11 記録映像
「――あの」
と、俺は勇気を振り絞って小声を出した。
「お話では、ユリちゃん……ユリさんが俺の記憶を消せるようになるまで、みたいな、そういう話だったような……」
「状況が変わった」
三条さんは素っ気ない。
「状況を考え合わせるに、きみにBGSについてより深く説明する必要があるようだ」
俺は透真と目を合わせた。
さぞかし蒼い顔をしているかと思いきや、透真はむしろちょっと元気を取り戻した顔になっている。
俺が目顔で「どうした?」と尋ねたのがわかったのか、透真が俺の方に身体を傾けてきて、ぼそっと囁いた。
「――尋、おまえだけ安全圏に逃走する話、なかったことになったみたい」
「――――」
こいつ、こんなに性格悪かったっけ。
まじまじと見ると、透真はちょっと照れたように微笑んだ。
ふんわりしたいつもの微笑。
「――それに、俺が尋に話してないことがあったとしたら、それってちょっと嫌だなと思ってたんだよ。なんか、それが清算される気分」
「おぁん……」
俺は変な声を出してしまった。
どうしよう、当初の予定では、俺は今ごろ自由の身になって、学校に行っているはずだったんだけど。
下代さんが控えめに咳払いしたので、俺と透真は揃ってそちらに向き直って、授業中に先生から睨まれたときの「聞いています」という表情を浮かべる。
下代さんが微笑んだ。
三条さんに比べれば、まだとっつきやすそうな人だ。
「いいかな。――さて、説明するよ。ここで格好のいい資料でも出すことが出来ればいいんだけど、残念ながら作成している文書は、全て閲覧に別途の許可が必要なものでね。
――世界安全保障局は、今から六年前に発足。
発起に当たって中心となったのは、防衛省、法務省、外務省、経産省。立ち位置としては防衛相の外局となったが、実質的な権限には特例的なものも数多くある。
もう、一種の特務機関と思ってくれればいいよ」
はあ、と頷く俺と透真。
「設立された理由は、テロへの対処」
「テロ?」
と、異口同音に俺と透真。
日本でテロがニュースになったことはない。
「そう、テロだ。我々はそのテロリストを侵入者と呼んでいる。
我々にはないハイテクノロジーを駆使して、目的不明のテロ行為を行う――初めてそれが確認されたのが七年前だが、事によるともっと昔から行われていたかも知れない。
国籍を特定しようにも、アメリカもスイスも関与を否定、それどころか世界中で同様の被害があると共有された。
――そのため我々は、侵入者は多国籍の集団ではないかと考えている。そのために各国協調で防衛に当たる、それが世界安全保障局の役割だ。
当初は外務省が中心となる予定だったのだが、大臣間でのやり取りであったりと、色々あってね……」
「下代くん、論点をずらさないで」
西平さんが警告するように言って、下代さんがすみませんと軽く頭を下げる。
「BGSの制服組は、基本的には産業級の能力者から成り立つ。理由としては、通常の銃火器による殺傷が、どうやら侵入者には効果を発揮しなくてね。
――あの黒づくめの野戦服に仕掛けがあると見ているのだけれど」
俺は透真と目を合わせ、不安そうにした透真に代わって口を開いた。
「……あの、すみません、日本でテロとか聞いたことないんですが」
「貴一」
宮佐さんが呼ばわって、与座さんが溜息をつきながら、ポケットからギズモを取り出す。
――俺のギズモだ。
そしてそれを、勢いよくテーブルの上を滑らせて、俺に返して寄越した。
「ほら、返す。位置情報は切っておいてくれよ。
――ニュースフィード見てみろ。コミュフィードの友達のルームでもいいぞ。
昨日の、おまえらの学校でのことが話題になってるか、見てみろ」
「…………?」
戸惑いつつ、俺はギズモを手に取って起動させた。
