4.素材が足りない
あれから鍛冶師になれた私は、再びヒスイさんとベルグさんの下に戻って来た。
「無事にクエストクリアできた?」
「お陰さまで、二人とも本当にありがとう」
「大したことは何もしてねえから気にすんな」
「そうそう、私なんて見てただけだしね」
ヒスイさんは肩をすくめて笑った。続けて「それで、これからどうするつもり?」とヒスイさんが尋ねてきた。
「うーん、鍛冶師としてもっと色々作ってみたいけど、正直言ってお金も素材も足りないんだよね」
「なるほどな。さっきので素寒貧になったのか」
「そうそう、最初は本当にシビアなんだよね。なんて、私たちにも余裕なんてないけどさぁ」
鍛冶道具はまだしばらく使えるだろうけど、消費素材はそうはいかないんだよね。さっきの一番安く済む組み合わせで五千ゴールドだったから、二本作ろうとするだけで初期金額を超えるのかぁ。目的の強い武器を作る為に良い素材を使おうと思ったら、それ相応に鍛冶レベルを上げなくちゃいけなくて、鍛冶レベルを上げるには、もっと良い素材を使って………………はぁ、なんにしても素材もそれを買うお金もないんだなぁ。
「二人はどうしたの?」
「簡単さ、自分で取りに行けばいいんだよ」
「自分で?」
「そうだぜ。鍛冶師だって魔物を狩って炭鉱夫の真似事をしなくちゃ碌な鍛冶もできねぇからな。そういう意味じゃ、自分で採掘したりモンスターを倒して素材を集めるのも鍛冶師の一部とも言えるな」
がははとベルグさんが豪快に笑いながら言った。
確かに彼はガタイもいいしそういうことをしていても不思議ではない。寧ろばっさばっさ魔物を大剣で薙ぎ払っている方が絵になる気がする。いや、この世界で見た目になんてなんの意味もないけどさ。
「ヒスイさんも?」
「まぁね。ただ私は、そもそも鍛冶師も冒険も両立していくつもりなんだけどね」
「あー当然そういう人もいるよね」
でもそうか、自分でかぁ……確かにそれならお金もかからないし一石二鳥だね。あと、気になると言えば具体的な場所か。
「鉱石はどこで採れるの?」
「北の森に洞窟がいくらでもあるから、そこに行けば鉱石もあるよ」
「北の森ね、分かったありがとう!」
「あとはそうだな、これをもってけ」
そう言ってベルグさんは、アイテムポーチからピッケルを取り出した。
「これが無いと採掘も出来ないからな」
「あ、そうだよね……でも良いの?お金持ってないけど」
「構わねぇよ。どうせ失敗作だ」
「これベルグさんの自作だったの?」
「まぁな、防具が主だけど色々作っているからな。っていうわけで恥ずかしい駄作を貰ってくれや」
「うーん、そこまで言うなら有難く貰うよ。無いと困るのは事実だしね!」
「えー、私も何かプレゼントしたかったなぁ」
「もう十分貰っているから大丈夫だって。返せるものもないし……」
そして“低品質のピッケル”を受け取る。
何から何まで世話になってしまった。これ以上は心苦しいというものだ。これは脚を向けて眠れないね。
「じゃあ、早速素材集めに行ってみようかな」
「うん頑張れ~、最初は大変かもしれないけど慣れれば楽しいよ」
「俺達は鍛冶をやるから付いていけないけどな」
「あはは、別に私は赤ん坊じゃないんだから一人でも大丈夫だって」
そう、にへらと笑って私は二人と別れた。
******
私は街の門をくぐり抜け、広がる平原へと足を踏み出した。
青々とした草原が広がり風が心地よく吹き抜ける。遠くには山々が連なりその麓には森が見える。目指すはその森の中にある洞窟だ。
「…………それにしても良い人達だったなぁ」
別れたばかりの二人を思い出す。出会ったばかりの私を無償で色々と助けてくれた。他のオンラインVRゲームはいくつかやってきたけど、ああ言う人は滅多にいない。私は幸運に違いない、うん。いつかちゃんとお礼はしなくちゃね。そのためにも頑張らないと!
