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20.レア素材の使い道

 装備を新しくして数日が経過した。

 私の現在地は、北の森に点在している洞窟の奥深く。ここのレベル帯は例外を除けば15前後、入口付近では初心者らしきプレイヤーたちが集まっているけど、今の私なら一人でも死にはしないだろう。序盤の私たちが行かなかったように、奥の方が他のプレイヤーが少なくてリソースの確保がしやすい。


 「あ、またみっけ~♪」


 鉄鉱石~鉄鉱石~………あの腐蝕さんのせいで減った武器を少しづつ補充しているから鉱石は沢山欲しいんだよねー。

 私が今使っている鉱石は二種類で、採掘で取れる銀鉱石と、鉄鉱石を素材にして練合で作れる(はがね)なんだけど銀鉱石は数を確保しにくいから(はがね)が主要な鉱石になっている。また素材にはサイクロプスの物を使っている。なんだかんだ、特殊な効果を持たずにシンプルなのは使いやすいからね。

 と、そんなわけで鉄鉱石の採掘が終われば次のポイントに向かう。道中に練合に用いる“魔土”を採取したり、立ちはだかる魔物を倒しながら探索を続ける。


 「あ、ロックゴーレムだ。いいね」


 洞窟に出現する魔物はあまり強くないから、武器素材にも経験値にもなりにくいけど意外と役に立つ魔物も一応いる。それが変異種ではないこの普通のロックゴーレムなんだよね。レベル12程度だけど鉄鉱石をドロップするから出会ったら積極的に倒してる。

 あと普通のロックゴーレムには斬撃無効なんて無法はなかったりする。そして何度か戦って分かったんだけど、ロックゴーレムには斬撃攻撃より打撃攻撃の方が効果がある。付け加えれば、ドロップ率も高くなっている気がした。たぶん魔物も倒し方によってドロップ品が変わったりするんだろうね。

 ――――それから二時間ちょっと探索を続けて鉱石を集め終えた。

 

 「鉄鉱石が94個と銀鉱石が41個っと」

 

 両手武器か片手武器かで違いがあって武器一本に使う鉱石は3~5個。だから大体30本分でそれを三日に分ける。前にも話したけど、平均して一日20本作りたいから残りの30本分の鉱石はユキから購入する。ほんと彼女には感謝しかないよね。で、魔物の素材は昨日に集めたから問題無しっと。

 一日に採掘と狩りと鍛冶してたら効率が悪いから、こうやって鉱石・素材・鍛冶の日に分けるのがポイント。平日は時間が取りずらいからこういった工夫は不可欠なんだよね。

 でも今日は比較的早く終わったからラッキーだった。これなら戻ってからも鍛冶ができそう。

 それから私は他のプレイヤーとすれ違いながら洞窟から離れて、再び森へ脚を踏み入れた。


 「すぅーはぁ~うん……空気が美味しい!」


 相変わらずこの森は、明るく自然の香りが漂っていて心地いい。じめじめとした洞窟とは大違い。

 木々の間を抜ける風が、私の新しい装備を優しく撫でて羽織をはためかせる。銀風の着物は軽くて動きやすく、通気性もある。


 「さぁて、街までか~えろっと」

 

 そう思いながら森の中を歩いていると、ふと視界の端に何かが光ったのを感じた。反射的にその方向に目を向けたら、そこには小さな生き物がいた。

 青い毛並みが美しく額の紅い宝石が眩い煌めきを放っている。あれは確か………カーバンクル……そうカーバンクルだと思う。変異種よりもレアで弱い、森に出現する幻獣で兎のような姿をした純粋なボーナスモンスター。初めて見た…………。

 私は心の中でつぶやきながら慎重にカーバンクルに近づく。カーバンクルは私に気づくと、警戒するように身を低くした。

 っ………逃げられる前に仕留めたい!


 「<転装(クイックチェンジ)/ 巨人の長槍 / No.202>」


 素早く装備を槍に変え、狙いを定める。カーバンクルは小さくて素早いけど、今の私なら確実に当てられるはず。静かに息を整え一瞬の静寂の後、槍を投げた。


 「いけっ」


 槍は風を切り、一直線にカーバンクルに向かって飛んでいく。カーバンクルは逃げようとしたけど、槍の速度には敵わなかった。槍は正確にカーバンクルに命中し、その場に倒れた。


 「やった……!!」


 私は駆け寄って、カーバンクルの消滅と、その後のドロップアイテムを確認する。

 “獣の毛皮”と“獣の肉”………ここらは普通の動物を倒したらドロップする物で……本命はこれかな?額の宝石である“カーバンクルの紅宝”……これは何に使えるのかな。宝石系のアイテムは魔法武器とかに使うのが一般的だけど……あ、<鉱石鑑定>を使えば分かるよね。宝石にも使えるのかが問題だけど………できた。



カーバンクルの紅宝

レア度:★★★★★

説明:カーバンクルの紅宝は強力な魔力を秘めた宝石である。身に着けることで、魔力が大幅に高まり周囲の自然から魔力を吸収してくれる。



 見る限りは魔法職用のアイテム、武器鍛冶には使わなさそうかなぁ………。残念ではあるけどレア度5なんて初めて見たし、売れば結構な値段がしそうなんだよね―――――いや?


 「あ、いいこと思いついた!」







 街に戻った私は足早に鍛冶ギルドに向かった。

 ギルドではいつもの賑やかな音が響いている。鉄の匂いと熱気にさらされる鍛冶師たちがハンマーを振るい、火花が飛び散る光景は何度見ても心が躍る。

 私は軽い足取りで、目的の人物を見つけた。


 「こんにちはヒスイさん!」


 居てくれて良かった。彼女とは装備を新しくしてから会えてなかったら、今日見つけられたのは幸運だった。居なかったら、それはそれでメッセージを送るつもりだったけどね。


 「わぁこんにちは~!」


 声をかけると、作業場からヒスイさんが顔を上げて、彼女はいつも通りの笑顔で迎えてくれた。


 「それでどうしたの?雑談するためっていうのも嬉しいけど……何か用事がありそうね!」

 「鋭いね」

 「まぁね~」

 「実は、カーバンクルの紅宝を手に入れて、これを使って装飾品を作って貰いたいの」


 私が紅宝を見せると、ヒスイさんの目が輝いた。


 「すごい!カーバンクルなんて滅多に出会えないのに!」

 「ちゃんとした依頼で料金も支払うけど、いいかな?」

 「もっちろん、喜んで作らせてもらうわ!どんな装飾品がいいの?」

 「神官用の装飾品でお願い」

 「わかったわ――――そうね、レアアイテムを使うなら他の素材もちゃんとしたものを準備したいから、明日また来てくれる?」

 「うん、一番の傑作を作って欲しいからね」


 カーバンクルの紅宝は明日になってから適当な商人を介して渡すことになった―――――これでよしっと。じゃあ私は鍛造でもしよ。


 「ふんふんふふ~ん♪」


 私ながらナイスアイデアだと思う。明日が楽しみだなぁ。

 





 翌日、私は再び鍛冶ギルドを訪れた。ギルドの入口をくぐると昨日と同じく賑やかな音が響いている。鉄の匂いと熱気が漂う中、ヒスイさんの姿を見つけた。


 「待ってたよ、さあこっちに来て!」


 ヒスイさんに案内されて作業台の方へ向かう。そこには既に準備が整った素材と道具が並んでいる。そして隣の作業台には何故かベルグさんが居た。


 「よっす!」

 「なんで居るの?偶然?」

 「おう、鍛冶をしようと思った来たらヒスイが居たからな。――――あとレア素材を使うみたいだから見てこうってな」

 「それはそれは」

 「イチカー始めよ~」

 「うん、わかった。じゃあ素材交換はあの仲介屋に頼もう」

 

 仲介屋は<商人>以外のプレイヤーの素材やゴールドの取引を仲介してくれる<商人>プレイヤーの俗称のことね。

 このゲームは<商人>を介さないと簡単な交換すらできない厄介で面倒くさいシステムがあるため、手数料として素材やゴールドを貰ってその仲介を行うプレイヤーが存在している。特にギルド内や広場のようなプレイヤーが集まる場所に多くて、ユキとは違う駆け出しや諸事情でお金がない<商人>たちが主にやっている印象がある。

 というわけで、カーバンクルの紅宝をヒスイさんに渡すと彼女は手際よく作業を始め、カーバンクルの紅宝を慎重に扱いながら装飾品の作成に取り掛かかる。種類は指輪らしい。

 

 「さて、始めますか!」


 ヒスイさんはまず、指輪のベースとなる銀鉱石とその他の素材を炉に入れて、高温で溶かし始めた。そして溶けて液体状になった金属を型に流し込む。そそて金属が冷却され固まるのを待ち、指輪の形をした型からベースを取り出して基本形が完成した。

 これで準備が整ったらしい。

 ヒスイさんは“カーバンクルの紅宝”をセットするための台座を、細かな彫金技術を駆使して作り始めた。そしてそれが完成すると宝石をはめ込んでしっかりと固定する。 

 最後に指輪全体を磨き上げ、細かい傷や不純物を取り除くことで表面に光沢が生まれ始める。そして指輪が輝きを放った。

 ――――初めてじっくりと見たけど、装飾品鍛冶と武器鍛冶はまた違った工程で思わず魅入ってしまった。


 「完成したわ!見てもらっていい?」

 

 ヒスイさんは完成品を見せてくれた。指輪の中央ではカーバンクルの紅宝が輝いていて、その周りを銀の細工が美しく飾っている。

 とっても綺麗……そして肝心の性能の方は…………、


アイテム名:幻獣の宝飾品

レアリティ:★★★★

装備Lv:1

防具種:装飾品

魔力:5

耐久度::100/100

特殊効果1:基礎魔力値を10%向上させる

特殊効果2:最大MPを+200させる

特殊効果3:10秒毎に最大MPの1%回復させる


 わぁ……ぶっ壊れ……ステータスの方は高くないけど、特殊効果が良すぎる。装備一つで基礎魔力値10%向上だけでも良品なのに加えて二つ。中でも特殊効果3が凄い。1000のMPがあれば1分で60も回復するってことだからね?ボス戦とか長時間の狩りになるほどその恩恵を実感できそう。


 「すごい……本当に!ありがとうヒスイさん!」

 「どういたしまして。素材がよかったお陰だけどね」

 「それでもだよ!」

 「満足して貰えたならよかったかな。私も良い経験値になったし」


 ヒスイさんは朗らかに笑った

 そして私は感謝の気持ちを込めて、ヒスイさんへ多めに料金を支払って指輪を受け取った。

 ――――うん、私には似合わなそうかな。


 「それで、それはどうするの?性能的に自分で使うわけじゃなさそうだけど」

 「うん、私は使わないよ」

 「それなら売るのか?結構な値段するだろ、それ」

 

 ベルグさんがピッケルを担いでやってきた。いま作ったやつかな?頭をかち割られそうで怖いよ。


 「好奇心なんだけどいくらくらい?」

 「そうだな……滅多に市場に出るもんでもないからな、正確な相場は分からんが数十万はするだろ」

 「数十ってすご。もう一式私の装備揃えられそうじゃん」


 そんなの聞いたら、少しだけ心が揺らぎそうになるよね。まあ売らないけど。これは日頃のお礼でユキに渡すつもりだからね。

 

 「これはプレゼントにしようって思ってるんだ」

 「あ~なるほど、それでね~」

 「ふっ、レア素材を使ったプレゼントなんて気合入ってるな」

 「そこら辺は成り行きかな、丁度いいし」


 折角手に入ったんだし、機会としてはいいタイミングだと思ったんだ。思ったより現物が高価になったのは想定外だったけど。まあ悪銭身に付かずじゃないけど、あぶく銭はパッと使った方が気持ちがいいよね。だからお金が溜まらないだけど。

 そんなことを考えていると、ヒスイさんがニヤリと笑って予想外のことを言い放った。


 「ふふ~ん、実は私もあなたにプレゼントを用意していたの」

 「え……?プレゼント?」


 ヒスイさんはアイテムポーチから小さな箱を取り出す。箱を開けると、中には美しい桜柄の髪飾りが入っていた。繊細な細工が施されていて、桜の花びらが風に舞うようなデザインだった。

 名前は“桜花の簪”というらしい………。


 「…………ありがとうヒスイさん。でもなんで?」


 突然なことで戸惑ってしまったけど、綺麗な簪でとても嬉しい。だけど理由がわからない。


 「この前、武器を沢山使わせたでしょ?そのお礼」

 「あれはそもそも、初めて会った時のお礼ってことで相殺だと思うけど……」

 「お釣りを渡すって言ったじゃん!」


 恐らく武器はフォレストサーペントの変異種と戦ったときのことで、お釣りの話はその後…………確かに言ってた気がする……。


 「ま、そういうこった。ほら、俺もお前にプレゼントがあるんだ」

 「ベルグさんまで……」


 このために居たの?ていうか……、


 「ピッケル………これお礼だったんだ……」

 「はっはっは!これくらいしか思い浮かばなかったんだ」

 「まあ、これからもよろしくってやつね。遠慮なく受け取って」

 「これで貸し借りなしだ、正真正銘な」

 「そういうことなら………うん、遠慮せず貰うね」


 ヒスイさんから貰った装飾品を早速装備してみる。


アイテム名:桜花の簪

レアリティ:★★★

装備Lv:20

防具種:装飾品

敏捷:+10 器用:+5

耐久度:100/100

特殊効果1:アイテム作成時の成功率を5%上昇させる


 何を素材にして作成したのかは分からないけど、効果が軒並み私に合わせたものになっている。本当にお礼のためだけにわざわざ作ってくれたんだと思う。

 あとベルグさんから貰ったピッケルは鋼で作られた物みたい。低品質だったり、鉄鉱石で作られたものは直ぐに耐久度が減少するから長持ちする鋼製は有難い。こっちも採掘を日常的に行う私にとっては嬉しいプレゼントに違いない。

 ピッケルはしっかり仕舞ってから、改めて二人にお礼を言った。

 



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