メッセージフィードに、父親や母親、あとは友達から、「どこにいるんだ?」「無事?」「遅刻? 欠席?」という旨の夥しい数のメッセージが入っている。
不応でキャンセルになった通話リクエストも数十件。
ざっと目を通してみたが、やはり表彰式には触れられていないし、過去のやり取りからも表彰式についてのことは綺麗に消え失せている。
取り敢えず、「大丈夫」とだけ返してフィードをミュートにした上で、ニュースフィードを開いた。
高校であんなことがあれば、少なくとも今日のニュースのトップを飾っているだろうと思ったのに、全くそんなことはなかった。
ニュースフィードは、俺があんまり興味のないアイドルユニットの一人の熱愛報道を垂れ流している。
「――――」
顔を上げる。
透真にもディスプレイが見えるようにして、ニュースフィードに高校名を入れて検索してみる。
――ヒットなし。
「――――」
なんだか嫌な汗をかき始めた。
意味もなく額を拭ってから、今度はコミュフィードを開く。
俺がフォローしている友人数名のルームを手あたり次第に覗いていくが、全く異常事態については触れられていない。
数学だるい、だのというぼやき、とある企業の公式アカウントの投稿を引用してコメントをつけたり、『よく考えたら来年受験だけどさ、なんで数学は数学Ⅱだの数学Bだのいっぱいあって、理科も生物だの物理だのいっぱいあって、英語も英語コミュニケーションだの英語論理・表現だのあって、社会も地理総合と政経と現代社会があって、なんで俺の得意な国語は〈国語〉だけなんだよ!』と喚いている意味不明な投稿もある。
中の数名が、『友達が無断欠席してる』と投稿していた。
――それだけ。
おかしい、と思い、友人の一人のルームに行き、彼がフォローしている産業級能力のクラスの子のルームを訪ねてみる。
『朝きたら廊下が変形してるんだけど』というような投稿を期待して覗いたにも関わらず、ルームには淡々とした日常の投稿しかなかった。
日付を確認したが、間違いなく今日の投稿だ。
――おかしい。
恐怖を覚えながら顔を上げると、同じ表情の透真と目が合った。
透真が囁き声で、「昨日、校舎、やばいことになってたよね?」と確認してくる。
俺は無言でこくこくと頷く。
「――わかっただろ?」
と、宮佐さん。
俺と透真が「わかりましたが、わかりません」という顔で宮佐さんを見ると、彼の隣にいるユリが、親切にもちゃんと説明してくれた。
「つまり、侵入者は、どういうわけだかわからないけど、自分たちの襲撃の痕跡をばっちり消せるの。建物も道路も元通り。もっと怖いのが、居合わせた人たちの記憶も改竄」
「俺たちは覚えてるけど?」
「それはねぇ、すぐその場を離れたからだって。その場にいると、手品みたいに記憶が消えるわけ。で、その場を逃げ出した人には記憶が残るけど、戻ってみたら全部綺麗に直ってるわけでしょ? 誰に話しても『そんなのありませんでしたよ』って言われるわけだし。そうなると、『悪い夢かな』ってなるって。
それで、――なんて喩えるんだっけ、そう、夢の記憶みたいな感じで、そのうち思い出そうとしても思い出せなくなるの。唯一の回避方法が、誰かにその経験を話すこと」
「え、いや……」
「まあ、その、なんらかの精神疾患じゃないのって自分で疑ってお医者さんにかかってる人も、中にはいるっぽいけどね」
「でもなんで、それじゃ、BGSなんてものが」
「その場から逃げ出して記憶がある人どうしが、『やっぱりテロがありましたよね!』ってことで意気投合――っていうと軽く聞こえるけど、そういう感じの積み重ね。だよね、お父さん?」
ユリが見上げると、宮佐さんが苦笑して頷く。
「まあ、簡単に言うとそんな感じだ。ヒメユリ、ありがとな」
ユリがちょっと誇らしそうにするのが微笑ましいが、――いやいやいや。
