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17 破れた殻

 護送車の扉が開いて、宮佐さんとあの侵入者(アグレッサー)がステップを降りてきた。


 多分だけど、護送車ごと吹っ飛ばされるよりは――という判断と、「こっちはそちらの仲間を押さえているぞ」という誇示のためだっただろう。


 与座さんがその二人に歩み寄り、捕虜の侵入者(アグレッサー)を背中で隠すような位置に立つ。



 透真が、「俺も降りた方がいいの?」とこっそり囁き、動画を回したままのユリが、「駄目、合図まで待って」と呟くように応じる。


 動画を回しているのは、考えるまでもなく、のちのちの考証資料を確保しておくためだろう。



 侵入者(アグレッサー)三人の後ろで、罅割れていた空気が元に戻った。


 先頭の男が首を傾げている。

 曖昧な瞳で宮佐さんと与座さんを見ている。


 その瞳には、予期していたような警戒も、敵意も、あるいは捕らえられた味方に対する苛立ちも、何も浮かんでいなかった。



 ただただ、平坦。

 平坦で、少しだけ戸惑ったかのような、その色合い。



「――白井くんが、どうも」


 先頭の男が言った。

 探るような声。


 まるで、高校の入学式でいきなり見知らぬ同級生に声を掛けられて名前を呼ばれ、あれこいつって中学一緒だったっけ、小学校一緒だったっけ、と考えながら返答するかのような、――そういう、探るような当惑。

 それが籠もった声音。


「連絡が途絶えて三十六時間、こちらも心配していたところです。

 ――ただ、これはどういうことでしょうね、親切心で白井くんを連れて来てくれたんでしょうか。――ただそれにしては、そのナンセンスな護送車はいただけない」


 宮佐さんは表情ひとつ変えていなかったが、与座さんの表情は微かに動いていた。

 ――それこそ、戸惑いを浮かべている。


 侵入者(アグレッサー)三人は、いよいよ表情の当惑を深めている。


「それとも、白井くんから話を聞いて、真偽を確かめにここまで来た――ということでしょうか?

 だとすればこちらとしても有難いといいますか、()()が増えるのは興味深いことですが」


「――――」


 与座さんも宮佐さんも黙り込んでいる。



 ――侵入者(アグレッサー)の言葉も振る舞いも、予想と何もかも違うのだ。


 懸け離れているといっていいほどに。



 俺たちがいるワンボックスワゴンの車内システム、その通信の向こう側で、三条さんたちが小声で何かをやり取りする声。


 内容までは聞き取れないが、怪訝そうな響きはわかる。



 ――テロリストが、仲間を迎えにやって来た。

 仲間は護送車の前に立たされている。


 ――そんな状況であれば……普通、即座に攻撃的な雰囲気になるものではないのか?

 交渉に入る、あるいは銃撃戦に入る、――そういった。


 ――それなのに、なんだろう、この男の、友好的とはいえないまでも、事務的で淡々として、何らの脅威も感じていない、何の予定外もないと言わんばかりの――この態度は。



「……テロの……」


 ユリが呟く。

 俺が覚えたのと同じ違和感に。


「……テロの自覚がないのかな……?」


『そんな馬鹿な』


 下代さんが通信の向こうで声を大きくする。


 その後ろで、幾重にも囁き声が拡がっているのが聞こえる。



 三人の侵入者(アグレッサー)のうち、先頭の男の視線が、ぐるり、とのその場を見渡して、最後にちょっと首を傾げて、与座さん越しに捕らわれの侵入者(アグレッサー)を覗き込むような姿勢を取った。


