4話 エル・ディアブロ
ある日の昼下がり。
大学の講義が終わり、薫は筆記用具を鞄にしまおうとしていた。
そのとき、隣に座っていた友人───直美が声をかけてきた。
「ねぇ薫、来週の土曜日の夜、空いてる?」
「来週の土曜日?」
薫は手を止めて、小さく首をかしげる。
「うん。実はその日、合コンがあるんだけど、メンバーが一人足りなくてさ。薫って、今彼氏いないでしょ? この機会に彼氏ってじゃなくても、男友達くらい作ってみない?」
直美の明るい口調に、薫は一瞬言葉を失った。
なぜか、そのときふと──────絢香の顔が脳裏に浮かんだ。
(・・・なんで、あの人の顔が?)
戸惑いながらも、薫は少し間を置いて答える。
「・・・ちょっと考えさせて」
「うん、いいよ。でもなるべく早く返事ちょうだいね。あとでお店とか人数はメールで送るから」
直美はそれだけ言うと、笑顔で手を振りながら教室をあとにした。
薫はしばらくその場に立ち尽くしていた。
なぜ絢香が思い浮かんだのか、自分でも理由がわからない。
ふと、教室の壁にかけられた時計に目をやる。
(・・・もうバイトの時間だ)
我に返った薫は、机の上の私物を手早く片付け、教室を後にした。
数日後の夜。
薫と絢香はいつもの店で、酒を飲みながら話していた。
程よく酔いが回ると、薫は合コンの事を絢香に話した。
「そういえば、絢香さん。私、今週の土曜に合コンがあって・・・」
言い終えるか終えないかのうちに、絢香はあっさりと返してきた。
「いいじゃない。行ってきなよ」
あまりに自然にそう言われて、薫は内心少し驚いた。
「はい、行ってきます」
絢香は少し寂しげな声色を含みながら言うが、薫は気づいたのか気づかなかったのか、注文した酒を口に入れた。
すると、絢香は視線を前に向けたままぽつりと言った。
「男には、気をつけなよ」
「え?わ、分かりました・・・?」
意味が分からないまま、反射的に頷いた。
「で、どこでやるの?」
「えっと・・・」
薫が説明を始めると、絢香は興味なさそうな顔をしながらも、細かいところまで根掘り葉掘り聞いてきた。
(気になるのかな?)
そんな疑問がふと薫の胸に浮かぶ。
話しているうちに、少しだけ緊張がほぐれた。
──そして、合コンの夜がやってきた。
「薫、来てくれてありがとう!」
予約した店の前で、直美が手を振りながら声をかけてきた。
普段、大学で見せるカジュアルな格好とは違い、今日はちょっと大人っぽいおしゃれな服を着ている。
メイクも、いつもより気合が入っているようだった。
「うん、来たよ」
薫は変わらず、いつもの落ち着いた服装で応じると、小さく手を振った。
すると直美は、薫の手に軽くタッチするように触れて、にこっと笑った。
その仕草に、薫も自然と微笑んでしまう。
「他のみんなは?」
「もう中にいるよ。みんな意外と早く来ててさ」
「そうなんだ」
薫は腕時計にちらりと目をやる。
集合時間の五分前───思ったより早い到着に、内心少し驚いた。
(みんな気合入ってるな)
そんなことを思っていると、直美が笑いながら促してきた。
「早く入ろ薫」
「うん」
そうして二人は、にぎやかな店内へと足を踏み入れた。
直美に案内されながら、薫は店の奥へと進んだ。
案内されたテーブル席には、すでに六人が座っていた。
男性が四人、女性が二人───薫を入れてちょうど男女四人ずつになる。
その中の一人、明るい金髪の男性が直美たちに気づいて、軽く手を挙げた。
「直美ちゃん、やっと来たね」
「はい。これで全員そろいました」
直美はにっこり笑いながらそう答え、指定された席に腰を下ろす。
薫もその隣に座った。
二人が席についたのを見て、今度は落ち着いた雰囲気の黒髪の男性が口を開いた。
「じゃあ、全員そろったってことで・・・まずは軽く自己紹介しようか」
場が自然と静まり、順番に自己紹介が始まる。
一人ずつ名前や大学、趣味などを話していき、薫も順番が回ってくると、少し緊張しながらも簡単に自己紹介を済ませた。
(そういえば・・・私こういうの初めてだな・・・)
そんなことを思いながら、薫はグラスを持ちながら、初対面の人達を見ていた。