「そんなのユリちゃん――ユリさんと同じくらいの能力がないと、出来なくないですか?」
「BGS設立時から、ヒメユリは宮佐くんのそばにいたからね。不審な言動はなし、BGSへの尽力も著しい。もちろん、彼女の能力があれば欺罔は可能だけれど、そこまでの能力を使い続けるには、彼女は不運の権化となっていなければおかしい」
下代さんが、後半だけ少し冗談めかせてそう言った。
――能力の特定は、血液検査や脳波スキャンで行う。
さすがにユリの能力が世界級といえど、能力の特性の把握は確実なはずだ。
――というか、そこまで疑い始めたら、もう何も出来ないというべきか。
「だったら、相手――えっと、侵入者? には、他の世界級の能力者がいるってことですか?」
「その可能性も視野に入れてはいる。
――彼らのテロの大きな特徴は三つある。そのうち一つが、今述べた一点……その記録が残らないというところ。
実際、我々としては死傷者の数すら把握できない――BGSが省として独立せず、防衛相の外局という立ち位置に留まっているのも、そのためなんだよね。被害の推定もできない事象に対して、まとまった予算を割くことが難しいという意向で」
「下代くん、論点」
「すみません。――そして二つめが、彼らの目的が全く不明ということだ。
通常のテロ組織は、テロ行為と同時に声明を出すものなんだけれど――『我々はこういう者で、政府にこういったことを要求する』、みたいなね。――彼らにはそれもない」
目的もわからず、証拠もひっそりと消される――
「え、オカルト?」
「そう思うのも無理はないけどね。だが、現実だ。
――そしてテロの特徴の三つめが、黒川くんも見たと思うけれど、あの干渉事象だ」
「干渉事象」
「これ」
下代さんがテーブルを叩くと、ホロキーボードがその手許に出現した。
下代さんがそれを操作すると、部屋の一画――俺と透真からすれば正面、宮佐さんたちからすれば左手、下代さんたちからすれば右手の壁に、ホロスクリーンが投影される。
そこに映っているのは、紛うかたなき昨夜の映像。
モニタリングルームの観測室で、黒づくめが足踏みし、白い罅割れのエフェクトが走る――
「これを干渉事象と呼んでいるんだ。文字通り、彼らは――どういう仕組みか知らないが、ものの組成や形を変えてしまえるようでね。そのために、床や天井を変形させたりはお手のもの」
変形して、蛇腹のように捩れる学校の廊下。
「前触れなく特定の地点に出現することも出来るし、消え失せるときも、さながら瞬間移動だ。とはいっても、半径数メートルに人間がいるときは、その場から消え失せようとはしない――明らかに距離を取りたがるから、何かの制約があるんだろうが。
そして我々は、侵入者が現れることを〈ディバイド〉と呼んでいる。――まあ、昨日のこいつには、ちょっと不慣れなような面も見受けられたけれど――」
下代さんの説明が耳を素通りしていく。
俺は思わず、勢いよく身を乗り出していた。
「待ってください、昨日の――江守さんは、大丈夫なんですか!?」
「ああ」
と、今度は三条さん。
宮佐さんと与座さんが凄まじい不快感に顔を顰める一方で、三条さんは平然と言った。
「彼については、干渉事象を受けた――記録にある限りでは――初めてのヒトだ。体調は既に回復しているが、種々の検査でしばらく借りる」
「制服組を背広組のおもちゃにしないでほしいんですけどねえ」
宮佐さんが、かなり強い口調で言った。
俺は、「体調は回復している」という知らせにほっとする一方で、「検査」という一見温和な言葉に、それでも反発する宮佐さんを見て、江守さんに何かの災難があるのかと思って目を見開く。
「ただの検査だ。しかも公費負担のな。むしろ礼がほしいところだが」
三条さんが冷ややかに言って宮佐さんの視線を迎え撃ち、下代さんと西平さんが額を押さえる。
「三条さん、仰ってることは尤もなんですが、言い方といいますか……」
下代さんが弱々しく言ったものの、「なにか?」と三条さんに眼鏡の奥から見据えられ、諦めた様子で「……いえ、なにも」と呟いた。
気を取り直した様子で、下代さんが俺と透真に目を向ける。
そのとき、透真がぼそっと言った。
「――あの、テロの痕跡がなくなるっていうなら、どうしてその映像は残ってるんですか?」
「ああ」
と、下代さん。
やや素気ない態度でホロスクリーンを一瞬振り返ってから、答える。
「昨日の侵入者は、その隠滅を行う前に我々に捕まったからね。だからこれは、定点カメラが捉えたものとしては初の、侵入者によるテロ行為の証拠映像だよ」
俺を見て、下代さんがにっこり笑う。
「きみの尽力が特に大きかったと聞いています。ありがとう」
「……いえ……」
引き攣りながら愛想笑いする俺。
下代さんは微笑み、――その笑みを消して真顔になった。
「――さて、黒川くん、きみたちに来てもらったのは、その侵入者について話したかったからなんだ」
宮佐さんが、苛立った様子で口を挟んだ。
「俺があの侵入者のそばについてるのが一番じゃないですかね」
「先程も言ったが、宮佐くん。藤生くんが使えなくなった今となっては、きみが制服組の最高戦力だ。矛盾を感じるのはわかるが、危険には晒せない」
三条さんがさらっと言って、宮佐さんが呆れ果てた様子で天を仰ぐ。
俺と透真が顔を見合わせ、ややって俺が怖々と言った。
「あの、昨夜のあいつのことで、俺たちに何か関係あるんでしょうか。あの――確かに俺は、顔を覚えたぞとは言われましたが」
「きみには、そこの彼――藤生くんのそばについていてほしくて」
「あの、俺は別に、透真のカウンセラーっていうわけじゃないんですが」
力なく言う俺に、透真が「ごめん……」と。
いや、いいけどさ――と手を振って、俺が反論を呑み込んだのが下代さんにも伝わったらしい。
下代さんがホロキーボードを叩き、ホロスクリーンに投影されていた昨夜の映像が消える。
「これから、昨夜の侵入者の取り調べ映像を見てもらいたいんだ。
正直、見せるかどうかは迷ったんだけれど、――ショックは大きいと思うけれど、見せない方が、後々困ることになると判断されてね」
透真が怯えた顔になった。
俺は、「大丈夫だって」と透真の手を叩いておく。
「いいね?」と、確認というより念押しに近い声で下代さんが言い、俺たちが頷く前に、ホロスクリーンを操作した。
ホロスクリーンに映像が投影される。
真っ白な部屋だ。
病的な印象は特になくて、居室から大慌てで家具を運び出したような印象。
そしてその部屋の真ん中に、昨日の黒づくめが座っている。
椅子に座らされて、姿勢から察するに後ろ手で手錠を掛けられているようだ。
黒づくめがそんなハイテクな手品を使えるにせよ、ユリが「逃げない」と決めたのだから、奴は逃げられない。
黒づくめは、首から下は相変わらず黒づくめだった。
黒い野戦服。
ただ、銃のホルスターは完全に空になっている様子。
そしてヘルメットは頭から引っ剥がされており、顔が露わになっていた。
――どう見ても日本人。
髪はやや長くて、項の辺りまで伸びている。
色白の肌、十九歳くらいに見える若い顔。
ものすごく不愉快そうな表情。
映像の外にいる人の声が聞こえる。
『――さて、質問するから、答えなさい』
『タコ』
というのが、侵入者の返答だった。
俺は思わずユリを見る。
「ねえ、なんで、『こいつは嘘をつかないしまともに応答する』っていう風に決めとかなかったの?」
「……無理だから」
と、ユリ。
