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29.村……少女……ゴブリン……

 「いえ……見てないですけど」


 女性は額に汗を浮かべて、酷く狼狽えている。


 「どうしたんですか?」

 「娘が……娘がどこかに行ってしまったんです。少し目を離した隙に……」

 「どこで最後に見かけたんですか?」

 「広場の近くで遊んでいたんですが、気づいたらいなくなっていて……村のどこを探してもいなくて………きっとあの子森に……」


 森…………あーそういう感じかぁ。ユキは納品しに行ってるし、待った方がいいのかなぁ………でも、手遅れになったら大変だよね………………しかたないか!


 「わかりました。私が探してきますよ」

 「でも、森には魔物が……」

 「大丈夫です。こう見えても冒険者なので!」


 嘘だけど、でもこういう場合は余計なことを言わない方がよさそうだからね。おかげで、涙を浮かべた母親に感謝された。


 「ありがとうございます……本当に……」


 うんうん、そうと決まれば探しに………って誰かきた。野性味のある男性――――息を切らしながら駆け込んできた男は、焦った表情で母親に駆け寄ってきた。


 「リサ、リーナは見つかったか?」

 「リカード…いいえ村には……あれだけ言ったのに……」

 「やっぱりそうか………」

 

 そして二人が短く会話を終えると彼は彼いた表情を浮かべたけど、すぐに冷静さを取り戻してこちらに向き直った。

 多分、夫かな?


 「俺はリサの夫のリカードだ。あなたが娘探しを手伝ってくれるのか?」

 「はい、イチカって言います。娘さん探しを手伝わせて貰いますね」

 「感謝する。森へは俺も付いて行く。一応狩人だから足手まといにはならない」

 「それは心強いです」

 「イチカさんへの報酬は全てが終わってから決めても良いか?」

 「えぇ構わないですよ」


 人が増えるのは歓迎なので笑顔で答えたものの…………さて、無事に見つかったらいいけどね……………あ、クエストが発生した。


【クエスト受注:森から少女を連れ帰れ

クリア条件:少女を無事に両親の下に帰す

報酬:不明】


 そうして私は急遽、森へ向かうことになった。

 森の入り口に立つと、リカードさんは周囲を見渡しながら深呼吸をした。


 「まずは、リーナがどの方向に行ったかを探る必要がある。足跡や何か手がかりがないか見てみよう」


 そういって彼は地面にしゃがみ込んで注意深く足跡を探し始めた。んーーー私には何も見えないけど、彼には何か見えるのかな?


 「ここに村から続く小さな足跡がある。リーナのものかもしれない」

 「分かるんですか?」

 「狩人のちょっとした技術だ」

 「へぇーやっぱり、ってそういうことだったんですね」

 「そんなことより先を急ごう。近くにゴブリンの足跡もあった、もしかしたら追っていったのかもしれない………」

 

 村……少女……ゴブリン……これはファンタジーテンプレだ……!

 それからリカードさんが足跡を辿りながら慎重に進んでいくのに付いて行く。

 “暗がりの森”というだけあって、昼間でも薄暗く不気味な雰囲気が漂っている。木々は高くそびえ、天井を覆う枝葉が密集しているため、ほとんど薄光しか差し込んでいない。

 私達は静かに森の中を進んでいった。リカードさんは時折立ち止まり、周囲の音や動きを確認しながら進んでいく。その姿はまさにプロフェッショナルである。


 「北東の方角だ。気をつけて進もう。森には魔物がいるからな」


 そんなことまで分かるんだ、とても便利。私もやってみたいな。私もそれっぽい感じで地面をじっくり観察してみよう。


 「そこには何もないぞ」

 「………あ、はい」


 恥ずかしい。死にたくなった。

 ―――――それにしても、思っていたよりも奥へと進んでいる。ここまで来れば痕跡なしで見つけるのは難しいと思う。もっと浅瀬にいると想定していたから、彼がいなければ危なかったかも?

