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2.鍛冶師になろう

 先ず視界に映ったのは広場の巨大な噴水だった。そこからは水しぶきが上がり、その水面からは太陽の光が反射してキラキラと輝いていた。そして、四方に伸びる石畳の道とその両側に立ち並ぶ古風な建物たち。

 街を歩くプレイヤーたちは、様々な装備を身につけ忙しなく駆け回っている。

 これまで没入体験に多少の違和感があった第一世代。そして今回の第二世代VRMMORPG、誰もが期待したその言葉に過言はなく、これまで以上に現実と見分けのつかない光景が私を迎え入れた。

 そして、


 「グラフィック……だけじゃない!視覚、聴覚、嗅覚、触覚、体の運動体験!全部リアルですっっごい!」


 うっひゃぁ~!と、飛んだり跳ねたり走ったり童心に帰りひと騒ぎした私は一息つく。これは増々これからに期待が膨らむというものだね。

 ―――――ってなわけで、さっそく向かうのは鍛冶ギルド。このゲームには最初に選ぶメイン職業と、プレイ中に選ぶサブ職業がある。後者はいわゆる生産職というやつだね。そしてなりたい職業は特定のクエストの達成によってなることが出来る。なんて説明がなくても分かりそうなものだけど、最初だし丁寧に振り返って行こう。

 そういうわけで、気持ちを落ち着けた私は鍛冶師になるべく鍛冶ギルドに向かい、辿り着くなりその扉を力いっぱい開いた。


 「た~のも~!」


 おっとしまった。また元気余って勢い余ってしまった。

 恥ずかしい、死にたい。

 さて、少々注目されてしまったけど、少ししたら皆自分の作業に戻って行ったので私も気を取り直して周囲を見渡す。

 巨大な建物自体は頑丈な石材で作られていて、内部には金属の塊、鍛冶用のハンマー、研ぎ石、炉具などが所狭しと並んでる。そして立ち並ぶ炉の周りでは鍛冶師たちが火花を散らしながら金属を力一杯叩いている。

 炉と彼らから漂う熱気が私の頬撫でて、自然と胸の内も熱くなった。

 それから真っすぐ向かったのは受付っぽいカウンター。そこには如何にもなNPCがいる。

 

 「こんにちは。イチカと申します」

 「儂はギルドマスターのタタラだ」


 彼の名前はタタラというらしく、乱雑な黒い髪と眼帯をした筋肉質な男性。全体的に粗暴な雰囲気で見た目はドワーフっぽいけど、この世界にはそういった亜人は存在しないことになっているので多分人間だと思う。


 「よろしくお願いします。それでですけど、鍛冶師になりたいんですけど」

 「おう、そうか。それは有難いことだ。鍛冶ギルドはいつだって人材を募集しているからな」

 「なら――――」

 「だが、誰でもって訳じゃない。テストをしてやるから何でもいい、一つ自作の品を持ってこい。その出来で可否を決めてやろう」

 「おっけー引き受けます」


【クエスト受注:鍛冶テスト

クリア条件:ギルドマスターを納得させる品を作る

報酬:鍛冶師としての職業】


 「道具や素材はそっちのギルド併設の売店にあるから必要なら利用しろ」

 「ご親切にどうも」

 「じゃあな精々頑張れ」


 鍛冶師だけに打てば響くように話が進んだ私はギルドマスターから離れて、取り敢えず教えられた売店に向かう。

 現状初心者よろしく1万ゴールド以外、道具も素材も何も持っていないためここで一式揃える必要があった。一応前もって調べていて、朧気ながらもどんな物が必要かは知ってはいるけど確実かどうかは分からない。それに自由にやってみたい気持ちもあるけれど、お金が無いので無駄使いはできない。最初は遠回りせずに堅実にいきたかったりする。


 「なになに……」


 槌、金床、鉄鉱石、銅鉱石、玉鋼もどき、火精石etc……。むむむ、ラインナップが多いなぁ。どれとどれを買えば良いのかな?道具と鉱石類は必須だよね?流石に全部を買うようなお金は無いから、一番安い最低限の物で揃えたいけど―――――。

 そんな風に何が必要か売店の前で考えていると、直ぐ隣にまでいつの間にか人がやって来ていた。


 「初めましてこんにちは、何か困りごと?」

 「こんにちは、まぁそんなところです」


 私に話かけて来たのは明るい色の長髪を後ろで纏めた女性プレイヤーで、私よりも少しだけ高い身長なので軽く上を見上げる姿勢で答えた。


 「ところであなたは?」

 「私はヒスイ。良かったら分かる範囲で教えてあげようか?私も鍛冶師だからさ」

 

