7.禁忌の影を追って①
今日は土曜日、休日である。ログイン三日目の私は、今日も鍛冶ギルドに入り浸っていた。
半ばデイリーミッションのように溜めた素材とゴールドを消費し、作った武器はNo.20を超えて鍛冶レベルは8まで上がった。その途中でヒスイさんにも武器のリサーチができた。片手剣を使っているらしい。
そうして、やりたいことを終えた私は鍛冶ギルドを後にした。
いつもならこのまま金策に出かけるところだけど、今日は友達のクエストを手伝う約束があるのでリンダの街の噴水広場に向かう。そこは最初のログインの転移場所でもあって、死亡時のリポップ先でもあったりする。ちなみに、リンダはこの街の名前ね。今更だけどリンダって可愛らしい響きで良いよね、私は好き。
噴水広場にやってくると、そこはプレイヤーたちによって盛況な様子を見せていた。やってきたばかりの初心者をパーティに誘う人、リポップして地団駄を踏んで悔しがっている人、彼らを相手に商売をしている人たちが入り混じり、活気に満ちている。私も何度かパーティに誘われて、その都度丁重に断りながら私の親友――――白川優姫を探す。
やがて、広場の端っこにさらりと靡く金髪と、肩を出した落ち着いたローブに身に包む人影を見つけた。
「多分あれだよね……?」
聞いてたアバターの特徴に一致しているけど、ちょっと自信がないのでおそるおそる話しかけた。彼女は振り返ると、わずかに間をおいてむっとした顔を作った。あ、これは当たりだ。
「イチカ遅ーい」
「ごめんごめん。人が多くて探すのに時間かかっちゃった。もしかして待たせた?」
「うん待った。謝って」
「そこは『私も今来たとこ』でしょうが」
私の抗議をさらりと聞き流すと、ユキはふっと表情を戻してじっとこっちを観察を始めた。
「イチカはリアルそんなに変わらないね、つまんない」
「……そりゃあユキと比べたらそうだけどさ」
「私だってそんな弄ってない」
「えー、ってうわっほんとだ………」
彼女は緩くウェーブした長い金髪に翡翠眼のアバターで。キリっとした眼つきと整った顔立ち、全体的なスタイルの良さはリアル譲りのものだ。
遠目で見たら分かりにくかったけど、こうしてまじまじ見てみると確かに優姫だなぁって分かる。相変わらず、嫉妬も馬鹿らしいお嬢様然とした美人さんである。また彼女の服装は白を基調としたローブで、長袖でゆったりとして洗練された聖職者っぽい格好になっていて、それがまた彼女の魅力を引き上げている。
「それで今日はどうするの?クエストを手伝って欲しいんだよね?」
「そう、神官のクエスト。私ひとりじゃボスを倒せないの」
「おっけー、なら詳しい話は歩きながらしよ」
そう言って、私とユキは踵を返し並んで歩き始めた。噴水広場の喧騒を背に二人で街中を進む。石畳の道は整備されており、両側には様々な住居や店が立ち並んでいる。
武器屋、防具屋、ポーション屋、そしてアクセサリーショップ。もう自分で店を持っているプレイヤーも居るらしく、独特なネーミングの看板も多く見かける。今までこうしてゆっくり眺めることはしてこなかったから結構楽しい。
ちなみだけど、私は自分の店を開く予定はなかったりする。私の目的はあくまで良い武器を作ることだからね。
「クエスト名は“禁忌の影を追って”。罪を犯して逃亡した元神官を追うのが内容」
「ふ~ん、逃げ出したってどこに?」
早速本題に入って、クエストについての話を聞き始める。
「さぁ?」
「まさかのノープラン!」
「嘘。本当は知っている」
「なぜそんな意味のない嘘を!?」
と言ったものの、ユキはいつもこうだ。度し難いことに、どうも彼女には偶に私をからかっては楽しむ悪癖があるのだ。
「イチカを驚かせたかったの。それに最初から全てを教えたらつまらないじゃない?」
「まるで全てを知ってるみたいな口振りだね」
「知っている、宇宙の誕生から消滅の秘密までね。聞きたい?」
ユキは「ふふ……」と意味深な笑みを浮かべた。悔しいが顔だけは文句なしで良い彼女がこんな笑みを浮かべたら何故か謎の説得力を感じる。つい「聞きたい!」なんて言ってしまいそうになったけど………うん、気の迷いだったね。よくよく考えれば、内容自体どうでも良い。どうせなら今日から一ヵ月間の天気の方が気になるね。
「おのれは神か、そんな壮大な話はしてない。早くクエストについて教えて」
「はぁせっかちね、早死にするよ?」
「余計なお世話だよ」
この調子で彼女に付き合ってる方が早時にしそうだよ、まったく……。
さて、クエストの詳細についてだけどなんでも今回の標的――――つまり逃げだした元神官とは、神官でありながら不老不死の研究に取り憑かれて呪術に身をやつした異端者、ということらしい。そしてクエストのクリア条件はその男を捕まえる、または倒すことらしい。ユキ曰く、十中八九倒すことになるらしいけど。
にしても、また物騒なクエストである。普通神官のクエストと言ったら怪我人の治癒とかだと思うのに…………一体どうやってこのクエストを発生させたんだろうね。気になるけど、聞くとまた本題から逸れそうなので我慢しよ。
「クエストの進行状況的に8割が終わっててあとはボス討伐だけ」
「おぉ流石、手際がいいね」
自分でできることは何でも一人でやってしまう。こういうところは、相変わらず無駄を嫌う優姫らしいなと思う。
ん?…………無駄を嫌うのに、無駄な会話を好むのはこれ如何に?
