2話 キール
数分間、彼女は泣き続けていた。
やがて涙も尽きたのか、呼吸が静まると共にようやく顔を上げた。
「・・・すみません。みっともないところを、見せてしまって・・・」
頬が羞恥で赤らんでいくのが分かった。
彼女の向かいに座る白髪の女性は、穏やかな顔で首を横に振る。
「気にしなくていいよ。溜め込むのも大事だけど、吐きたいときは吐けばいい。少しは楽になるから」
「・・・はい」
グラスを手に取ると、白髪の女性は残った酒をゆっくりと口に運び、静かに飲み干した。
「それじゃあ私はこれで・・・」
白髪の女性は立ち上がり、マスターの方に向かった。
「あ・・・」
黒髪の女性はそっと手を差し出しかけたが、迷惑になるかもしれないと躊躇し、そっと手を引っ込めかけた。
白髪の女性の顔を見ると、じっとこちらを見ているのに気づき、思わず顔を背けた。
恥ずかしさが頬を熱くする。
「どうしたの?」
「え、えっと・・・」
(言うんだ。ここで言わないと一生言えなくなる)
そう思い、黒髪の女性は席から立ち、白髪の女性に向けて告げた。
「きょ、今日はありがとう・・・ございます。私の話を聞いてくれて・・・」
白髪の女性の顔を見ることができず、目を逸らした。
「そ、それで・・・あの・・・」
必死に言葉を紡ごうとした時、白髪の女性は口を開いた。
「君、名前は?」
真っ直ぐと彼女の目を見つめてくる白髪の女性の目を見て、自身の名前を言った。
「さ、三色、薫です」
名前を言うと、白髪の女性は微笑を浮かばせた。
「私は松虫絢香。また明日、同じ時間に会おうね、薫ちゃん」
白髪の女性───絢香はそう言い、バーを後にした。
薫はバーから出て自宅に帰り、自室のベッドに寝転がった。
薫は今日初めて出会った女性、絢香のことを思い出していた。
(お父さん以外に撫でられちゃった・・・)
自身の頭を手で抑えると、薫は幸せそうに微笑を浮かばせた。
「早く明日にならないかな・・・」
薫はベッドの上で呟きながら、眠りについた。