「こいつが尋問に素直に応じてくれるのは、お父さんからしてもめちゃくちゃ重要だし大事だし、そんなことになればそれより有難いことはないってくらいのことだよ。バーターが重過ぎるんだもの。それに――あ、いや、そう」
「……なるほど」
ユリの能力、便利なのかそうじゃないのか、わからないな。
映像の中では、侵入者と尋問者が言い合いを続けている。
『マジでてめぇ、分際を弁えろよ。親父がこんなこと知ってみろよ、てめぇなんて消されて終わりだよ』
『きみのお父さん? 名前を教えてほしいな』
『てめぇにわかる名前かよ、タコ』
『タコは海洋生物の中でも頭がいい部類だよ。誉め言葉として受け取っておこうかな』
『なんでてめぇがそんなこと知ってんだよ』
下代さんが手許でキーボードを叩き、映像が早回しされる。
「この後の会話で、際立った選民意識が見られます――我々の見立てでは、彼らは一種のカルト集団ではないかと」
下代さんが俺に向かって言う。
俺と透真以外は、この映像を見るのも二回目っぽい。
ある時点で、下代さんが映像の再生速度を一倍に戻した。
『――何回も訊くけれど、きみの名前は』
『逆に訊くけど、てめぇに名前あんの?』
『きみ、日本人だよね?』
『てめぇらと違って生粋のな』
『では悪いが、きみのことはジョン・ドゥと呼ぼうかな』
侵入者が笑い出す。
『きみ、藤生透真のことを知って、ここに来たのかな?』
『――――』
『当たりかな』
侵入者がしばらく黙り込む。
俯いて、何かをじっと考えている様子だ。
――ややあって、彼がぱっと顔を上げる。
目を細めて、尋問者がいるらしき方向をじっと見ている。
『――てめぇら、藤生透真だっけ、あいつに手ぇ焼いてるだろ?』
『なんのことかな』
『白切ろうって? まあいいけどさ、あんたらもあいつに手ぇ焼いてるところを、こっちで引き取ってやろうって言ってんの。熨斗つけて差し出すのが道理じゃねえの? あ、熨斗ってわかる?』
『なんのことだろうね』
『マジかよ、じゃあ、あの野郎はだんまりか? ちくしょう、喋ってりゃ、こっちからしても対象が増えるってのに……』
『何を言っている?』
尋問者の声に苛立ちが混じる。
侵入者は一瞬黙ってから、探るように。
『――藤生ってやつ、俺に対して能力を使わなかったな?』
尋問者は一瞬黙り込み、しかしすぐに言った。
『――気分が乗らない夜くらいはあるさ。きみはアポなしでやって来たしね』
『使えないんだな?』
侵入者の声音に確信が籠もる。
尋問者が口籠る。
侵入者の表情に、微かな勝利の光が射した、ように見えた。
『――てめぇらの能力発現の学習機能は知ってるぜ。あいつ、記憶喪失だな』
『――きみたち、彼に何かしたのかな?』
尋問者が、沈黙ののちにそう言った。
『言っておくけど、藤生くん一人がテロ対策から外れたところで、我々の態勢に支障はないよ』
『我々の! 態勢!』
侵入者が頭を仰け反らせて笑い、げらげらと笑い声を響かせる。
『なぁにかっこつけてんの! ――ってことは……なるほどな』
何かを納得してから、侵入者が尋問者に視線を戻す。
そして何かを算段するような、慎重な表情を見せた。
それから唇を舐め、彼は言った。
『――いいか、俺は確かにあいつを引き取りに来た』
『――――』
『だけど、生憎だが、てめぇらが〈藤生透真〉って呼んでるやつを、じゃない』
『……は?』
尋問者の怪訝の声が入る。
俺は息を呑んでいる。何か決定的なことが告げられようとしている、それを肌で感じている。
今この会議室にいる人間、その全員が透真を、友好的とはいえない目で見ていることを。
透真は困惑と混乱の表情。
ホロスクリーンを見て、不安げに周囲を見渡し、またホロスクリーンを見て。
そして、ホロスクリーンに映る侵入者は、言った。
『たいへん申し訳ないが、あれはこっちの持ち物だ。
――こっちで捕まえてる藤生透真の、その替え玉だ』