「ちなみにどこ?」
「北の森にある人目に付かない洞窟にいるらしい」
「洞窟かー、何かと縁があるなぁ―――――報酬はどうするの?折半?」
「スキルとゴールドが貰えるから、ゴールドは全部イチカにあげる」
「おっけー、ありがと」
「別にその分はしっかりと働いてもらうから。手となり脚となり」
「脚になってたまるか」
後衛ヒーラーである神官のユキの代わりに敵を倒すのは私の役目だけど、まかり間違ってもタクシー代わりになんてならない。
――――そうして会話をしながら、私たちは巫女さんが団子を売っている屋台を見つけた。私達はそこで楚々とした可愛らしい巫女さんから三色団子を一本ずつ購入した。
「また来てくださいね、お姉さん方」
巫女さんっていうのは、NPCじゃなくて巫女服を着たプレイヤーのことね。赤白の一般的な巫女服を着ていた。あれ何処で買えるのかな?それにお姉さんだって。お姉さん……いい響きだ。
それから私達は団子を手に街の外壁へ向かって歩く。ちなみに団子の料金は私持ちだ。遅れてきたペナルティらしい。その後、寒々しい所持金をみて泣きたくなった。
「あの巫女服良かったね」
「へぇ、ああいう清楚そうなのがいいんだ」
ユキがからかうように言った。誤解がある、というか語弊のある言い方はよして欲しい。私がしているのはあくまで服の話である。
「違うから」
「じゃあ、小さいところ?そういえば、乃愛とも仲がよかったね。まさか……」
乃愛は彼女の従妹で中学二年生なのだけど、とんでもない冤罪である。
「和服が良いなって話だから!」
「あはは!冗談、反応が面白いからつい」
ユキはそう言ってまた笑う。なんというか、街すら出てないのにどっとエネルギーを消費した気分……。ちなみに団子はとても美味しかったので、今度また買おうと心の中で決めた。
まぁ、そんなこんなで街の北端まで着いた私達は、北の森へと続く門を踏み越えたのだった。
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ステータス
名前:イチカ
性別:女
メイン職業:侍Lv12
サブ職業:鍛冶師Lv8
HP:378
MP:67
筋力:14(+22)
魔力:5(+0)
物理耐久:8(+6)
魔法耐久:5(+2)
敏捷:10(+2)
器用:12(+2)
パッシブスキル:
<筋力強化Lv3> <器用強化Lv2> <鍛冶の心得Lv2> <採掘Lv2>
アクティブスキル:
<剛力><集中>
魔法:
称号:
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ステータス
名前:ユキ
性別:女
メイン職業:神官Lv16
サブ職業:商人Lv10
HP:471
MP:273
筋力:7(+5)
魔力:23(+20)
物理耐久:10(+6)
魔法耐久:15(+10)
敏捷:8(+0)
器用:5(+0)
パッシブスキル:
<見習い神官Lv4><魔力強化Lv4><拡張収納Lv3><癒し手Lv2>
アクティブスキル:
魔法:
<光球><聖弾><治癒><浄化><障壁>
称号:
作中で使われたスキルの簡単説明
<見習い神官>・・・魔力値と魔法耐久を向上させる。初対面のNPCからの信頼度を高める。
<魔力強化>・・・魔力値を向上させる
<拡張収納>・・・アイテムポーチの容量を拡大させる
<癒し手>・・・聖魔法の効果が向上させる
<光球>・・・周りを照らす光球を生成する
<聖弾>・・・当たった対象に衝撃波を発生させる
<治癒>・・・対象のHPを回復する
<浄化>・・・対象の不浄を清める
<障壁>・・・対象に一定のダメージを肩代わりする層を纏わせる