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第四話「守るための剣」

第4話ー守るための剣ー


騎士団本部からの帰路、夕暮れ迫る

王都の石畳を一人りりーは歩いていた。


空は既に藍色に染まり始め、

通りを照らす灯りがぽつぽつと灯し始める。

石畳を踏みしめるたび、

革靴が小さな音を立てた。

その音がやけに大きく感じられるほど、

彼女の心は騒がしかった。



(こんなの、、ただの“虐殺”じゃない、)



アデルド指揮長の言葉が、

まだ耳に残っている。

「清掃」という言葉に笑みを添えた男の声。

同じ存在として見てない。

塵かゴミのように扱ったその態度が、

どうしても許せなかった。



(止める。絶対に誰も死なせない)



風が吹いた。冷たくて、どこか乾いている。

まるで、この国の空気そのものだ。

リリーは深く息を吸った。肺の奥まで満たす

その冷たさに、気を引き締める。


「今、私に出来ることを、」


ーー


夜明け前、まだ星が瞬く時間。

リリーは一人、装備を整え馬にまたがった。


騎士団が本格的に動き出すのは早くても早朝。少しでも先んじて村の場所を

突き止めなければならない。

情報が少ない中、過去の地図と地形、

わずかな噂を頼りに森の奥を探る。


木々が密集し、鳥の鳴き声すら響かない―

まるで世界が息を潜めているかのような森の中。そして、ひっそりと佇む

小さな集落が彼女の前に現れた。



(……あった)



リリーは近くまでより馬を降り、

ゆっくりと一歩ずつ村へと歩み寄った。


その瞬間ーー



「侵入者だ!」「人間の騎士だッ!」



村の魔族たちが一斉に武器を取り、

彼女を取り囲んだ。



(当然よね……いきなり人間が来て、

 警戒しないわけがない。)



人間よりも大柄で、威圧力も違う。

武器を握りしめる手を見れば、

私の頭なんて余裕で砕かれそうだ。

でも、ここで怯んでる場合じゃない。



「私は敵ではありません。私は、話を――」



しかし、彼女の言葉に耳を貸す者などいない。怒号が飛び交い、誰かが矢を番える音がした。その時――



「やめて!!」



ひときわ若い声が森に響く。

小さな獣人の少年が、

慌てた様子でリリーの前に飛び出し

庇うように両手を広げた。



「この人、悪い人じゃない!」


「何を言ってる!アル!」


「この人は……僕を助けてくれたんだ!!」



リリーを庇ったのは、以前、

森で騎士団に囲まれ捕まる寸前だった

魔族の少年だった。



「嘘を言うんじゃない!」

「人間が魔族を助けるなんて……!」



疑いと憎しみに満ちた声。

それでも、アルの瞳は揺るがなかった。



「本当だよ!! この人は、他の人間とは違う!」



魔族の誰もが戸惑い、沈黙する。

リリーはすかさず頭を下げた。



「信じてくれとは言いません。

 ただ……すぐにこの村を離れてください。

 ここに、王国の騎士団が来ます。

 あなたたちがここにいたら――殺される」



村に沈黙が落ちた。

魔族の長老が低い声で訊ねる。



「なぜ、そこまでして我らを守ろうとする」


「……私はただ、」


「……」



長老のまなざしにはまだ疑いが残っている。

リリーの手に汗が滲む。



「お前ら、女子供を先に避難させろ」



突然、後ろから声が聞こえ、振り返った

その先には、一人の青年が立っていた。



「レオン!お前、まじか?」


「責任は俺が取る」



鋭い金の瞳。黒に近い茶髪を風になびかせ、

獣の耳と尾を持つ男。

その背には巨大な剣。まさに、戦士の風格。



「ありがとう、信じてくれて」



レオンが命じると、

魔族たちはすぐに動き出した。

女子供を中心に、村からの避難が始まる。

リリーもそれを手伝いながら、ほっと安堵の息をつこうとした――その時。



「……っ、早すぎる」



森の奥から、地響きのような音が迫ってくる。

それは、馬の蹄。装甲の軋む音。

兵たちの掛け声。王国の騎士団が、

すでにすぐ近くまで来ていた。



(間に合わない……!)



リリーは息を呑み、顔を上げた。

そして迷うことなく踵を返し、

音のする方向へと走り出す。



「おい、どこへ行く!」



レオンの声が背後で聞こえ、足を止める。



「少しでも引きつけて、逃げる時間を稼ぐ」


「は!?それをすれば、お前は……!」


「裏切り者として処刑されるかもしれない?

 わかってるわよ、それくらい」



リリーの瞳は、恐怖に揺れながらも、

決して濁っていなかった。



「でも、それでも、

 命を見捨てるよりはマシだもの」



その覚悟の決まったリリーの背中に、

レオンは何も言えなかった。

次の瞬間、無言でリリーの前に立ちはだかり、

レオンは背負っていた巨大な剣を抜いた。



「……え?」


「貴族の娘が、森にいたなんて不自然すぎる。

 堂々と騎士団の前に立てば、

 お前は“敵”になるしかない」


「レオン……?」


「だったらお前を“戦って倒す敵”にしてやる」



目を見開くリリーに、レオンは静かに言う。



「剣を抜け、リリー」



その声は低く、真剣だった。

リリーは迷いながらも、剣に手を伸ばす。


次の瞬間、

木々を割って王国の騎士たちが現れた。



「そこにいるのは誰だ!?」


「魔族の戦士レオン! ……ってリリー様!?」



騎士たちが驚愕の声を上げるその前で――



「うあああああああッ!!」



レオンの剣が振るわれ、火花が散る。

リリーもまた、

それを受け止めるように刃を交える。



(これは戦いじゃない。時間を稼ぐだけ……)



それでも彼女の剣にはまだ迷いがあった。

演技といっても中途半端な攻撃はできない。

まさに殺す気でやらなければならない。

でも、彼女は傷つけたくない。

そんな葛藤の狭間で揺れているリリーに、

レオンの瞳が一瞬、優しく揺れるのを感じた。



「ここから先は絶対に通させない」



レオンが騎士団に聞こえるようにそう呟いた。

声はとても鋭いもの、しかしリリーにはどこか覚悟を決めたようなものに聞こえた。



(彼の覚悟を無駄にするわけにはいかない。

 なら、私もー)



剣を力強く握り、重い攻撃をする。



「ならば、貴様をここで倒す!」



レオンの背後では、

魔族たちが森へと逃げていく。

女子供の姿が見えなくなり始める――

もう少し、もう少しだけ。



「あぁ、出来るもんならやってみろ!」



二人の凄まじい戦いの前に、騎士団達は

見守るしか出来なかった。


私達はただ剣を振るい続ける。

まるで本当に、敵同士であるかのように――


だが――その剣の奥にあるものは、

誰にも気づかれてはならない、“信頼”だった。

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