「よし、行こう!」
平原を進んでいくと、始めに現れたのはスライムだった。
空色の体の中には、炭酸みたいなシュワシュアと丸っこい核がある。あと、ぽよりぽよりと跳ねてて可愛い。食べてしまいたい、なんて。一歩、二歩と近づいて……せい!お、やった!刀を抜いて核を砕いたら溶けて消えていった。経験値とドロップ品が手に入った。
スライムの体液か、鍛造に使えるかな?んーでもドロドロの武器が出来そうで嫌だなぁ。やっぱり素材に使うなら牙とか角とかだよねー。
にしても、スライムばっかりだ。周りにいるプレイヤーは私と同じ初心者かな?サービス開始して数日だしそういう層はまだまだいるんだろうね。
それから私はスライムを倒しながら草原を進んだ。道中に二回のレベルアップも重ねつつ、平原を抜けると目の前に広がるのは鬱蒼とした北の森。木々が生い茂ってるけど木漏れ日の温かな雰囲気が漂っている。
「ここが北の森なんだ」
しみじみと呟いて私は慎重に脚を踏み入れる。しばらく進むと、巨大なイノシシが私の前に現れた。ネームはファングボア、レベルは5。長い曲線を描く鋭い牙が特徴で…………いいなぁ、あれ。
「ブルゥゥゥゥッ!!!」
ファングボアは縄張りに侵入した外敵に怒れるように、猛烈な突進で接近してきていた。
「うひゃぁー!?」
咄嗟に横へ飛んで避ける。
あはは……アブナイ、アブナイ。危うくひき肉にされるところだったね。さて、こういうタイプに正面から攻撃するのは得策じゃないから……、
「こっちだよ」
私はファングボアの視界に入るように動き、注意を引く。背後の木へと誘導することが狙いだ。ファングボアは「ブルゥゥッ!!!」と怒りの声を上げながら再び突進してくる。私はギリギリのタイミングで素早く横に飛び退き、ファングボアはそのまま木に激突した。
「ドンッ!」という大きな音とともに、ファングボアは一瞬動きを止めた。その隙を見逃さず、私は背後に回り込んで攻撃を仕掛ける。
「せいや!」
刀がファングボアの背中に深く切り裂いて、手応えを感じた。ファングボアは痛みによろめきながらも、雄叫びを上げて再び立ち上がろうとする。
「ブルゥゥッ!!!」
もう一撃。
「ブルゥッ!!!」
更にもう一回。
あ、HPも赤くなってきた。最後の一押しだね。私はさらに力を込めて剣を振り下ろし、ファングボアの首筋へ刀を突き刺し攻撃を加えた。ファングボアはついに力尽き、地面に倒れ込んだ。
よし倒せた。あ、レベルが上がった。ついでに<筋力強化lv1>のレベルも一つ上がってる。しかも“ファングボアの鋭牙”がドロップしてた。やったね、これは使えそうだし嬉しい。
「――――って、もう次なんだ」
ファングボアの二匹目だ。
まぁ要領はさっきので掴めたもんね。素材はいくらあっても困らないし、おんなじ感じで誘導して木にぶつけてっと……せりゃっ!気持ちの良い手ごたえ!この調子で―――――、
「よし二匹目。やったね」
突進攻撃にさえ気を付けておけば倒すのはそう難しくない。
ドロップアイテムは………残念“ファングボアの毛皮”と“ファングボアの生肉”かぁ。牙が欲しかったんだけど、まぁ売れるだろうし別にいっか。実際問題、火精石の購入とかではゴールドは必要になってくるだろうし。あ、でもそれも洞窟で採れたりするのかな?………………ま、行けばわかるよね。
「次はどんな魔物が出てくるかな……」
私はさらに奥へと進んだ。魔物を倒しながらしばらく歩くと、森の中にぽっかりと開いた洞窟の入り口が見えてきた。おっと、ここだね。洞窟の中からはひんやりとした空気が流れ出ており、内部には光源となる物質があるらしくそこまで暗くない。
森にはいくつも洞窟があるらしいのでその内の一つだ。中には一体何が眠っているのか。さぁ、採掘の時間がやってきた。
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ステータス
名前:イチカ
性別:女
メイン職業:侍Lv5
サブ職業:鍛冶師Lv1
HP:238
MP:52
筋力:8(+9)
魔力:5(+0)
物理耐久:6(+6)
魔法耐久:5(+2)
敏捷:6(+2)
器用:7(+2)
パッシブスキル:
<筋力強化Lv2> <器用強化Lv1> <鍛冶の心得Lv1>
アクティブスキル:
魔法:
称号: