・・私と同じだ)

「そ、そうなんですね」

嬉しさが頬ににじむ。

けれど、浮かびそうになる笑みを、薫はなんとか抑えた。

「それでさ、一つ提案なんだけど」

絢香は氷の溶けかけたグラスから目を上げ、まっすぐに薫を見つめた。

「薫ちゃんの家に、行ってもいいかな?」

「・・・え?」

意表を突かれ、拍子抜けした声が出る。

「ダメ?」

「えっ、いえ、大丈夫です」

その言葉に、絢香は微笑んだ。

「ありがとう。じゃあ、都合のいい日が決まったら教えてね」

「はい、わかりました」

こうして、薫は宅飲みを承諾した。


家に帰った薫は、ベランダに出てタバコを吹かしていた。

夜風が頬をなで、煙がゆっくりと空に溶けていく。

(絢香さんが・・・うちに来てくれる)

その現実を思うだけで、口元が緩んだ。

「早く決めないとな・・・」

小さく呟いて、スマホを手に取る。

日付を眺めながら、宅飲みができそうな日をいくつか打ち込み、絢香に送ろうとした時──────ふと、胸の奥で思いがよぎった。

(・・・せっかくなら、泊まってほしいな)

自分でも驚くような願いだった。

けれど、そのまま指は止まらず、泊まりの提案を添えて送信していた。

数秒の沈黙。

画面が光り、メッセージが届く。

──────いいよ

その短い返事を見た瞬間、薫の胸に熱が広がった。

吐き出した煙が、わずかに甘く感じる。

そして、約束の日がやってきた。

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