「――白井くん、お父さまの手前もありますし、あまり指摘はしたくないのですが、――本当に失敗しましたね。当初の観察対象の、藤生透真と呼ばれている子はいませんね」


「――ふっ」


 そのとき、捕らわれの侵入者(アグレッサー)が、不意に噴き出すように笑った。

 噴き出し、肩を震わせ、やがてげらげらと笑い転げ始める。


「――――」


 宮佐さんも与座さんも、さすがに奇妙なものは感じたらしい。


 事態が全く予想外の方向へ転がろうとしているのを察して、宮佐さんが捕らわれの侵入者(アグレッサー)――白井、と呼ばれていたか――を、後ろに引っ張って後退る。


 が、白井はそれに対して踏ん張った。

 彼が怒鳴る。


 猛然と。


「――そうやってスカした態度で馬鹿にしてんじゃねえぞ、石黒! 藤生はそこのワゴンにいるし!」



 俺は透真の腕を掴んだ。

 透真は瞬きもせず、侵入者(アグレッサー)たちを見つめている。



「ああ、そうですか」


 と、先頭の男。

 こちらの気が抜けるほどに、身構えたところも気が立ったところもない。


 これコピーしといて。はい。

 授業のレジュメのデータを送るね。はい。


 そんな感じの、事務的な、淡々とした態度。


「では白井くん、話したんですか?」


 また、白井と呼ばれた侵入者(アグレッサー)は笑い始めた。



 透真が俺の腕を握り返す。


「――なんだか嫌な感じがする」


 彼が呟いた。

 不安そうに瞳が揺れている。



 爆笑した白井が、「いいやぁ?」と、気分が悪くなるような嗜虐性を覗かせて言った。


「いやマジ、石黒、俺の演技はアカデミー賞ものだって認めるべき。

 マジでさあ、カマかけてから適当な嘘言ったら、まぁじでそれを真に受けてやんの」



 演技? 嘘?



 宮佐さんが、さっと白井から手を離すのが見えた。


 ――後から聞いたが、このとき宮佐さんは、「もういいや」と思ったそう。


 演技と言ったからには、こいつの一連の話は虚偽。

 もちろん白井から更なる情報を得られる見込みもあるが、白井を含めて相手は四人。


 切り札としてユリの能力もあるが、これは今使ってしまえば、あと十三時間近く使えなくなる切り札だ。

 欲を出すよりも、全員が無事なうちにここを離脱した方がいい、と判断したらしい。



 俺はそこまでは考えられていなかったが、「演技」という一言に反応したのは全く同じだった。


「――演技」


 呟く。

 囁く。


 熱狂的に。


「演技。演技だって。――透真、おまえ、透真なんだよ」


 腕を握って熱烈に囁いたのに、透真の反応は冴えなかった。


 ぽかんとしていて、茫然としていて、むしろショックを受けたような――


「――演技……?」


 同時に、ユリも小さく呟いている。

 こちらは懐疑的に。


 俺も、その声を聞いてはっとした。



 ――透真は、透真本人。藤生透真であって、それ以外の誰かではない。


 ――では、なんだ?


 ――透真を追い詰めた、記憶を投げ出したいと、世界(Bureau of)安全( Global)保障局( Security)の英雄が世界を見捨てたいと望むほどのこととは、「世界がひっくり返るようなこと」とは、なんだったんだ?



「演技?」


 と、石黒と呼ばれた、三人の侵入者(アグレッサー)の先頭に立つ男が首を傾げる。


「じゃあ、白井くんあなた、特に話していないんですか?」


 尋ねながら、石黒が斜め後ろの二十代の男性に向かって合図する。


 男性が、はい、と折り目正しく答えてから、こっちへ――俺たちがいるワゴンの方へ歩き出す。



 ユリがさっと窓を閉め、侵入者(アグレッサー)が歩いてくるのと反対側の後部座席のドアを開けた。



 与座さんが宮佐さんから離れて、足早にワゴンに先回りしようとする。



「今から話すとこ」


 白井が大声でそう言って、「その方がいいデータになるんじゃねえの?」と、にやにや笑いながら石黒を見ている。



 こちらに歩いていた二十代の侵入者(アグレッサー)が足を止め、石黒を振り返った。


「石黒さん?」



 俺はいよいよ、凄まじいばかりの違和感を覚えている。


 ――なんだ、この……一貫して事務的な、淡々とした雰囲気は。



「ああ……」


 石黒が顎を撫でて、微かに口角を上げる。


 小さな微笑み。

 満足げな。



「確かにそうですね。

 ――では、()()()()()()()()()()