 ヒスイと名乗った女性は、人懐っこい笑みを浮かべながら自分を指さしてそう言った。


 「良いんですか?返せるものとかないですよ?」

 「いいのいいの~!鍛冶師って女性プレイヤーの割合が少ないからね、それに可愛い女の子なら大歓迎!こういうのって一石二鳥?一挙両得?って言うんだっけ?何か違う気もするけど………ま、なんでもいっか」

 「はぁ……なるほど。まぁ可愛いと言われて悪い気はしないですね。ありがとうございます」

 「あはは!そんなわけで折角だしお友達になりたいじゃん?あ、ため口で良いよ」


 振る舞い一つ一つが自信に満ちており、優雅でありながらも力強さを感じさせる。そんな雰囲気の彼女は今も屈託のない笑みを見せてくる。

 勘だけど悪い人じゃなさそうだよね……?決して、可愛いとか褒められて気を良くしたわけではない。本当だよ?


 「それじゃあ、お願いしたいかな」

 「よし決定~!」

 「私はイチカよろしくね」

 「うん、イチカね。よろしく――――――それで何に困ってたの?」

 

 一先ず私はヒスイさんに、現在の所持金が初期金額であること、そして鍛冶師になるためのクエストでは最低限何が必要なのか。といった現状のを伝え終える。


 「何とか、なりそう?」

 「もっちろん。とは言え予算的にはギリギリになるだろうけど……ちなみにイチカは、武器、防具、装飾、日用品、何を作る鍛冶師になるの?」

 「武器だね。種類は特に決めないけど」

 「オッケー。ならそれ用の素材と道具を用意しなきゃね。まぁ最初はどれもあんまり変わんないんだけど」


 早速二人で商品ラインナップを探り始める。


 「ヒスイさんのときはどうだった?」

 「私は装飾品系だったんだけど、予算的には同じくらいだったよ」

 「へぇ――――ええっと、これは必要だよね?」

 「うん。あと、それと、これと………あれも」


 あれや、これやと助言を貰いながらスムーズな流れで買物は終わった。私が買ったアイテムは計11点。丁度一万ゴールドで具体的なアイテム名とその用途は以下の通りだった。


・道具アイテム

低品質な鉄槌(1000G)・・・金属を叩いて形を整えるために使用する。

低品質な銅金床(1000G)・・・金属を叩いて成形するための台。

低品質な鉄鉗子(500G)・・・加熱した金属をつかむための道具。

低品質な砥石(1000G)・・・武器の刃を研ぐために使用す。

低品質な銅鋳型[片手剣](1000G)・・・溶けた金属を流し込んで形を作るための型。

低品質な銅やすり(500G)・・・仕上げに金属の表面を滑らかにするために使用する。


・消費アイテム

初級火精石(500G)・・・鍛造に用いる

初級水精石(500G)・・・鍛造に用いる

初級土精石(500G)・・・鍛造に用いる

初級風精石(500G)・・・鍛造に用いる

鉄鉱石×3(3000G)・・・武器の素材


 低品質シリーズは売店にある一番安い鍛冶道具で、壊れやすく成功率バフも小さいのが短所だけど初心者でも購入ハードルが低い。そして〇精石シリーズは鍛冶をするのに毎回消費するアイテムで、レア度の高い素材を使う場合はより高級な物を使う必要がある。今回は例のごとく一番安い初級だね。そして最後の鉄鉱石は言わずもがな武器のメイン素材になって三つでこれから作る武器一本分、っていう感じかな。思ってたより必要なものが多かったなぁ。ヒスイさんが居て助かった。

 さて、そんなわけで準備は整って、いよいよ次は鍛冶フェーズだ。


 「よし、じゃあ早速始めましょ!」

 「あれ?有難いけどまだ手伝ってくれるの?」

 「折角だから最後まで付き合うって」

 「悪くない?」

 「悪くないよ~。早くいこー」


 気にしなくていいと軽く手を振る彼女に、私はお礼を言って彼女の後ろをついていく。なんと言うか、おんぶに抱っこという言葉が強く頭に浮かんだ。


 「ちなみにイチカって鍛造の流れ知ってる?」

 「大体のことは予習してるけど難しい?」

 「いや大枠を知ってれば、一応システムが教えてくれるからそれに沿ってすれば大丈夫だと思うよ。でもどうせなら見本を見てからの方が良いかも?」

 「見本かぁ、ヒスイさんが見せてくれるの?」

 「残念だけど私は武器は作らないからなぁ。でも安心して、いい奴を知ってるんだ~」

 「いい奴?」

 「そ。まぁついてきて紹介してあげる」


 そう言って軽い足取りのヒスイさん。

 いい奴というのが誰なのかは知る由もないけど、こんなわけで取り敢えず私はヒスイさんと共に工房へと向かった。 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 親切な人がいる環境は有難いけど、リリースから数日でこんなに差が開くもの? アレかな?ベータ版経験者だとか?
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