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ブルームーン  作者: 葡萄
11/17

11話 カフェ・ド・パリ

(かおり)絢香(あやか)は、いつものバーで話し合っていた。

酒を飲み、タバコを吹かしながら話していた。

いつもと変わらない光景。

だがしかし、今日は違う。

何故なら、今日は薫がいつもよりも落ち着きがなかった。

何回も目を逸らしており、絢香は不思議に思った。

絢香は気になり、薫に聞いてみた。

「ねぇ、薫ちゃん。何か、私の顔についてる?」

「え?あ、えっと・・・」

自然に装いながら問いかける。

絢香は薫が言うまで静かに待っていた。

(言うんだ・・・誘うんだ・・・)

薫は緊張しながらも、自分に言い聞かせるように、息を整える。

「あ・・・絢香さん」

その声に、絢香が煙草を灰皿に置き、ゆっくりと薫の方へ顔を向けた。

「ん?」

「え、えっと・・・その・・・」

口を開いたものの、言葉が詰まった。

絢香は、何も言わず薫を見つめていた。

グラスにもタバコにも手を伸ばさず、ただ静かに、穏やかに。

その視線が、優しさとも圧ともつかない緊張感を運ぶ。

薫は目を伏せ、一度だけ深呼吸をして、ようやく口を開いた。

「こ、今週の土曜日・・・一緒に・・・お買い物、しませんか・・・?」

途切れ途切れの言葉がやっとのことで彼女に届く。

言い終えた瞬間、耳まで真っ赤になっているのが自分でも分かった。

(やっと言えた・・・でも、断られたら・・・)

その不安が心を覆い、目の奥がじわりと熱くなりかけた───そのとき。

「いいよ」

やわらかな笑みを浮かべて、絢香が応じた。

一瞬、時間が止まったような錯覚。

薫は、胸の奥から安堵がこぼれていくのを感じた。

「ありがとうございます、絢香さん」

心からの笑顔を浮かべて、薫はもう一度絢香を見た。

その後はふたり、土曜日の予定について語り合った。


約束の土曜日。

薫は、約束の時間より早く、待ち合わせ場所に立っていた。

いつもバーで着ている黒のシャツとタイトスカートではなかった。

今日は白いトップスにベージュのジャケットを羽織り、グリーンのハイウエストパンツ。

それに、細めのストラップヒールサンダルを合わせていた。

(似合ってるかな?)

ここに来るまで、何度も首をかしげたコーディネート。

それでも今日は、彼女の横に似合う女性として、彼女に見て欲しい。

不安混じりの気持ちを押し隠すようにスマホを手にしたそのとき、不意に背後から声がした。

「来るの早いね」

振り向くと、そこには彼女がいた。

柔らかな笑みを浮かべる女性、絢香がいた。

「いえ、私もついさっき来たばかりです」

「そうなの?」

「はい」

薫が頷くと、絢香は薫をじっと見つめた。

その視線に、薫は照れくさそうに頬をかいた。

「あ、絢香さん・・・えっと、その・・・どうかしましたか?」

「ん? あ、いや・・・」

絢香は少し目を丸くして、そしてふっと笑った。

「いつもと雰囲気が違うから、ちょっと驚いただけ。すごく大人っぽくて、素敵だなって思ったんだ」

その一言に、薫の胸がふわりと熱くなる。

ちゃんと見てくれた。

考えに考えた今日のコーディネートを、憧れの人に褒めてくれた。

「・・・ありがとうございます」

小さな声でそう返しながら、薫はうつむいて笑った。

顔が熱いのをごまかすように。

「それじゃあ、行こっか」

「はい」

そうして、二人は街中を歩いた。


「確か最初は、服を買うんだったよね?」

絢香が思い出すように言うと、薫は軽く頷いた。

「はい。私のよく行くお店です」

「でも、どうして服を買おうと思ったの? 」

「そ、それは・・・」

薫は少し戸惑った様子で目をそらし、そっと絢香の服に視線を落とした。

「絢香さんって、いつも黒と白の服ばかりじゃないですか・・・」

初めて出会ったときから、彼女の服装は一貫して白黒だった。

悪くはない。

でも、別の色も見てみたいと思ったのだ。

「うん、そうだね。言われてみれば、ずっとそうだ」

「なので今日、服をプレゼントしたいなって思って・・・勝手に決めてしまってごめんなさい」

「・・・買ってくれるの?」

「はい。私が誘いましたから」

その言葉に、絢香は少し驚いたように目を瞬き、それからふっと微笑んだ。

「そうか。じゃあ、楽しみにしてるよ」

薫の口元が自然とほころぶ。

「はい! 任せてください!」

頼りにされている───その実感が嬉しくて、気のせいか足取りまで軽くなった気がした。


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