 

 「―――――ねぇちょっと気になったんですが、聞いていいですか?」

 「ん?なんだ?」

 「どうして娘さんがゴブリンを追っていったと思ったんですか?」


 会話のない空気を打ち破る目的もあって、少し疑問に思っていたことを尋ねてみた。

 そもそも、どうして娘さんは森に入っていったのだろう?両親の様子から、普段から森に入らないように言い聞かせていたのは想像できるけど。そしてこれだけ歩けるんだから、足腰が育って、ある程度の物心もついていると思う。

 なら、理由は彼が言っていた言葉にあるって思ったわけだけど……、


 「あぁ………それは―――――」


 リカードさんは一瞬言葉を詰まらせたけど、深呼吸をしてから話し始めた。

 

 「実は、リーナの祖母が最近ゴブリンに襲われて亡くなったんだ。リーナは祖母が大好きだったからな、祖母の仇を討ちたいと考えているかもしれない」

 「…………すみません。無神経でした」

 「いいや気にするな。手伝って貰っているんだからちゃんと説明するべきだ…………」

 「…………」

 「…………」


 完全に悪手だった……無言を打ち破るためだったのに、余計に会話が無くなってしまった。気まずい……。


 「―――――娘さんを見つけて、無事に連れ帰りましょう」

 「あぁ当然だ」


 私たちは決意を新たにして、リカードと共に足跡を追い続けた。暗がりの森はますます不気味さを増し、木々の間からは奇妙な音が聞こえてくる。

 ―――――突然、遠くからかすかな叫び声が聞こえた。


 「リカードさん、今の声……」

 「そうかもしれない。急ごう!」


 私たちは声の方向に向かって走り出した。やがて、開けた場所に出た。

 そこでは、五、六歳の少女が数匹のゴブリンに追い詰められていた。予断を許さない状況に私は走り出していた。

 間に合う……?いや、いける。


 「リカードさん、弓!」

 「!!おう!」


 リカードさんが素早く放った矢が正確にゴブリンの肩に突き刺さり、ゴブリンは怯んだ。その隙にが駆け寄って刀を振り下ろしてゴブリンを倒した。

 ふぅー………ゴブリンのレベルは7程度で今の私なら敵じゃないね。


 「リーナ、大丈夫か?」


 リカードさんが駆け寄ると、リーナちゃんは涙を浮かべながら父親に抱きついた。


 「もう大丈夫だ、リーナ。お前を見つけたからな」

 「お父さん……怖かったよ……」

 「あぁ……――――リーナ、そのペンダントは……」


 リーナちゃんは小さな掌にペンダントをしっかりと握りしめていた。


 「おばあちゃんの……さっきのゴブリンが持ってたから取り返したかったの……」

 「リーナ、もう一人でこんな危険なことはしないでくれ。お前の気持ちはわかるが、家族が心配するんだ」

 「うん……ごめんなさい、お父さん」


 感動的だねぇ。そして彼女が森に入った理由もわかったし、これにて一件落着!

 でもなぁ、んーーーー結局敵はゴブリンだけかぁ。ん?なんか物足りないとか全然思ってないからね?リカードさんが敵を避けてたせいで素材が増えなかったなぁとか考えてないから。たまには善行も悪くない、なんて理由で自分を納得させてなんかいないんだからね!

 

 「イチカさん、あなたのおかげだ。本当に感謝する」


 こうして、リーナちゃんは無事に両親の元へと帰ることができてクエストは達成できた。

 ちなみに報酬は少額のゴールドと<痕跡探知>というスキルだった。わーい。にしてもユキはこんなに長く何をしているんだろうねー。



 それからしばらくして、ユキが村長の元から戻ってきた。

 

 「遅ーい、なに――――」


 何をしていたのか問いただそうとした瞬間、彼女は私の言葉を遮るように言った。


 「今からゴブリン退治よ」

 「…………はい?」


 私は呆けた声をだした。

 あぁー…………つまり、まだ問題は残ってたってことかな?

 



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