「――――!!」


 そのとき、全く唐突に、透真が電撃に打たれたように震えた。



「……透真?」


 呼び掛ける。



 透真は聞いていない。


 目を見開き、窓越しに石黒と呼ばれた侵入者(アグレッサー)を見据え、恐怖に駆られた様子で唇を震わせている。



「駄目だ……」


 透真が囁いた。



「透真?」


「駄目だ、あいつ……」


 小さな透真の震え声に、ユリがぎょっとしたように声を大きくして、尋ねた。


「待って、トーマくん――()()()()()()?」


 俺も目を見開いた。



 車内システムが繋ぐ通信の向こうで、誰かが息を呑む。


『藤生くん? 藤生くん? わかるんですか? 藤生くん?』


 通信の向こうで、誰かが歓声を上げるのが聞こえる。


 喝采。

 もう大丈夫だ、という、確信の籠もった声。

 口笛の音すら。



 まるで映画。

 ロケット射出後に通信が途絶え、管制官が呼びかける――こちらヒューストン、応答せよ。

 応答がなく、管制室が絶望に染まったそのときに、雑音混じりの応答が返ってきた――まさにそんな感じの。



 ドラマチックであるはずのその瞬間、だけど――



 ――どうして、主人公であるはずの、ヒーローであるはずの透真の顔が、こうまで恐怖に蒼褪めて透き通っているのだ。



「駄目だ、駄目だ……」


 透真がユリを振り返る。

 そして呼び掛ける。


 知己に向かうように自然に。


「――ヒメユリ、あいつを黙らせて」


 ユリは了解を示すよりも先に、当惑と混乱、何よりも驚きで表情が漂白されている。


「……え?」


「ヒメユリ!!」





「フィギュアのみなさん」


 石黒の声は落ち着いている。



「あれこれと驚かせていることでしょう――あなた方から見れば、我々は……なんでしょうね? 異星人の襲撃でしょうか?

 最近はあなた方の方でも、我々の排斥運動が進んでいるという観測結果はあって、我々もそれを興味深く見ているところではあるのですが」



 宮佐さんが眉を寄せる。



 ――侵入者(アグレッサー)が、何を狙って各国でテロ活動を行っているのか。その動機がわかれば御の字。


 その認識があるから、遮らない。動かない。



 与座さんも、ワゴンへ歩みを進めようとしていた二十代の侵入者(アグレッサー)が、頓着のない様子で踵を返し、石黒のそばに戻るのを見て、判断をつかねた様子でその場に立ち止まっている。



「先月ですね。我々は一つの試みとして、()()()()()()()()を話しました。そこにいるんでしょうか――そちらで重宝されているらしい、というのも我々のデータにも最もよく登場するからですが、――藤生透真くんに」



『藤生くんのすり替えはなかったんだ』


 下代さんの声。

 通信越しの、興奮に上擦った声。


『むしろ連中の――』



「そしてその結果として、藤生透真くんの行動にどのような変化が生じるのかを観察したかった。――けれども、目論見が外れて、藤生くんはめっきり我々の前に出て来なくなってしまった。

 業を煮やして、という言い方は嫌いなのですが、まあ彼をこちらに連れて来ようとしても、――見ての通り」


 石黒が、驚いたことに愛想笑いを浮かべた。

 まるで普通の世間話の途中のように。


「出来る出来ると大口を叩いた、我らが白井くんはドジを踏んでしまった。

 ――無論、彼の経験不足を甘くみた、我々にも責任はありますが」


「くそったれ」


 白井が怒声を上げる。


「ちげぇよ、藤生とかいうやつ――あまりのショックで記憶をぶっ飛ばしたんだよ」


「それはそれで興味深い結果の一つです」





 ――世界がひっくり返るようなこと。


 ――特務機関の英雄が、全て忘れて目を閉じることを選ぶほどの。





「ヒメユリ!!」


 透真が声を荒らげている。


 ユリは瞬きを繰り返して、ぽかんとしている。

 咄嗟のことに頭が追いついていないようだ――俺にはわかった、通常よりも大きな混乱の中にユリはいるのだ。


 何か衝撃的なことがあれば、透真は記憶を取り戻すかもしれない――そうは言っていたものの、実際に記憶を取り戻した透真を見るのは衝撃だろう。


 加えて、


「トーマくん、どうして、」


 ユリが言葉に詰まる。



 ――どうして、何があって、あなたは記憶を切り捨てたの?



 そう訊きたいのだとわかった。


 透真はユリを見て、苛立ちの声を上げた。

 こうまで荒々しい透真の声を、俺は聞いたことがなかった。


 透真がワゴンのスライドドアに手を掛ける。


 そのとき俺は気づいた、透真の手が震えている。



 ――だが、透真はドアを開け放った。



 与座さんがこちらを振り返る。


 その顔に、「中にいろって言っただろ!」と言わんばかりの苛立ちが覗く。



 宮佐さんの注意も、間違いなくこちらに傾いた。

 何しろこちらにはユリが――宮佐さんの娘がいる。



 透真がワゴンから下りて、石黒と呼ばれた侵入者(アグレッサー)が透真を見る。


 透真が何かを言おうとして――言葉に詰まった。その喉仏が震えるように上下するのが見えた。


 石黒が軽く目を見開き、それから微笑む。


「――藤生透真くん……ですね?」


「……だまって」


 透真が言う。

 

 絞り出すように。

 声が囁くような小ささに圧縮されている。


「だまって、帰って」


 その声はたぶん、石黒にまでは届いていない。



 白井がだらだらと文句を垂れている。

 その大声。


 遠くに聞こえる車通りの音を抉るような、攻撃的な声。


「――だぁから居るって言っただろ! 俺はそんなにミスったわけじゃねえの!

 それなのになんだよ、普通俺がいなくなったら三十六時間も待たねえだろ。それをわざわざ規定通りにしやがってさあ、嫌がらせかよ!

 それに編集権限も取り上げてさあ。なあ、ちょっと、そろそろいいだろ、手錠外してよ」


「手錠は少し待ってください。

 ――編集権限を取り上げられた? それは妙ですね」


 石黒が言って、ワゴンの中で茫然としている俺とユリに目を向けた。


 白井が、えっと声を上げている。


「編集権限、そっちから取り上げたんじゃねーの?」


「それが出来るのは天羽(あもう)くんだけです。そしてそんな話は聞いていない。

 ――フィギュアの側に、それを可能にする技術を織り込んだはずがない――」


 そこまで行って、石黒が、また二十代の侵入者(アグレッサー)を一瞥した。


 彼がこくんと頷いて、ベルトから下げたヘルメットを持ち上げ、被り――



 その、黒いフェイスガードがこちらを向いた。


 視線を感じた。

 明確に。



「――ヒメユリ、車を出せ!!」


 宮佐さんの声。

 怒鳴り声に等しい号令。


 自動運転システムは車内の人間の音声で起動される。


 ユリが小さく息を吸い込んで口を開き。



 直後。



「――ちょっと待って」


 ヘルメットを毟るように脱ぎ、二十代の侵入者(アグレッサー)が叫んだ。


 これまで淡々とした、事務的な振る舞いを見せていた彼が初めて見せた、直情的で興奮した表情。



 その視線は真っ直ぐにユリに向いている。



 そして振り向く。

 怪訝そうにしている石黒に。


「――彼女、()()


「は?」


 石黒が目を細める。


 二十代の侵入者(アグレッサー)は、頬を紅潮させて捲し立てる。



「ご自分でもご覧になってください! ()()()()()! 絶対にフィギュアじゃ有り得ない!

 ――()()()()!」



 侵入者(アグレッサー)たちがどよめく。



 俺も仰天している。

 ――あのヘルメット、被るだけで相手の能力がわかるの?


 だが、感心している場合でもない――俺はユリの手を掴んだ。


「――逃げよう、自動運転オンに」


「だめ」


 が、ユリがそう囁き返してきた。


「ここにいないと、万が一取り返しのつかないことが起こったときに、わたしがそれを取り消せない――」


 けど、と俺が反論しようとする間にも、石黒が、初めて事務的な態度を崩して声を大きくしていた。



「有り得ない、センサーの故障だ。天羽くんは――」



()()()()!」



 これまで一言も口を利いていなかった、四十代と見える侵入者(アグレッサー)が上擦った声を上げた。



「あの子ですよ! ()()()事故の――」



「――補永(ほなが)紗綾(さあや)?」



 石黒が聞き慣れない名前を呼ぶ。


 侵入者(アグレッサー)たちの空気が、ものの数秒で激変している。



 俺は思わず、ユリの手を離して彼女の肩を掴んだ。


「きみのこと?

 ユリ、ユリ――あいつらのこと知ってるの!?」


「知らない!」


 ユリの目は不安げに揺れている。

 なんかデジャヴュ、散々透真を相手にやったやり取りに似てる。



 ――そうだった、この子は推定八歳、宮佐さんに拾われる以前の記憶がないんだった。



 そう考え至ったものの、俺は思考はそこで行き詰まり、でんぐり返りをしたり宙返りをしたりで忙しい。



 俺がこのとき宮佐さんを見ていれば、彼が俺より遥かに大きい衝撃を受けていることはわかったはずだ。


 俺は後から、ドライブレコーダーカメラに収められていた彼のこのときの様子を見た。

 ――衝撃という言葉でも足りない、圧倒的な事実の可能性の重みを受けている宮佐さん。



 ――宮佐さんが愛してやまない一人娘が、血縁上は、もしかすると侵入者(アグレッサー)の縁者なのではないかという、その可能性に竦む彼を。



 ――つまり、まあ、何を言いたいかというと、この場で俺たちが全員、馬鹿みたいに泡を喰ったのは無理ないことだったのだ。


 俺はそもそもわけがわかっていなかったし、ユリはいきなりの名指しでびびり上がっていたし、透真は――とにかく大変だった。


 宮佐さんはそんな状態で、宮佐さんがそうなのだから与座さんも思考停止状態だった。



 白井が目を剥いてワゴンを振り返っていた。


「えっ? 嘘だろ――()()()()()()()()()()? 行方不明になったの、俺が十歳くらいのときだろ?」


「生きてたのか!」


 石黒が、耳許の――インカムだろうか、それを押さえて、口早に何かを言っている。



 ユリは完全に怯えていた。


 何が起こっているか理解できないという顔をしていて、俺の手をぎゅっと掴んで困惑している。



「――最優先の仕事が追加」


 石黒が言う、その淡々とした声音、その裏に微かな熱がある。



()()()()()()()()()()だ。並行して、フィギュアへの告知実験――」



 直後に起こったことを、俺は上手く説明できない。



 石黒が、落ち着いた仕草で右の踵で地面を叩き――



 ――咄嗟に思ったのは、足許が急に割れたということ。



 いきなり落とし穴が開いたかのように、前触れなく真下へ落下する。


 え、と見開いた目に見えたのは、ついさっきまで俺たちが座っていた車内に走る白い罅割れのエフェクト――



 ――干渉事象。



 は、と声が出ようとするが、落下の不快感の吐き気がそれを上回る。


 まるで内臓だけ上に置いてきたかのような、腹の中が浮き上がるような落下の感覚。



 直後、どすん、という鈍い衝撃とともに、俺は着地した。


 尻を打って涙目だった、ということは言っておこう。



 俺はいつの間にか目を閉じていた。



 その目を開け、俺は、「――は?」と呟いていた。





 眼前には、薄暗くだだっ広い、円形の管制室が広がっていた。























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